利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.11.22】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NU0073

利用課題名 / Title

[-1 1 1] 銅単結晶の繰り返し変形によって形成された転位組織の超高圧電子顕微鏡による観察

利用した実施機関 / Support Institute

名古屋大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

cyclic deformation, Cu single crystal, dislocation structure, deformation band, cell band,電子顕微鏡/Electron microscopy


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

宮澤 知孝

所属名 / Affiliation

東京工業大学物質理工学院

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

Wang Bohan,藤居俊之

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

荒井重勇

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NU-101:反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡システム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

[-1 1 1]方位を応力軸とした銅単結晶に繰り返し変形を行うと複数のすべり系の活動により材料内には均一なベイン状組織が形成され,wall組織へと発達することが走査型電子顕微鏡での観察により報告されている[1].さらに局所的に変形が集中した帯状の領域には変形帯(Deforamtion band, DB)が形成され,DBの内部はcellで構成される.DB内のcellもDBとは異なる方向に帯状に配列し(Cell band, CB),DBとCBそれぞれの形成面は活動したすべり系の結晶幾何学によって説明することができると報告されている[1].本研究では,cell組織の発達過程をより詳細に明らかにすることを目的とし,[-1 1 1]銅単結晶の繰り返し変形によって形成されるDBおよびCBを超高圧電子顕微鏡によって観察した.その結果,DBにおいては,主すべり面と平行なDBIと主すべり面に垂直なDBIIがそれぞれ観察された.DB内のCBは,交差すべり面に垂直かつ主すべり方向を含む{112}に沿って形成されていた.これらの結晶方位関係は活動したすべり系の幾何学から説明することが可能である.

実験 / Experimental

ブリッジマン法により銅単結晶を育成し,[-1 1 1]方位を応力軸とするドッグボーン型の疲労試験片を切り出した.疲労試験はせん断塑性ひずみ振幅をγpl = 2×10−4 – 2×10−3 の範囲で制御して,室温にて実施した.疲労後のそれぞれの試験片より薄片を切り出し,電解研磨にて薄膜化することで組織観察用試料を作製した.転位組織の観察は反応科学超高圧走査透過型電子顕微鏡(JEM-1000K RS)を用いた.転位組織を広域で観察するためSTEMモードを使用した.STEMモードを使用することでベンドコンターやシックネスフリンジを低減し,転位組織を広域で明瞭に観察することが可能となる.

結果と考察 / Results and Discussion

Fig. 1にγpl = 2×10−3 で疲労した試験片に形成された転位組織のBF-STEM像を示す.
Fig. 1(a)には応力軸に垂直な(-1 1 1) wallで構成されるwall組織を上書きするように形成されたDBが捉えられている.このDBとwall組織の境界は(1 1 -1) 面のトレースと平行である.この観察領域では(1 1 -1)[1 -1 0]すべり系が主すべり系として活動したと考えると、DBは主すべり面と平行なDBIと分類することができる.また、 DBIの内部を構成するCBは、(1 1 -2)面のトレースと平行である.(1 1 -2)面は(1 1 -1)[1 -1 0]すべり系の交差すべり面(1 1 1)に垂直かつ主すべり方向[1 -1 0]を含む面である.これは、 Maら[1]の報告した活動すべり系の結晶幾何学から導かれるDBIおよびCBの方位関係の組み合わせの一つと一致する.他方、Fig.1(b)にはwall組織の中央を横切るDBが捉えられている. このDBとwall組織の境界は(2 -1 -1) 面のトレースと平行である.この観察領域では(1 1 -1)[1 0 -1]すべり系が主すべり系として活動したとすれば、DBは主すべり面と垂直なDBIIと分類される.さらにDB内のCBは、(1 2 1)面のトレースと平行であり、この(1 2 1)面は(1 -1 1)面に垂直かつ[1 0 -1]方位を含む面である. DBII内においても、主すべり系の交差すべり面に垂直かつ主すべり方向を含む(1 2 1)面に沿ってCBが形成されたと解釈できる.Fig. 2(a)にDBII//(2 -1 -1)、CB//(121)の組み合わせで形成したDBII内のCBの三次元再構成像を示す. 再構成にあたり、γpl = 1.0×10−3 および2.0×10−3 の試験片で取得した観察像を組み合わせている.三次元再構成像の結晶学的特徴はFig. 2(b)に示すMaら[1]が報告したDBとCBの関係と一致しており、Fig. 1(b)で考察した主すべり系の結晶幾何学でDBとCBの形成面を説明することができたといえる. 今後は、cell境界の形成・発達過程を明らかにするために、cell境界の転位ネットワークを構成する転位のバーガースベクトル解析を進めていく.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1 wall組織を横切る(a)DBIと(b)DBIIのBF-STEM像



Fig. 2 (a)DBII内で(121)面に沿って配列したCBの三次元再構成像.(b)Maら[1]の報告した結晶幾何学と一致する.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞 超高圧電子顕微鏡による転位組織観察においては名古屋大学 荒井重勇特任准教授の厚いご支援を賜りました.特記して謝意を表します.
参考文献 [1]   T. Ma, K. Chahara, T. Miyazawa, T. Fujii: International Journal of Fatigue, 162(2022), 106953.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Bohan Wang, Characterization of dislocation microstructures in near-[111] single crystal copper using high-voltage scanning transmission electron microscopy, Materials Science and Engineering: A, 862, 144482(2023).
    DOI: 10.1016/j.msea.2022.144482
  2. Bohan Wang, Formation mechanism of dislocation network of cell structure in cyclically deformed near-[111] copper single crystals, Materials Science and Engineering: A, 879, 145287(2023).
    DOI: 10.1016/j.msea.2023.145287
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. ○宮澤知孝,Wang Bohan,梅田侑暉,藤居俊之,大塚真弘,荒井重勇,武藤俊介,"繰り返し変形した[-111]銅単結晶のセル境界を構成する転位ネットワークの超高圧電子顕微鏡観察",日本顕微鏡学会 夏の電子顕微鏡解析技術フォーラム:一般講演(東レ総合研修センター),2023年8月4-5日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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