利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.03】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23AE0006

利用課題名 / Title

放射光XAFS測定を用いた軽水炉燃料溶融現象における構造・電子状態解明

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構 / JAEA

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

高温XAFS/XRD,その場観察,Zr-Y2O3,過酷事故,燃料溶融,放射光/ Synchrotron radiation,分離・精製技術/ Separation/purification technology


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

伊藤  あゆみ

所属名 / Affiliation

東京工業大学科学技術創成研究院ゼロカーボンエネルギー研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

小無 健司,有田 裕二,新納 圭亮,生田 陸人

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

矢板 毅,谷田 肇,小林 徹,小畠 雅明,福田 竜生

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-003:高輝度放射光XAFSシステム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

軽水炉過酷事故における炉心燃料の溶融機構を解明するために、模擬燃料物質としてY2O3およびZr/Y2O3混合物質を用いて「高温放射光XAFS法」の適用性を評価した。本課題では透過X線下流に二次元検出器を設置しXAFS/XRD同時測定を試みた。Y2O3純物質については融点(~2700 K)までの高温測定に成功し、既設装置は超高温測定に適用できることを確認した。また、Zr-Y2O3混合物質については、金属原子のK吸収端スペクトル(Zr-K, Y-K)、X線回折像を室温から2500 K程度までの温度範囲において同時測定した。XRDスペクトル解析から、昇温過程で試料中のZrが酸化されてY2O3と反応したことがわかった。さらに、EXAFS解析によりZr原子の局所構造を分析したところ、XRDでZr/ZrO2ピークの共存が確認された温度範囲においてはZr3Oに近い配位構造であったことがわかった。これらのスペクトル解析から、炉内ガスの残留酸素によりZrが酸化されて亜酸化状態□-Zr(O)と酸化物ZrO2が形成されてY2O3との反応が始まり、2200 K以上では□-Zr(O)が溶融・酸化し2500 Kの測定終了までZrO2-Y2O3反応が進行するという反応過程を捉えることができた。今後は測定精度をさらに向上させて、安全対策を進めながら核燃料物質を対象とした実験への準備を進める。

実験 / Experimental

ZrとY2O3粉末を重量比1:1にて混合、イソプロピルアルコールを少量加えてスラリー状としたものを専用のW製ホルダースリット部に装填した後、真空加熱乾燥(400℃)したものを試料として準備した。試料装荷部は60 □mのスリットが入っており、BL22XUビームラインからのX線が透過できる寸法となっている。入射X線はWホルダー部を透過できないため、試料の透過X線強度のみが得られる。試料が装荷される加熱チャンバは、X線が透過できるように入射・透過部にガラス窓が備え付けられている。装荷した試料ホルダー部を遠隔から通電加熱できるようになっており、小電力で効率よく高温まで昇温可能である。加熱チャンバの手前と後ろに電離箱を、透過X線からの回折画像を撮影するための二次元検出器を光路から少しずらした位置に設置して、XAFSおよびXRDを同時測定した。本実験では、ZrおよびYのK吸収端近傍のエネルギースペクトルを同時に測定した。

結果と考察 / Results and Discussion

はじめにY2O3単体物質の昇温・溶融過程におけるスペクトル測定を実施した。試料は室温からY2O3融点(2712 K)まで制御、高温におけるXAFS/XRDスペクトル同時測定に成功した。得られた二次元回折像を一次元プロファイル化し立方晶Y2O3の格子定数、および、Y2O3の単斜晶への相転移、融点を印加電力に対して整理した。Swamyら[1]の先行研究により報告されているY2O3の格子定数の温度変化から、加熱チャンバの印加電流と関連付けて温度校正曲線を作成した。  次にZr- Y2O3混合物質の昇温過程におけるスペクトル測定を実施した。試料温度がZr融点以上(2128 K)から2500 K程度まで昇温した。二次元回折像から得られたXRDスペクトルから、測定開始時に確認された金属Zrのピークが温度上昇とともに強度が減少し、1500 K以上では正方晶ZrO2ピークが出現した。その後、2200 K以上では金属Zrのピークは消滅し、正方晶ZrO2と立方晶Y2O3のみが確認された。回折画像からはZrO2とY2O3のリング間に斑点状の輝点がみられ、固溶体形成反応が進行したことが推察される。また、Zr-K吸収端のEXAFSスペクトル解析により、Zr反応過程を詳しく得ることができた。XRDで金属Zrピーク強度が減少し正方晶ZrO2ピークと共存している温度では、Zrの第一配位圏がZr-Zr結合からZr-O結合に変化している過程であった。多重散乱理論によるFEFFカーブフィッティングを実施したところ、室温から1500 KまではZr、1500 ~ 2200 KではZr3O、2200 K以上では正方晶ZrO2に対するフィッティングが合理的な結果を与えた。これらのことから、昇温過程においてZrに酸素が固溶して一部は亜酸化状態の□-Zr(O)を形成し、2200 K付近で□-Zr(O)が溶融、完全に酸化されてZrO2となったと考えられる。さらに、対応するY-K吸収端のEXAFSスペクトル解析から、約2000 Kから動径構造関数の第2ピークに示されるY-Y結合の強度が明らかに低下していることがわかった。これは、Tuilierら[2]によるZrO2-Y2O3反応過程のXAFSスペクトルでも観察されており、Y2O3のY-Y結合がZrに置換されることによる効果と考えられ、Zr(O)-Y2O3反応の起点であると推察される。測定終了後の試料表面をSEM-EDSによって観察したところ三種類の酸化物(YとZrが均一に混ざった酸化物、Y2O3、ZrO2)が確認された。このことは、上記の反応を経て得られた状態として考えて矛盾がない。以上のことから、本実験により既設装置を用いて2712 Kまでの昇温、XAFSスペクトル(二元素同時測定)、二次元回折像の取得、が可能であり、得られたスペクトルの解析により高温反応過程の測定装置としての妥当性を確認することができた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

[1] V. Swamy et al., J Mater Res. 14(1999)456-459. [2]M.H.Tuilier et al., J. Solid State Chem. 69(1987)153-161.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 小無健司, 松尾悟, 有田裕二, 新納圭亮, 生田陸人, 矢板毅, 谷田肇, 小林徹, 福田竜生, 小畠雅明,伊藤あゆみ,“原子炉過酷事故時に於ける燃料溶融反応のその場測定技術の開発(1) 装置開発と加熱試験”, 日本放射化学会 第67回討論会, 令和5年9月22日.
  2. 伊藤あゆみ, 小無健司, 松尾悟, 有田裕二, 新納圭亮, 生田陸人, 矢板毅, 谷田肇, 小林徹, 福田竜生, 小畠雅明,“原子炉過酷事故時に於ける燃料溶融反応のその場測定技術の開発(2)解析”, 日本放射化学会 第67回討論会, 令和5年9月22日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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