【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS1038
利用課題名 / Title
InP系コアシェル型ナノ結晶の界面ポテンシャルが及ぼす励起子素過程の調査
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
半導体量子ドット, コアシェル構造, 励起子素過程
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
江口 大地
所属名 / Affiliation
関西学院大学理学部化学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
Lee Junseo,出嶋 拓未,山下 大樹,山田 彩莉
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
半導体に生成する励起子を微小空間に閉じ込めることで量子サイズ効果が発現し、この量子サイズ効果が発現する物質群を半導体ナノ結晶 (NCs) と呼ぶ。NCsは粒径に応じた電子構造を有し、パルス励起後の初期過程といった励起子素過程も同様に粒径依存性を示すことが報告されている [1]。ここに異種半導体をエピタキシャル成長させ、コアシェル構造にしたコアシェル型NCs (c/s NCs) において、その物性は成長させる異種半導体に支配される。コアの粒径が異なることで、励起子を閉じ込める空間の大きさが変化し、シェルへの電子や正孔の波動関数の染み出しの大きさが変化するが、励起子素過程に及ぼす影響は未解明なままである。そこで、本研究では、粒径が異なるInPを合成し、そこにシェルをエピタキシャル成長させ、フェムト秒過渡吸収分光測定により、コアの粒径の違いが励起子素過程に及ぼす影響を明らかにする。
実験 / Experimental
ホットインジェクション法によりコアとなるInP NCsを合成した。合成時に用いる前駆体や反応温度を最適化することで、粒径が異なるInP NCsを合成し、そこに対してZnSeとZnSシェルを逐次的にエピタキシャル成長させた (InP/ZnSe/ZnS NCs)。得られたNCsの構造解析は透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察、粉末X線回折測定、定常光の吸収と発光スペクトル測定により構造解析を行った。フェムト秒過渡吸収分光測定により励起子素過程の解析を行った。分子科学研究所機器センター施設利用により、TEM観察を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
TEM観察の結果から、コアの粒径は1.8±0.4と2.7±0.4 nmであり、ここにZnSeとZnSシェルを形成させた。シェル形成過程とコアの粒径が大きいInPのそれぞれの過程のTEM像を示す (図)。InP/ZnSe NCsとInP/ZnSe/ZnS NCsはそれぞれ4.6±0.9と5.5±1.0nmであり、ZnSeとZnS層は~2.9と~1.5原子層が形成したことが分かった。定常光の吸収と発光スペクトルの結果から、励起子吸収と極大発光波長は長波長側にシフトした。これはコアに閉じ込められた電子や正孔の波動関数がシェル側に染み出したためである。また、コアシェルにすることで発光量子収率が上昇していることから、コア表面に存在する欠陥が抑制されたと考えている。フェムト秒過渡吸収分光測定の結果より、コアの粒径が異なるc/s NCsでも励起子吸収に対応するブリーチ信号が観測された。この励起子吸収のダイナミクスの立ち上がりは、パルス励起後に生成したホット電子の緩和過程に対応する。それぞれのc/s NCsで比較すると、コアの粒径が小さいc/s NCでは立ち上がりが二成分であるのに対して、コアが大きいc/s NCsでは一成分であった。このコアの粒径が小さいc/s NCsで立ち上がりが二成分であったのは、励起波長である400 nmでの吸光度がシェルであるZnSeの寄与が大きく、ZnSeからInPへ電子移動が起きているためであると考えている。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図. (a) InP/ZnSe/ZnS NCsの合成過程。(b) InP NCs, (c) InP/ZnSe NCsと(d) InP/ZnSe/ZnS NCsのTEM像 (上段) とそのヒストグラム (下段)
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献
[1]
M.
G. Bawendi et al, Phys. Rev. B 1999, 60, 13740.
[2] Z. Hens et al., ACS Nano 2022,
16, 9701.謝辞
本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチ事業課題 (課題番号: JPMXP1222MS1038) として分子科学研究所の支援を受けて実施した。TEM観察においては分子科学研究所特任専門員の伊木志成子様にお世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 1.江口大地, 川嶋英佑, 中嶋隆人, 玉井尚登, “ホスフィン保護Au11クラスターの超高速キャリアダイナミクスにおける配位子効果” 2022年光化学討論会, 令和4年9月13-15日
- 2.尾野豪輝, 江口大地, 玉井尚登, “スピロピラン誘導体-PbS QDs複合系の可逆的誘電環境変化と励起子ダイナミクス” 2022年光化学討論会, 令和4年9月13-15日
- 3.東優斗, 江口大地, 玉井尚登, “CdSe/ZnSコアシェル型ナノプレートレットの合成と励起子過程の解明” 2022年光化学討論会, 令和4年9月13-15日
- 4.稲田一輝, 江口大地, 玉井尚登, “InP系コアシェル量子ドットにおける励起子素過程の界面ポテンシャル依存性” 第16回分子科学討論会, 令和4年9月19-22日
- 5.小竹誠, 江口大地, 玉井尚登, “CdTe量子ドットの励起子素過程と圧力効果” 第16回分子科学討論会, 令和4年9月19-22日
- 6.加古稜人, 江口大地, 玉井尚登, “CdSeナノプレートレット-アクセプター複合系のホット電子緩和と電子移動” 第16回分子科学討論会, 令和4年9月19-22日
- 7.多賀祐樹, 江口大地, 玉井尚登, “Type-I型コア-シェル量子ドットのホット電子移動とシェル厚み依存性の研究” 第16回分子科学討論会, 令和4年9月19-22日
- 8.江口大地, 玉井尚登, “InP系コアシェル量子ドットにおける超高圧下での超高速分光” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 9.出嶋拓未, 江口大地, 玉井尚登, “トリ(2-ナフチル)ホスフィンで保護された金クラスターの合成と超高速緩和ダイナミクス” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 10.山村拓摩, 江口大地, 玉井尚登, “CdTe量子ドットとアクセプター分子複合系でのホット電子移動過程の自由エネルギー変化依存性” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 11.竹内蓮, 江口大地, 玉井尚登, 王莉, “超高圧下での金ナノロッドの局在表面プラズモン共鳴” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 12.Lee Junseo, 江口大地, 玉井尚登, 王莉, “ZnSe系ナノプレートレットの合成と励起子ダイナミクス” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 13.日原将貴, 江口大地, 玉井尚登, 王莉, “ZnSe系コアシェル量子ドットの合成と励起子素過程” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 14.山下大樹, 江口大地, 玉井尚登, “半導体量子ドット-チオール系有機配位子複合系の超高圧下での光物性” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
- 15.山田彩莉, 稲田一輝, 江口大地, 玉井尚登, “銅イオンをドープしたInP/ZnSコアシェル量子ドットの励起子素過程” 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月22-25日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件