【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.14】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23NM5220
利用課題名 / Title
ナノ粒子の構造分析と特性評価
利用した実施機関 / Support Institute
物質・材料研究機構 / NIMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials
キーワード / Keywords
フォトニクス/ Photonics,ナノ粒子/ Nanoparticles
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
白幡 直人
所属名 / Affiliation
物質・材料研究機構
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
Hong-Tao Sun,Kazuhiro Nemoto,Xiaoyu Huang,Roy Shilaj,Subhashri Chatterjee,Jiakai Chen,Binbin Zhang,Cong Zhang
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
Mie Utsunomiya,Eiichiro Watanabe,Ikue Minohara,Misa Yoshida,Hideyuki Yasufuku
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NM-609:電子銃型蒸着装置 [ADS-E86]
NM-202:硬X線光電子分光分析装置(HAX-PES/XPS)
NM-503:200kV電界放出形透過電子顕微鏡(JEM-2100F1)
NM-504:200kV電界放出形透過電子顕微鏡(JEM-2100F2)
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
赤外光を高感度で検出できるディテクターは光通信、顔認識、ジェスチャー認識、地上マッピング、ナイトビジョン、セキュリティ監視などの分野で広く利用されている。それらデバイスの光感応層を担う固体半導体は一般に材料組成と結晶構造が決まれば、電子構造が一義的に決まってしまうので、光検出波長域を制御することはできない。例えばシリコンフォトディテクターの光検出はおおよそ850nmよりも短波長域に限定される。光検出波長域を目的用途に応じて自在に制御するための方策の一つは、タンデム型半導体量子ドット活性層を光感応膜に用いることである。本研究では、赤外波長域に光吸収極大をもつ新しい半導体ナノ粒子を湿式合成し、それらを活性層にもつ赤外フォトディテクターのプロトタイプを創製することを目的とし研究を進める過程で、III-V族系半導体のInSb、そして錫系ペロブスカイト構造をもつナノ粒子の合成に成功した。一部のナノ粒子については、光学活性層に用いてフォトディテクターを作製、光応答特性を評価した。
実験 / Experimental
1) InSb量子ドットの湿式合成
臭化インジウムと臭化アンチモンをAr中240℃に加温した水素還元剤を含むオレイルアミン中へ注入することでInSb結晶を成長させた。In/Sbモル比は1ー1.25の間で変化させInSb単相が得られる最適値を決定した。生成物の精製は遠心法で行った。
2)非鉛系ペロブスカイト結晶のナノ粒子合成
ここではヨウ化セシウムスズ(CsSnI3)ナノ結晶の粒子をコロイド合成した。具体的にはTOP-Sn-I前駆体をスズオクトエート [Sn(Oct)2]、ヨードトリメチルシラン (TMSI)、トリオクチルフォスフィン (TOP)、を室温で混合することで得た。炭酸セシウムとオレイン酸の混合物をデガスすることで得たオレイン酸セシウムを80℃で熱したオレイルアミン及びオクタデセンへ注入し130℃へ昇温した。TOP-Sn-I前駆体を加え60秒後にクエンチさせた。
3)ナノ粒子の分析
粉末X線回折及びRaman分光による結晶相の同定、透過型電子顕微鏡法による結晶粒子サイズの測定、XPSによりナノ粒子の結合状態を評価、FTIRおよびNMRを使いナノ粒子の表面リガンドを評価した。
4)短波赤外(SWIR)フォトディテクターのプロトタイプ作製
InSb量子ドットの表面リガンドをオクタン/DMFの二相系でオレイルアミンから臭化インジウムに置換した。フォトディテクターのデバイス構造は、PEDOT:PSSをホール輸送層、ZnOを電子輸送層にもつITO/PEDOT:PSS/InSb/ZnO/Alのフォトダイオード構造とした。Al電極以外はAr雰囲気中でスピンコート法で成膜した。デバイス特性は、ハロゲンランプを光照射源とし、モノクロメータで照射光の波長を選択、I-V計測を行うことで評価した。応答速度はオシロスコープを用いて計測した。
結果と考察 / Results and Discussion
1) InSb量子ドットの湿式合成
In/Sbモル比を1~1.25の間で変化させたとき、In/Sb=1.1において単相のInSb結晶相を得た。XPSにより精製物の化学状態を分析したところ、図1(a)と(b)に示すように、In-Sb結合に起因するピークが支配的で、In-Oに帰属されるピークは現れなかった。一方、Sb-Oに帰属されるピークが僅か確認されたことから、精製した結晶の最表面はSbで終端されており、一部酸化が進んでいると議論された。また、ホットインジェクションの反応温度は240℃以上の時にアモルファスInSb相が生成しないことをRaman分光から明らかにした(図1(c))。このことは透過型電子顕微鏡像からも明らかであった。図1(d)に代表的なHR-TEM像を示す。粒子径はおおよそ4-7nmで粒度分布は広かった。一方で、各々の粒子において結晶の格子縞は明瞭に観察された。図1(e)に精製後のサンプルを示す。合成物の精製が不十分であると黒色で粘性のある生成物が得られたが、充分に精製された場合図1(e)に示すような固体状の粉末として得られた。それら粒子の表面はオレイルアミンで修飾されているために、ヘキサンなどの低極性の溶媒に高分散し、図中では100mg/mLの高濃度でも沈殿せずにコロイド分散したナノ粒子インクが得られた。
2)非鉛系ペロブスカイト結晶のナノ粒子合成
本研究で合成対象としたCsSnI3において蛍光量子収率が高いナノ結晶を得るには、SnxIy(Oct)2x-yの化学式で示されるオリゴマーを中間体として形成することが重要であることが多核NMR分析と分光分析から明らかとなった。また、Sn(Oct)2の重合度が高いほどTOP-Sn-I前駆体の反応性が強くなることも明らかとなった。TOP-Sn-I前駆体をオレイン酸セシウムへ注入すると、オレイン酸セシウムがその中間体と急速に反応しバースト核生成すると考えられるので、中間体の生成比はナノ結晶の核生成と成長に影響を及ぼし、結晶サイズや粒度分布に影響を及ぼすと考えられる。おそらくこの中間体を経て結晶が成長するときには構造欠陥の形成が抑制されるのであろう。なぜなら、構造欠陥の形成は各構成元素の化学ポテンシャルに敏感であるためである。その結果、どの中間体を経由するかで最終生成物の蛍光量子収率に大きな差が出ると議論した。
3)短波赤外(SWIR)フォトディテクターのプロトタイプ作製
臭化物前駆体からホットインジェクション法で湿式合成したInSb QDがSWIR波長域の光に対して効率良く応答することをフォトダイオードを作製することで初めて明らかにした。本研究で合成したInSb QDはオレイルアミンリガンドで終端されており、その場合光電流は得られなかったが、オレイルアミンリガンドを臭化インジウムに置き換えることによってSWIR光に対する応答特性を得た(図2参照)。そのメカニズムを明らかにするためにGXRDとHR-TEMを使いQD薄膜の粒子間距離を計測したところ、粒子間距離が、5.0±0.5 nmから2.6±0.3 nmへと短くなったことが明らかとなった。その結果、膜内のキャリア移動度が大幅に向上し、SWIR光に対して高い光応答速度が得られ、低い暗電流密度が得られたと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. オレイルアミン終端InSb QDの(a)XPS In3d, (b) Sb3dプロファイル,(c) Ramanスペクトル,(d) HR-TEM像及び(e)固体状とコロイド溶液の写真
図2.InSbを活性層に具備するSWIRフォトダイオードとSWIR光に対する応答特性
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Bin-Bin Zhang, Mechanistic Insight into the Precursor Chemistry of Cesium Tin Iodide Perovskite Nanocrystals, ACS Materials Letters, 5, 1954-1961(2023).
DOI: 10.1021/acsmaterialslett.3c00413
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Subhashri Chatterjee, Solution-Processed InSb Quantum Dot Photodiodes for Short-Wave Infrared Sensing, ACS Applied Nano Materials, 6, 15540-15550(2023).
DOI: 10.1021/acsanm.3c02221
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Xiaoyu Huang, Solution-Processed UV Photodiodes Based on Cs2Ag0.35Na0.65InCl6 Perovskite Nanocrystals, ACS Applied Nano Materials, 6, 20389-20397(2023).
DOI: 10.1021/acsanm.3c04427
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Xiaoyu Huang, Highly efficient, self-powered UV photodiodes based on leadfree perovskite nanocrystals through interfacial engineering, Nanotechnology, 35, 035701(2023).
DOI: 10.1088/1361-6528/ad0303
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Naoto Shirahata, Kazuhiro Nemoto, Subhashri Chatterjee, "Colloidal Semiconductor Nanocrystals for Solution-processed Optoelectronic Applications", WPI-MANA International Symposium 2023, NIMS, Tsukuba, Nov. 9-10, 2023
- Binbin Zhang, Jiakai Chen, Cong Zhang, Naoto Shirahata, Hong-Tao Sun, "Mechanistic Insight into the Precursor Chemistry of Cesium Tin Iodide Perovskite Nanocrystals", International Conference on Powder and Powder Metallurgy 2023, Doshisha University, Kambaikan, Oct. 16-18, 2023
- Subhashri Chatterjee, Naoto Shirahata, "InSb Quantum Dots for SWIR Photodiode", International Conference on Powder and Powder Metallurgy 2023, Doshisha University, Kambaikan, Oct.
- Xiaoyu Huang, 白幡直人, "非鉛ペロブスカイト粒子の合成とフォトダイオードの創製", 粉体粉末冶金協会2023年度秋季大会(第132回講演大会)同志社大学 寒梅館, 10/19-20
- 白幡直人, "チューナブル発光/受光材料", NIMS材料技術展示会2023, 東京国際フォーラム, 2023.10.11
- Xiaoyu Huang, 白幡直人, "ダブルペロブスカイトナノ粒子の合成とフォトダイオード創製", 日本セラミックス協会第36回秋季シンポジウム, 京都工芸繊維大学, 2023.09.06-08.
- 根本一宏, 白幡直人, "InP/ZnSコアシェル構造制御に基づくオプトエレトロニクス素子性能増強", 日本セラミックス協会第36回秋季シンポジウム, 京都工芸繊維大学, 2023.09.06-08.
- 根本一宏, 白幡直人, "コヒーレントコアシェル構造を有する InP/ZnSナノ結晶の合成と応用", 日本化学会第103春季年会 東京理科大学
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件