利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.22】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23MS0008

利用課題名 / Title

多形により機械的柔軟性が異なる錯体分子結晶の結晶表面状態の観察と機械特性の定量化

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

錯体, 分子結晶, 塑性, 脆性, ハンドツイスト, 弾性率, SPM, AFM


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

萩原 宏明

所属名 / Affiliation

岐阜大学教育学部

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

湊丈俊,上田正

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-204:走査プローブ顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

近年、有機分子からなる分子結晶の機械特性が注目されている。外力によって不可逆に曲がる(塑性変形する)結晶や可逆的に曲がる(弾性変形する)結晶、手でねじれるほど柔軟な結晶(ハンドツイスト結晶)等が次々と見出されており、「分子結晶 = 脆い」という従来の概念はもはや覆され、高分子とは異なる新たなフレキシブル材料の候補として期待が高まっている。一方、金属錯体分子結晶の機械特性に関する研究例は少なく、弾性変形を示す分子結晶は数例見出されているものの、有機結晶で報告されているような手でねじれるハンドツイスト結晶の報告例はない。 このような中、申請者の研究室では、手でねじれるほど柔軟な銅(II)錯体分子結晶(多形1A)の結晶化に成功した。さらに、この銅(II)錯体の結晶化条件を変えることで、外力により脆く割れる多形1Bの結晶化にも成功した。本研究課題では、多形1A1Bの機械的柔軟性の違いを、走査プロープ顕微鏡(SPM)測定による結晶弾性率をもとに定量的に比較し、結晶構造の違いとの関連を見出すことを目的としている。昨年度までの実験で、測定ごとに弾性率がばらつく原因として、エタノールを利用した結晶固定やサンプルの長期保存により結晶の劣化が進行していることが示唆された。そこで今年度は、再現性を含めて弾性率の値の信頼性を高めていくため、①結晶固定法を接着剤による固定に変更、②測定日直前に結晶化したフレッシュなサンプルを利用、の2点によりサンプル調製法を改良した上で定期的な測定を進めた。

実験 / Experimental

走査型プローブ顕微鏡(Bruker Dimension XR Icon NanoE or NanoEC):各錯体の単結晶をシリコン基板(ニラコ 500440, 2 cm×2 cmにカットしたもの)上に置き、少量の接着剤(アロンアルファ耐衝撃EXTRA  #04655)を用いて結晶底面全体を接着した。この測定試料を装置内に導入し、室温にて表面形状を観察した。まず2 μm×2 μm範囲の表面形状を観察し、平坦な面を探した後、異物やくぼみがない100 nm×100 nmの範囲に絞って表面形状を観察した。続いて、その領域のフォースカーブ測定(Force Volumeモード, 16×16)を行った。なお、プローブにはNANOSENSORS製PPP-NCHAuD{ばね定数42 N/m (10–130 N/m)}を使用し、較正にはサファイア(Bruker SAPPHIRE-12M)を用いた。弾性率の参照測定にはポリカーボネート標準品{Bruker PC-12M(DMT Modulus = 2.4 GPa, FFV mode)}を用いた。ポリカーボネート標準品の測定は複数回連続で実施し、弾性率の経時変化がないことを確認した。

結果と考察 / Results and Discussion

概要に示したサンプル調製法の改良①、②を進めた結果、フォースカーブフィッティングにより得られた各錯体結晶の弾性率は、塑性変形を示す多形1Aでは4.357 ± 0.294 GPa、脆く割れる多形1Bでは4.481 ± 0.470 GPaであった。また、1A1B共に複数の単結晶について測定したが、弾性率の平均値、ばらつき共に選んだ単結晶に関係なく同等の値を示したことから、再現性の高い値が得られたことがわかった。以上の結果は、多形1A1Bの機械変形特性には大きな違いがあるものの、それらの特性と結晶の弾性率の間に関連がないことを示している。多形1Aの塑性変形は、結晶長軸方向に沿った分子のカラム積層構造間の滑りによって引き起こされると考えているが、今回測定した結晶面はカラム積層方向に対して垂直な面であるため、変形の容易さが弾性率に反映されていないことが示唆される。  今回の検討により、申請者の研究室にて開発を進めている錯体分子結晶に最適なサンプル調製法、及び弾性率測定法を確立することができたため、今後合成を進める新規結晶材料の評価にも適用する予定である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究課題は、湊丈俊主任研究員及び上田正主任技術員の協力によって遂行されました。紙面を借りてお礼申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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