【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.21】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23QS0008
利用課題名 / Title
スパッタアニールAlNの表面クリーニングによる極性制御メカニズムの解明
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
窒化物半導体,エレクトロデバイス/ Electronic device,表面・界面・粒界制御/ Surface/interface/grain boundary control,放射光/ Synchrotron radiation,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation,量子効果/ Quantum effect
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
林 侑介
所属名 / Affiliation
大阪大学大学院基礎工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
西村 海音,酒井 朗,Harries James
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
佐々木 拓生,大和田 謙二,押目 典宏
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
パワーデバイス材料として有望な「窒化ガリウム(GaN)」は5G無線通信用の高周波パワーデバイスとして高い性能を誇る。これはGaNの特徴である「シート状に分布した自由電荷:2次元キャリアガス」の電子移動度が2000 cm2V-1s-1と半導体のなかでトップクラスに高いことに由来している。一方で、大きな有効質量に由来して「正孔移動度」は20 cm2V-1s-1と対照的に低い。正孔チャネル(pチャネル)の導電性が低い結果として、電子チャネル(nチャネル)とのペアで構成される相補型金属酸化膜半導体(CMOS)回路の性能を頭打ちさせる要因となっている。このような技術的困難に対し、課題申請者【林】は「極性制御によるGaN CMOS」の研究に取り組んでいる。GaN CMOSを構成するpとnのチャネルのうち、性能の制限要因となるpチャネルの2次元キャリアガスについてはコーネル大学 Debdeep Jena教授とHuili Grace Xing教授が重点的に研究を進めてきた。彼らはGaNと性質の近い「窒化アルミニウム(AlN)」を基板として用いる「GaN on AlN」を提唱し、分子線エピタキシー(MBE)法による結晶成長で5×1013 cm-2の超高密度な2次元キャリアガスを発生させることに成功している[Chaudhuri et al., Science, 2019]。魅力的な「GaN on AlN」だが、結晶成長が非常に難しい。その最大の理由は、GaNとAlNは結晶の格子定数差が大きく異なるため、同じ結晶配列を保ったまま成長させるのが難しい点にある。近年、課題申請者【林】は、三重大学が開発したスパッタアニールAlNを利用し、コーネル大学と協力して結晶配列を乱す「自然酸化膜」を表面クリーニングで除去することの重要性を明らかにした[Zhang, Hayashi, et al., Sci. Adv., 2022]。この手法では、真空チャンバー内で極薄Al層を繰り返し吸着・脱離させることでAlNと結合の強い酸素原子を大幅に除去することができ、結果としてGaN on AlNの安定な成長に成功している。これまでの取り組みにより、クリーニングをしていない試料にAlNをホモエピタキシャル成長すると、下地基板の-c極性が上層では+c極性に反転することがわかっている。これは、酸化膜由来の極性反転層に誘起されているという報告が複数なされているが、具体的な結晶構造は特定されておらず、またその動的な結晶成長メカニズムはほとんど明らかにされていない。一方、クリーニングを導入した試料では界面が確認できないほど良質なホモエピタキシャル成長を実現できている。したがって、結晶の極性制御を利用したGaN CMOSを実用化するには、極性反転のメカニズムを解明し、その原理に基づいて結晶成長プロセスを最適化するアプローチが有用だと考えられる。この問題を探る本研究の独自手法として、MBEによる極性制御とその場観察に初めて挑戦する。通説では不純物酸素に由来するアルミニウム酸窒化物(AlxOyNz)が極性反転層だとされているが、成長中に発生する数原子層の薄層であるがゆえに動的な観察は極めて難しく、詳細な発生メカニズムはほとんど明らかになっていない。支援担当者【佐々木】は大型放射光施設SPring-8においてMBE成長中に高速でX線構造解析する「その場測定系」を構築し、基板最表面でGaNが成長する様子を単原子層の分解能で解明してきた [Sasaki et al., Appl. Phys. Lett., 2016]。この「その場測定」技術を新たに応用することで、これまで難しかった「極性制御の動的観察によるメカニズム解明」に挑戦する。課題申請者【林】が世界で初めて成功した-c極性GaN/AlNのMBEホモエピタキシャル成長技術は2022年に報告されたもので、表面クリーニング技術も含めて近年新たに開発されたものである。本技術を「その場測定」で解析する試みはこれまでになく、極めて新規的なアプローチとなっている。
実験 / Experimental
実験はSPring-8・BL11XU実験ハッチ3において、分子線エピタキシー(MBE)装置とX線回折計(XRD)とが一体化した MBE-XRD装置を用いる。X線回折は、Si(111)2結晶モノクロメータで分光された20 keVのX線を用いる。ビームライン組み込みのRhコートミラーを視斜角2.5 mradに設定し、高次高調波の除去と水平方向への集光をおこなう。入射X線は、試料前に設置した四象限スリットで0.1 mm角に整形する。X線回折測定のための検出器には、2次元検出器であるPILATUS 100Kを用いる。この検出器は、4度程度の範囲の散乱角を一度に測定できるため、回折ピークだけでなくその周囲のバックグラウンドも同時に測定できる。
結果と考察 / Results and Discussion
課題申請者【林】および支援担当者【佐々木】がBL11XUにおいて実施した本実験課題では、MBE-XRD内におけるその場X線CTR散乱測定を実施し、「-c極性AlN」テンプレートと、その上に5 nmのAlNをホモエピタキシャル成長した試料においてCTR散乱を評価した。結果として、AlN の回折指数0 0 0 0.5から0 0 0 1にかける領域において顕著なCTR散乱強度の違いが見られた。このような変化は、AlN成膜によって「自然酸化膜」が「極性反転層」に変質する様子を示している可能性があり、CTR散乱測定の有用性が明らかとなった。今後は、CTR散乱による評価をさらに進め、AlN膜厚の増加によるCTR散乱変化挙動の取得、及び、表面クリーニングによる自然酸化膜除去が及ぼす効果の解明に取り組む。加えて、CTR散乱強度を数値計算でフィッティングすることで、極性反転層の高精度構造解析に挑戦する。本研究の取り組みによって極性制御についての知見を深めることができれば、窒化物系発光デバイスおよびパワーデバイス開発において、-c極性成長や極性反転の積極利用による新領域開拓を期待できる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件