【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.11.21】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22NU0058
利用課題名 / Title
先端電子顕微鏡群によるナノ材料の物性解析及び可視化
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋大学 / Nagoya Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
ナノ材料,走査/透過電子顕微鏡,化学イメージング,電子チャネリング,電子顕微鏡/Electron microscopy,イオンミリング/Ion milling,集束イオンビーム/Focused ion beam,電子分光,ナノカーボン/ Nano carbon,ナノ粒子/ Nanoparticles
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
武藤 俊介
所属名 / Affiliation
名古屋大学
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
大塚真弘,斎藤元貴
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
荒井重勇
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NU-102:高分解能電子状態計測走査透過型電子顕微鏡システム
NU-105:バイオ/無機材料用高速FIB-SEMシステム
NU-106:試料作製装置群
NU-101:反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡システム
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近代社会を支えるテクノロジーにかかわる電池,触媒,磁石,構造材料における諸問題を電子顕微鏡及びそれに付随する分光分析によって解決する.特に走査TEMによって網羅的に得られたビッグデータを機械学習のテクニックを援用して,様々な先進機能材料において従来では得られなかった微小シグナル,微量元素,隠れた欠陥などをナノメートル分解能で抽出・可視化する.
実験 / Experimental
機能性材料の解析のために,目的に応じて収差補正分析電子顕微鏡EM-1000BU, JEM-ARM200F Cold,電子分光STEM JEM-2100Mを使用した.また試料作製にはFIB-SEM装置NX-5000 ETHOSや超低エネルギーイオンビームTEM試料作製装置Nano Millを利用した.
結果と考察 / Results and Discussion
①電子チャネリングによるサイト選択的分析法の高度化: 我々はビームロッキング法を用いたサイト選択的な不純物・ドーパント・点欠陥の定量状態分析法の高度化に取り組んでいる.これまで,電子顕微鏡分野の共通の分析プラットフォームGatan Microscopy Suite (GMS)で動作するビーム制御ソフトウェアQEDの拡張により電子レンズ系の収差に起因したビームロッキング時のピボットポイントの揺動を低減し,プローブ径を30nmまで縮小した.しかし,ソフトウェア制御であるためにビームや検出器の制御におけるオーバーヘッドが大きく多数の電子回折条件(サンプリング点)に渡る計測を行うには計測時間という点で課題が残っている.そこで,比較的高速に取得可能な電子チャネリング図形から少数の有意なサンプリング点を選定し,それらから得る少数の蛍光X線スペクトルセットを得る方法を検討した.この方法においても,ドーパントのサイト占有率を十分な精度で定量化できることがわかり,局所領域を狙ったハイスループットなサイト選択的分析が実現し得ることが明らかとなった.
②電子エネルギー損失カイラル二色性(EMCD)測定によるFePtナノ粒子の隣接スピン構造: L10 型FePt合金ナノ粒子は高い磁気異方性と保持力を持つ磁気記録媒体としての応用が期待されている.FePt膜の隣接スピン方向は実験的に強磁性的(平行)と考えられていたが,フェリ磁性的(反平行)である報告もなされている.そこでナノビームによるTEM-EELSを用いて図1に示すような二種類のFePtナノ構造膜についてFe-M2,3 ,Pt-O2,3 ,Pt-N6,7 及びFe-L2,3 吸収端スペクトルに古典的EMCD法を適用した。また実験結果との比較のためにWien2kのOpticalコードを使ってFePt合金の誘電関数を計算した.その結果,ネットワーク構造膜(図1左)のFe-Pt隣接スピンは平行,ナノ粒子構造膜(図1右)の隣接スピンは反平行であることが明らかになった.
③電子チャネリングカソードルミネッセンス分光による希土類賦活赤色蛍光体の解析: 発光賦活希土類イオンEu3+ を添加したCa2 SnO4 赤色蛍光体に電子線を照射すると、Eu3+ f-f遷移に伴う鋭い発光線を示すカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを示す.本研究では,このCL強度に対する電子チャネリング条件(電子回折条件)が及ぼす影響について詳細に検討した.微量添加したEuのCa/Snサイトに対する占有率はEu単添加(Eu:CSO)とEu/Y共添加試料(Eu,Y:CSO)によって異なる.図2はビームロッキングに対するEu-L線及びCL強度の変動パターンの比較であるが,双方でEu占有サイト変化に起因した強度分布の違いが観測された.従って,価電子励起・緩和による発光過程であってもEuサイトに局在化していることが示唆された.電子チャネリング効果とCLの組み合わせによる発光サイト解析の可能性が拓かれたことを意味する.
④Al合金中の時効析出物の分析: Al-Mg-Si合金は時効熱処理によりクラスタや析出物が形成し強化される.180℃の時効においてβ’’相が析出することは既に知られているが,100℃の等温時効における生成物の構造が不明であるため、走査透過型電子顕微鏡を用いた分析を行った.図3は各時効時間における時効生成物のSTEM-EDSマッピング分析結果である.1hの時効で既にMgとSiの集積が確認され,時効時間が長いほど生成物中のSiとMgの濃度が増加した.STEM観察結果から,10hおよび400h時効材ではβ''相の析出が認められたが,1hではβ''相は観察されず,まだクラスタの段階であることがわかった.この結果は,硬さやDSCの変化ともよく一致した.
⑤EuドープAlN蛍光体の構造解析: LEDや電界放出型ディスプレイ用の蛍光体として,化学的・熱的安定性に優れたEuドープAlNの開発が進められている.本研究では透過型電子顕微鏡を用いてEu、SiドープAlN蛍光体の構造解析を行った.図4はEu,Si添加AlN蛍光体のSTEM-EDSマッピング分析の結果であり,粒内にEu,Si,Oを含む層が形成していることがわかる.高分解能STEM像やEELS分析との対応から,EuはAlNの極性の反転によってできる面欠陥中のNサイトに2価でドープされていることがわかり,同時にドープされたSiやOによって電荷のバランスが保たれていると考えられる.さらに,カソードルミネッセンス測定から,Euがドープされる層の間隔や酸素濃度の違いが発光波長に影響する可能性が示された.今後は、SiやOの役割やEuの配位環境の違いが発光波長に与える影響を検討する.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 測定した二種類のFePtナノ構造フィルムのS/TEM像.
図2 Eu:CSO及びEu:CSO試料における電子線入射角度に対するEu-L線(a)及びCL (b)発光強度の変調パターンの比較.
図3 EDS maps of samples aged at 100 ºC for (a) 1 h, (b) 10 h, and (c) 400 h.
図4 STEM-EDS mapping of the Eu,Si doped AlN phosphor.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
研究題目④は科学技術交流財団研究会「構造材料の時空間階層構造と社会還元」にて行われた.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Akimitsu Ishizuka, Automating ALCHEMI at the nano-scale using software compatible with PC-controlled transmission electron microscopy, Journal of Applied Crystallography, 55, 551-557(2022).
DOI: 1doi.org/10.1107/S1600576722003818
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Hitoshi Makino, A study on the relationship of magnetic moments orientation in L10 FePt network nanostructured film by electron energy-loss magnetic chiral dichroism using semi-core excitation spectra, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 558, 169522(2022).
DOI: 10.1016/j.jmmm.2022.169522
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Shunsuke Muto, STEM-EELS Spectrum Imaging of an Aerosol-Deposited NASICON-Type LATP Solid Electrolyte and LCO Cathode Interface, ACS Applied Energy Materials, 5, 98-107(2021).
DOI: 10.1021/acsaem.1c02512
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Zhujun Zhang, Binary dopant segregation enables hematite-based heterostructures for highly efficient solar H2O2 synthesis, Nature Communications, 13, (2022).
DOI: 10.1038/s41467-022-28944-y
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 渡辺海斗, 齊藤元貴, 武藤俊介, 水野和也, 佐野大和, 高田健, Iesari Fabio, 神谷和孝, 岡島敏浩, “低温時効したAl-Mg-Si合金中のクラスタ形成過程のマルチスケール分析”, 日本金属学会2023年春期講演大会, 令和5年3月7日.
- 高田健, 水野和也, 佐野大和, 渡邉海斗, 齊藤元貴, 武藤俊介, Iesari Fabio, 神谷和孝, 岡島敏浩, “アルミニウム合金における等温析出挙動―SAXS測定”, 日本金属学会2023年春期講演大会, 令和5年3月10日.
- 齊藤元貴, 渡辺海斗, 武藤俊介, 水野和也, 佐野大和, 高田健, Iesari Fabio, 神谷和孝, 岡島敏浩, “アルミニウム合金における等温析出挙動 - STEM 観察&EDS分析”, 日本金属学会2023年春期講演大会, 令和5年3月10日.
- 水野和也, 佐野大和, 高田健, 渡辺海斗, 齊藤元貴, 武藤俊介, Iesari Fabio, 神谷和孝, 岡島敏浩, “アルミニウム合金における等温析出挙動 - DSC測定”, 日本金属学会2023年春期講演大会, 令和5年3月10日.
- 大塚真弘, 忽那真也, 武藤俊介, “HARECXS法によるBaTiO3中の各種ドーパントの占有サイト解析”, 日本顕微鏡学会 第78回学術講演会, 令和4年5月12日.
- 武藤俊介, 駒井心一, 大塚真弘, “STEM-EELS吸収端広域微細構造のスパースモデリングによるD-W因子マッピング”, 日本顕微鏡学会 第78回学術講演会, 令和4年5月12日.
- 牧野仁志, 武藤俊介, 大塚真弘, Hermann A. Durr, Jan Rusz, 高橋 有紀子, “EMCDを用いたFePt合金ナノ構造のスピン磁気モーメントの分析”, 日本顕微鏡学会 第78回学術講演会, 令和4年5月12日.
- 大塚真弘, 忽那真也, 武藤俊介, "HARECXS及び原子分解能STEMによるBaTiO3中のドーパント占有サイトと原子変位の解析", 日本顕微鏡学会第78回学術講演会, ビッグパレットふくしま, ハイブリッド開催, May 11-13, 2022.
- 難波太南, 齊藤元貴, 原田和人, 鏡晴, 燃焼合成されたEu, Si添加AIN蛍光体のTEM分析, 粉体工学会2022年度春期研究発表会, 姫路・西はりま地場産業センター(じばさんびる), May 17-18, 2022.
- S. Muto, "Seeking True Collaboration between Electron Microscopy and X-ray Spectroscopy by Materials Informatics," The 20th International Microscopy Congress (IMC20), Busan Exhibition and Convention Center (BEXCO), Busan, Korea, Sep. 10-15, 2023.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件