【公開日:2023.07.28】【最終更新日:2023.05.26】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22BA0029
利用課題名 / Title
走査型電子顕微鏡を用いたプラズマ照射された金属の表面・断面観察
利用した実施機関 / Support Institute
筑波大学 / Tsukuba Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/Electron microscopy,イオンミリング/Ion milling,集束イオンビーム/Focused ion beam,赤外・可視・紫外分光/Infrared and UV and visible light spectroscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
皇甫 度均
所属名 / Affiliation
筑波大学
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術代行/Technology Substitution
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
BA-003:FIB-SEM
BA-008:電界放出型走査電子顕微鏡
BA-015:X線光電子分光装置
BA-018:イオンミリング
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
核融合科学において、水素及びヘリウムのプラズマとタングステンなど耐熱性金属の相互作用により、金属表面及び表面近傍には様々な構造変化及び結晶方位の乱れが生じる。また、炉壁への熱負荷低減のために使用されるアルゴンなど冷却用ガスイオンは表面構造の様態をさらに複雑にする。これらは核融合炉壁である上記金属の耐熱性能や核融合炉の性能発揮に大いに影響するため、詳細な構造観察が必要である。したがって、本研究では定常プラズマ装置で生成したヘリウムプラズマに金属試料を照射したのち、その試料の表面及び表面近傍の断面等を詳細観察することを目的とし、その実施内容を報告する。報告内容は大きく分けて2つに分けられる。一つは、プラズマと金属を共堆積させたときの表面観察結果、一つは複数のガスの混合プラズマに照射した金属表面の観察結果である。
実験 / Experimental
実験は小型プラズマ生成装置APSEDASを用いた。図1にAPSEDASの概略とともに、プラズマ金属共堆積実験の模式を示す。APSEDASはRF(13.56 MHz)周波数を用いており、外部磁場により比較的高密度もプラズマを生成可能である。99.95%タングステン板(10x10x0.2 mm3)を水冷試料台に設置し、試料上部10 mmにタングステンのスパッタリング用リングを設置した。ターゲットである試料はグラウンド接地され、スパッタリング用リングは外部電源に接続し、負のバイアス電圧を印加した。Heガスを容器内に一定圧力になるまで注入し、ヘリウム(He)プラズマを生成した。リングのバイアス電圧を調整することで共堆積するタングステンの量を調整し、照射後の試料を表面観察した。一方、混合プラズマ照射時には、図1のリングを接続した試料導入棒に10x10x0.2 mm3サイズのタングステン試料を接続し、プラズマ中心に挿入した。試料への印加電圧を負に調整し、注入ガスはHeに加えて一定割合のアルゴン(Ar)を追加した。この場合、試料へ印加されるバイアス電圧はHe及びArがタングステンをスパッタリングさせるのに十分なエネルギーを与え、試料には正味のスパッタリングが発生する。照射後、試料表面をSEMで観察した。
結果と考察 / Results and Discussion
図2にHeプラズマとタングステンを共堆積した場合の試料表面を示す。未照射タングステン面が表面に製造時の突起や研磨痕などを有したのに対し、共堆積照射後の表面では異様な円形構造とともに明度の低い線状構造が観察された。表面にタングステンが堆積し、Heイオンが同時照射されることで微細構造を形成したと考えられる。図3に、同じ表面の断面構造を示す。下部のバルクタングステン面は横に伸びる結晶粒が鮮明に観察される。横に伸びる結晶粒は熱圧延過程で製造されたタングステン板試料の特有な性質である。一方、上部にはプラズマ照射による共堆積層が形成された。共堆積層とバルク面の間には空洞が存在した。これは、図2で見えた円形構造と同じ位置に存在しており、円形に突出した構造の内部には空洞が存在すると考えることができる。図3(b)は共堆積層の拡大図である。共堆積層にはバルク面とは異なり結晶粒が観測されなかった。マグネトロンスパッタリングコーティング膜の場合でも結晶の形成が見受けられないことから[1]、図3の堆積層もバルク面の変形ではなく、タングステンの堆積によって生成された層であると言える。堆積層には明度に変化が観察された。これは、プラズマ照射時にプラズマもパワー及びスパッタリング電圧を調整したことが原因であり、プラズマ密度と堆積するタングステン粒子数の割合によって堆積層の質が変化することを示唆する。 一方、HeとArの混合プラズマ照射では全く異なる表面変化を発生した。その表面観察結果を図4に示す。図4の地面は未照射タングステン面をほとんど変化せず、滑らかな面に不均一な微細構造を持つことが分かる。一方、数十 μmサイズの突起構造が不規則に形成されることが観察された。これは、ナノ構造バンドル(nano-tendril bundles)と呼ばれる島状突起構造であり、タングステンのスパッタリングと再堆積によって形成されると考えられている[2]。APSEDASでナノ構造バンドルの形成が確認されたのは今回が初めてであり、世界の他の装置と同じ条件で同様な結果が確認できた点で実験の有効性が立証される。突起状構造は不規則に成長したが、表面に数十 nmサイズのナノ構造は確認されない。これは、スパッタリング能力の高いArの割合が過度であったためと考えられ、今後HeとArの存在比の精密な調整によりバンドル構造の制御が可能であることが期待される。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 タングステンとプラズマ共堆積実験の模式図
図2 ヘリウムプラズマとタングステン共堆積が起きたタングステン試料表面のSEM図
図3 ヘリウムプラズマとタングステン共堆積層の断面SEM図(a)とその拡大(b)
図4 ヘリウムーアルゴン混合プラズマ照射により表面に形成したナノ構造のSEM図
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1] I.L Velicu et al., Applied Surface Science 424 (2017) 397–406.[2] D. Hwangbo et al., Nuclear Materials and Energy 18 (2019) 250–257.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 高津克朋他, "ヘリウム-タングステン共堆積層における重水素吸蔵特性," プラズマ・核融合学会第39回年会, 2022年11月22日, 22P41
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件