利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.04.04】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23KU0012

利用課題名 / Title

高分解能電子顕微鏡によるCO2の資源化のための複合触媒の活性構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

九州大学 / Kyushu Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion

キーワード / Keywords

電子顕微鏡/ Electronic microscope,ナノ粒子/ Nanoparticles


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

佐藤 勝俊

所属名 / Affiliation

名古屋大学大学院工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

クトゥビ モハマド シャハジャハン,永岡 勝俊

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

鳥山 誉亮,山本 知一

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術補助/Technical Assistance(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

KU-003:マイクロカロリーメーター高エネルギー分解能元素分析装置
KU-004:広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡
KU-016:低温域観測型・高分解能電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

気球温暖化,気候変動の主要な原因物質であるCO2の排出削減のため,CO2を化学的に有用物に転換して利用,循環させることが期待されている.申請者らは,特にCO2由来のCOから液体状の炭化水素系燃料を合成するフィッシャー・トロプシュ反応(FTS)に注目し,この触媒開発を行ってきた.FTS用の触媒としてはコバルトが古くから研究されてきたが,炭素鎖の長い固体状の炭化水素が優先的に生成してしまい,液体状の炭化水素の生成量が少ないという課題があった.申請者らの研究グループでは,有機系コバルト錯体を原料に用いたアルミナ担持コバルト触媒と,アルミノケイ酸塩からなる固体酸をハイブリッドさせた複合触媒を開発し,これを用いることで液体状炭化水素燃料の選択率を大幅に引き上げることに成功した(Fig. 1).一方で,この様な効果が発現する理由は十分に明らかではなかった.そこで,ユーザーらは高分解能電子顕微鏡を利用したナノレベルの観察・解析によって,この理由を明らかにすることを試みた.

実験 / Experimental

ハイブリッド触媒の調製は以下の2段階で行った.まず,担持Co触媒を含浸法で調製した.Coのアセチルアセトナト塩をテトラヒドロフランに溶解させ,γ型の高純度Al2O3を浸漬,乾燥させたのち,不活性ガス雰囲気下450ºCで加熱処理して配位子を除去した.次に,得られたCo/Al2O3触媒に対して重量比で2倍量のアルミノケイ酸塩を混合し,これをメノウ乳鉢を用いて磨砕することによってハイブリッド化を行った.観察用の資料に対しては,活性化処理に相当する前処理(H2流通下,500ºCで還元)を行った.通常の観察では処理後の試料を十分に粉砕,エタノールに分散,滴下してグリッドを作成した.大気遮断分析においては,処理後の試料をArで満たされたグローブボックス内で粉砕したのち気密室を備えた特殊ホルダに装填し,大気に触れさせることなく鏡筒に挿入した.いずれのケースでもJEM-ARM200CFによる表面状態の観察とEDX分析を行った.

結果と考察 / Results and Discussion

①高感度EDS検出器を用いた元素マッピング: 開発したハイブリッド触媒においてはコバルト触媒とアルミノケイ酸塩のナノレベルの配置が特性発現のために極めて重要であることが示唆されたことから,元素マッピングによる分析を実施した.酸化アルミニウムやアルミノケイ酸塩は電子線損傷の影響を受けやすい試料であるため,高感度EDS検出器を用い,加速電圧,ビーム強度を抑制した条件で分析を実施した.分析の結果,開発触媒はアルミノケイ酸塩のサブマイクロサイズの粒子表層をナノスケールのコバルト触媒が包摂した構造を有していることがわかった(Fig. 2).この特徴的な配置よって,コバルト触媒上で生成した比較的長い炭素鎖の炭化水素が速やかにアルミノケイ酸上に移動することができ,固体酸酸の機能によって適切な炭素鎖長まで切断されることで,高い液状炭化水素が得られるという,メカニズムを明らかにすることが出来た.
②大気遮断ホルダを使用した触媒表面の詳細解析: 炭化水素の生成自体はコバルトの表面で起きるため、この付近の微細構造を検討することも重要な課題であった.コバルト等非貴金属のナノ粒子は大気中の酸素や水蒸気の影響を受け,表面の状態や構造が大きく変化してしまう.そこで,大気遮断ホルダを用いて活性化処理後の試料を大気に触れることなく電子顕微鏡鏡筒に導入して高分解能観察を実施した.EDSとEELSを併用した触媒表面の解析によって,開発触媒の表面には従来型触媒と比べてコバルトナノ粒子のサイズが微細に保たれていること,コバルトの表面に厚さ数ナノメートルの炭素の被膜が存在していることが明らかとなった(Fig. 3).原料であるコバルト錯体の配位子が熱分解して表面に堆積したものと考えられる.この炭素被膜がコバルト表面の一部をキャップすることで,過剰な反応を抑制することで,さらに高い液体炭化水素の生成が実現してきることを見出した.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Figure 1. Comparison of performance between developed catalyst and conventional catalyst.



Figure 2. Elemental map of the developed hybrid catalyst.



Figure 3. Results of microstructural analysis of the surface of the cobalt catalyst among the developed catalysts.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞:本研究の一部は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として行ったものである.九州大学超顕微解析研究センターの鳥山誉亮氏,山本知一助教には観察・分析に多大なるご協力を頂いた.記して感謝申し上げる.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Kohei Era, Catalytic Behavior of K‐doped Fe/MgO Catalysts for Ammonia Synthesis Under Mild Reaction Conditions, ChemSusChem, 16, (2023).
    DOI: 10.1002/cssc.202300942
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. M. S. Kutubi, K. Sato, K. Nagaoka, "Co-based Hybrid Catalytic System for Development of Efficient Fisher-Tropsch Synthesis Process" 化学工学会第88年会, 2023年3月15日~17日
  2. M. S. Kutubi, K. Sato, Y. Shimura, S. Inagaki, Y. Kubota, K. Nagaoka, "Pre-Carburization Effect in Hybrid Catalytic System: Optimistic Process Development for Gas to Liquid Fuel Production" 15th European Congress of Catalysis, 2023年8月27日~9月1日
  3. M. S. Kutubi, K. Sato, Y. Shimura, S. Inagaki, Y. Kubota and K. Nagaoka, "Role of C-Coated Co-nanoparticle Hybridization to Control the Product Selectivity in Fischer-Tropsch Synthesis" 第132回触媒討論会, 2023年9月13日~9月15日
  4. M. S. Kutubi, K. Sato, S. Inagaki, Y. Kubota and K. Nagaoka, ”Impact of Carbon-Cobalt-Acid Combination to Produce Synthetic Fuel from Syngas” 第53回石油・石油化学討論会, 2023年10月26日~10月27日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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