利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22JI0003

利用課題名 / Title

真空紫外線処理を施した高分子樹脂と無電解めっき膜密着性向上メカニズム解明のための密着界面評価

利用した実施機関 / Support Institute

北陸先端科学技術大学院大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

表面処理,VUV, エキシマランプ,真空紫外線,表面改質,密着性,電子顕微鏡/Electron microscopy,異種材料接着・接合技術


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

有本 太郎

所属名 / Affiliation

ウシオ電機株式会社

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

東嶺孝一,小林祥子,伊藤真弓

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

JI-008:原子分解能走査透過型電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

高度な第5世代移動通信システム(5G)は,現在各国で商用サービスが始まりつつある.さらに超低遅延や多数同時接続といった機能が強化されたポスト5Gは,今後,工場や自動運転といった多様な産業用途への活用が見込まれており,産業の競争力の核となり得る技術と期待されている.プリント配線板に実装するパッケージ基板の後工程技術(More than Moore技術)はポスト5Gで求められる性能を実現する上で重要である.
 
次世代通信規格で利用される高周波領域において伝送損失を低減させるために基板樹脂の表面を平滑に維持したまま配線回線の密着性を保持することが課題になっている. エキシマランプ(λ=172 nm)を利用した紫外線照射によるドライプロセスの前処理では,樹脂表面を平滑に維持したまま,表面に官能基を導入でき,金属めっき層との化学的な密着が可能になる.照射条件を変えることで樹脂と金属層との密着強度が変化することが確認できているが1-2),密着のメカニズムは明らかになっておらず,密着性を上げるための方策がいまだ不明瞭のままである.その理由のひとつに,金属めっき層と高分子樹脂基板との界面における,微視的な構造に関する学術的な知見や,これを調査するための技術が不足していることがあげられる.今回,ARIM事業を利用することにより,その評価技術を確立して金属めっき層-高分子樹脂基板界面の微視的構造に関する知見を得る.VUV処理により樹脂表面に生じる変化,樹脂と金属層との界面断面や結合界面の状態を観察することで,密着性に寄与している要因を明らかにできることが期待される.
 
本課題では①VUV処理により形成される樹脂表面改質層の解明,②VUV処理条件違いによるめっき膜界面形態の解明,③めっき膜界面の結合状態の解明をめざす.これらが達成されれば,密着性向上のためのエキシマランプ処理条件の指針も明確になり,半導体パッケージ工程への応用が期待される.平滑性を維持した密着技術の確立は,プリント基板実装業界に大きなインパクトを与え,エレクトロニクス産業全体にとっても有用な技術になる得ると考えている.

実施した内容は,以下のとおりである.
  ・ウルトラミクロトームによる観察用試料作製の試行
  ・VUV処理条件の異なる各サンプルのTEM/STEM観察およびEDS元素分布分析
    ・EELS-SI測定および測定結果の解析

実験 / Experimental

以下,サンプルは75µm厚のシクロオレフィンポリマー(以下COP)フィルムを用いた.VUV照射(λ=172 nm)にはウシオ電機製の照射装置を用いて実施した.原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)はJAIST所有のJEM-ARM200Fを使用した.

①VUV処理により形成される樹脂表面改質層の解明
 大気雰囲気下でVUV処理したCOPフィルムをウルトラミクロトームで薄片化し,VUV処理により改質が生じたと考えられる表面近傍のSTEM-EELS-SI測定を実施した.得られたSTEM-EELSスペクトラムイメージから多変量解析3-4)によって抽出されたスペクトルと各成分をプロットし,成分ごとの可視化を実施した.

②VUV処理条件違いによるめっき膜界面形態の解明
 VUV照射量を変えたサンプル,VUV処理後にアルカリ処理を実施したサンプル,加熱処理およびVUV処理したサンプル,また比較として低圧水銀ランプによりUV処理を施したサンプルを準備した.それぞれ表面改質後のサンプルは,Pd触媒を用いた無電解銅めっきを行い樹脂表面上に金属層を析出させた.各サンプルをウルトラミクロトームで薄片化し,STEMによりめっき膜界面の断面像を取得した.

③めっき膜界面の結合状態の解明
 ②と同様にVUVの処理条件を変えて,無電解めっきにより銅の金属層を析出させたサンプルを準備した.ウルトラミクロトームで薄片化し,めっき膜界面のSTEM-EELS-SI測定を実施した.①と同様に得られたSTEM-EELSスペクトラムイメージを多変量解析し,領域ごとの結合状態の成分の差異を検討した.

結果と考察 / Results and Discussion

① VUV処理により形成される樹脂表面改質層の可視化
 図1にVUV照射したCOPのEELS-SI測定と多変量解析の結果を示す.成分の違いにより,緑の包埋樹脂領域と赤及び青のCOP領域の3つの領域に分けることができた.COP領域の赤と青でプロットされた成分は,赤はVUV処理により導入された酸化層の成分,青はバルクに由来する成分だと考えられる.赤の酸化層と考えられるプロットは包埋樹脂の境界面からおよそ500 nmにまで及んでいることがわかった.同様にVUV処理したCOPフィルムをAr-GCIB(イオンクラスタ)でソフトにスパッタしながらToF-SIMSで酸化成分のデプスプロファイリングを取得すると500 nm程度まで酸化成分の変化が確認されている.今回実施したEELS-SI測定と多変量解析ではAr-GCIB-TOF-SIMSによるデプスプロファイリングの結果を再現していると言える.また,VUV処理により高分子樹脂表面に形成される改質層については,XPSなどにより表面の結合状態の変化などは議論されてきたものの,その深さ方向については不明瞭なままであった.今回,EELS-SI測定と多変量解析を組み合わせた手法によりVUV処理による改質層の可視化に初めて成功した.高分子樹脂対する表面改質プロセスはエレクトロニクスや次世代モビリティ分野で今後重要な技術であり,今回の可視化技術は同分野の発展に有用であると考えている.

② めっき膜界面の断面像 
 一例としてVUV前処理を600 mJ/cm2照射したサンプルと1200 mJ/cm2を照射したサンプルのめっき膜界面のSTEM像を図2に示す.600 mJ/cm2のサンプルでは金属層とCOPの界面から金属層側にかけてPd触媒が分布しているのに対して,1200 mJ/cm2照射サンプルではCOP樹脂側に食い込むようにPd粒子が分布している違いが確認された.事前にそれぞれのサンプルでめっき膜強度をスタッド・プル法で確認したところ,600 mJ/cm2照射サンプルは密着強度がほとんど得られなかったに対し,1200 mJ/cm2照射サンプルでは十分な密着強度が得られた.したがって,めっき膜の密着強度はPd粒子の界面での分布形態が関係している可能性が今回の測定で明らかになった.

③ めっき膜界面の結合状態の解明
 
一例としてVUV前処理を1200 mJ/cm2照射したサンプルと1200 mJ/cm2照射した後アルカリ処理を実施して無電解めっきを行ったサンプルをEELS-SI測定して多変量解析により結合界面の結合状態を成分ごとに可視化した結果を示す(図3).結果,VUV処理のみのサンプルはCu2Oに起因する成分(赤)が界面付近に分布しているのに対し,VUV処理後にアルカリ処理を追加したサンプルは樹脂側の内部にまで及んでいることが判明した.VUV処理により低分子化された成分がアルカリ処理を追加することで除去され,生成された微細な隙間にめっき液が入り混み内部からCu成分が析出されたと考えられる.このような現象を画像として可視化できた例はこれまでになく,VUV処理が高分子樹脂表面に与える作用を直接的にとらえた初めての結果だと言える.今後,同手法を評価にとりいれることで,密着のメカニズムの解明や密着強度向上施策に活用できると期待している.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 VUV処理による改質層の可視化



図2 めっき膜結合界面の断面



図3 めっき膜結合界面の多変量解析による可視化


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞
本研究を実施するにあたり東嶺研究員には評価全般にわたり多大な協力を頂きました.また,小林研究員には観察サンプルの前処理加工でご協力頂きました.感謝いたします.

参考文献
1) 有本太郎,三浦真毅,竹元史敏,表面技術協会 第145回講演大会要旨集 20A-08, (2022)
2) 有本太郎,三浦真毅,竹元史敏,第37回エレクトロニクス実装学会講演大会 13B-21, P21 (2023)
3) 武藤俊介,まてりあ 51(9),416-423(2012)
4) 東嶺孝一, 機器分析技術研究会報告書, O-06(2022)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 〇有本 太郎, 三浦 真毅, 竹元 史敏 ”Xe*2エキシマランプを用いためっき被膜と基材の密着性向上のメカニズム解析”,第37回エレクトロニクス実装学会講演大会(大阪), 令和5年3月13日
  2. 〇Taro Arimoto, Masaaki Miura, Fumitoshi Takemoto,”Surface Modification of Cyclo Olefin Polymer film for Electronic Packaging by Vacuum Ultraviolet Irradiation”,ICEP2023, 令和5年4月19日
  3. 〇東嶺孝一,有本太郎, "真空紫外線照射による樹脂表面改質層のEELS-SI測定と多変量解析", 顕微鏡学会第79回学術講演会, 令和5年6月26日
  4. 〇有本 太郎, 三浦 真毅, 竹元 史敏,東嶺孝一 仮)”HAXPES評価およびEELS-SI測定を用いた エキシマランプ真空紫外線照射によるめっき膜密着機構の解明”,第61回接着学会年次大会 令和5年6月22-23日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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