【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.05】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23JI0028
利用課題名 / Title
走査型プローブ顕微鏡用探針の分析評価
利用した実施機関 / Support Institute
北陸先端科学技術大学院大学 / JAIST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/ Electronic microscope,走査プローブ顕微鏡/ Scanning probe microscope,電子回折/ Electron diffraction
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
新井 豊子
所属名 / Affiliation
国立大学法人金沢大学理工研究域数物科学系
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
安 東秀,東嶺 孝一
利用形態 / Support Type
(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
JI-011:走査型オージェ電子分光顕微鏡
JI-008:原子分解能走査透過型電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は試料表面の形状や物性をナノスケールの高分解能で観察・解析できる顕微手法として広く活用されている。SPMの性能を決める要素の一つが鋭利にした探針の特性である。SPMは、鋭い探針と試料の間に働く種々の近接相互作用を高感度検出しながら、その相互作用の探針−試料間距離の依存性を利用して動作する。その結果、SPM探針の特性(鋭い形状、物性)によって得られるSPM像(形状像、物性量の2次元マッピング像)が変化することが度々ある。例えば、SPM形状像の原子レベル分解能は探針先端の原子配列の変化によって変わり得る。また、SPMを利用した物性測定では、先端の鋭さと供に、SPM探針先端の局所電子物性の変化によって2次元マッピング像が変化することがある。SPMの登場以来、種々の探針の調製法が開発されてきた。一方で、期待されるSPM像が得られるまで観察中に探針を試料に僅かに接触させて探針先端の原子配列や原子種を変化させるような偶発的現場作業も“秘伝”となっている。今後、SPM技術を究めるためにもSPM探針を“ナノスケールの現象を調べるための機能材料”として捉え、SPM探針を対象とした基礎物性評価を地道に進める必要がある。最近、大気中での加熱燃焼によってタングステン(W)などの高融点金属線の先端を簡便に先鋭化させる手法(炎エッチング法)が提案された[1]。この手法では、高温の炎でW線(通常、安価な多結晶線を用いる)の端を酸化させる。生成された酸化物は蒸気圧が高く昇華し、その結果としてW線の端が先鋭化される。本手法は作業が迅速・簡便であるともに、調製中に付着する酸化物以外の不純物が激減すると期待できる。昨年度、ARIM支援によって、走査型オージェ電子顕微鏡(SAM)などによって加熱燃焼によって先鋭化されたW針の評価(形状観察と表面組成分析)を行った。その結果、針先端部はファセット様の面で囲まれた多面体となっていること、および、先端部が針軸方向に[110]方位を向いていて単結晶化している可能性を見出した。SPM探針の鋭い先端が単結晶になっていれば、形状と電子物性を再現よく作製できる可能性がある。そこで本年度は、先鋭化と単結晶化のより適切な条件を探りながら、SAMと併せて透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折を利用して、このファセット様に扁平した面の指数付けを試みた。
実験 / Experimental
直径0.1 mmの多結晶W線(ニラコ)を約20 mmに切断して試料とした。炎エッチング用のガスは水を電気分解した水素酸素混合ガス(H2:O2=2:1)を用いた。この混合ガスを内径1 mmのノズルから噴出させて着火すると、ノズル端から5 mm離れた場所で温度約2400 ℃の炎が得られた。水平に設置した直線スライドステージに試料を取り付けてW線端をその炎の中心に挿入し、挿入してから設定した時間後(100 – 1000 ms)にソレノイドバルブを利用してガス供給を止めて炎を消火した。また、冷却時の過剰なW線の酸化を抑制するために、ノズル周囲にArガスを供給できるようにした。試料W線の取り付け向きはステージに水平で、スライドステージの動く方向に対して垂直方向である。炎エッチング後に、試料先端部を光学顕微鏡で観察し、さらにSAMを用いて走査型電子顕微鏡(SEM)観察するとともに表面組成を分析した。SEM観察でW針先端の扁平面の向きを大凡決定した試料をTEM観察し、あわせてTEMによる電子線回折像を取得した。また、事前のTEM観察によってW線先端が酸化層に覆われていることを見出したので、真空チャンバー(到達真空度:2×10–8 Torr)内で青色レーザー(波長450 nm、最大9 W)を照射して1000 ℃以上に加熱し、不要な酸化層を除去した。
結果と考察 / Results and Discussion
SEM観察によって、炎に対してW線を挿入後250−300 msで炎を消火すると先端半径が数100 nm以下の細い針となること、消火時間を延ばすと先端半径が大きくなること、何れの場合もW針が扁平面を持つことが確認された。扁平面の結晶学的方位を決定するために、最も広い扁平面がほぼ上向きになるように試料を導電性エポキシ樹脂でTEMグリッドに接着した。この際、光学顕微鏡で扁平面を目視しながら接着するので、扁平面を確認しやすいように炎消火時間を600 msとして扁平面を広げた。即ち、TEMの電子線回折解析では電子線をこの扁平面にほぼ垂直に入射させた。また、TEM観察を阻害するような酸化層を除去するために接着前に青色レーザで真空中で約5秒間1300℃で加熱した。その典型的なW針のSEM像を図1に示す。先端が歪な三角形状で数100 nmスケールで鋭利になっていることがわかる。この試料のTEM像と電子線回折像を図2に示す。電子線回折像を対称性の良いスポット配列を得るのに試料を軸回りに約10°回した。電子線回折像を解析すると、この配置において、針軸方向が大凡[110]であり、電子線入射面が(001)面であることがわかった。このことからW針先端が単結晶化していること、扁平面が(001)面のテラスとステップから形成されていることが推定された。同様な測定を5つの試料に対して実施したが同等な電子線回折の結果が得られた。W結晶は体心立方格子であり、最安定面は最密面の(110)面である。真空中の熱処理では(110)面が広がることが知られているが、酸化過程の炎エッチングでは最密面ではない(001)面が広がることが本支援で見出された。本研究によって、繊維状構造を持つことで知られる多結晶W線が炎エッチングによってその先端部が単結晶化し、併せて扁平面が形成されることが明確になった。探針先端の結晶性を向上させたことで、物性測定のためのSPM探針の性能向上に繋がると予想される。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 SEM image of a flattened W needle prepared by flame etching for 600 ms.
Fig. 2 TEM image and an electron diffraction pattern of the flame etched W needle, which SEM image is shown in Fig. 1.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1]T. Yamaguchi et al., Rev. Sci. Instrum. 90 063701 (2019).
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件