利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.25】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23QS0006

利用課題名 / Title

高分解能 XAFS を利用した燃料電池カソード鉄錯体系電極触媒上における酸素還元反応時の吸着構造解明研究

利用した実施機関 / Support Institute

量子科学技術研究開発機構 / QST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

脱炭素,燃料電池/ Fuel cell,電極材料/ Electrode material,放射光/ Synchrotron radiation


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

田中 裕久

所属名 / Affiliation

関西学院大学工学部物質工学課程

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

松村 大樹,田中 啓偉,中村 絃希,青谷 拓朗,市川 拓弥,平谷 尚紀,三輪 航平,濱田 翔太,川添 真里亜,泉 椋介

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

石井 賢司

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

QS-112:共鳴非弾性X線散乱装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

ゼロエミッションビークルであるアニオン交換形燃料電池自動車普及に向けて、カソード電極触媒として貴金属を使用しない白金触媒を凌ぐFe-N-C系触媒を開発している。アニオン交換形燃料電池は酸素還元反応(ORR)中に生成される反応中間体による劣化が大きな課題であり、そのメカニズムを実触媒上でin situで詳細を観測した前例は数少ない。前年度の実験でPt/C触媒上での酸素還元反応メカニズムの詳細について観測に成功し、ジャーナルの論文にて報告した。今回は研究室で脱貴金属触媒をいちから調製し、SPring-8のBL11XUにて、酸素還元反応中における触媒の表面吸着構造とスピン構造を高分解能XAFSで観察し、反応中の生成物や反応機構の解明を目的とし実験を行った。

実験 / Experimental

【利用した装置】:共鳴非弾性X線散乱装置
【実験方法】BL11XUにて、研究室で水熱合成を用いて調製したFe-N-C系カソード触媒に対してX線非弾性散乱測定を行った。カーボンペーパーにFe-N-C触媒を吹き付けた試料を放射光実験用半電池セル内の炭素電極に組み込み、アルカリ性電解質溶液である1.0 Mの水酸化カリウムを循環させて酸素還元反応中の触媒反応をin-situで観察した。反応電位である0 ∼ 1.2 V vs.RHEの間でポテンンショスタットにより電位制御を行い、範囲点の7点の電位でビームを照射し測定を行った。各測定前にCV測定及びIt測定を行い、触媒表面のリセットを行った。また、電解液に窒素/酸素をバブリングした2条件を比べ、酸素還元反応に特有の中間生成物・表面吸着状態を確認した。XAS測定で得られるFe K edgeのXANES領域のピークの位置や強度またはKβエミッション測定を行い、価数変化とスピン状態の観察をそれぞれ行った。

結果と考察 / Results and Discussion

・XAS測定 K edgeの立ち上がりは窒素雰囲気において0.25 Vが高エネルギー側にシフトしている[図1(a)]。この電位は1.19 V vs.RHEであり、触媒の酸化が進んでいる。その為価数変化によりエネルギーシフトを起こしている。pre-edge領域について、7114~7115 eVあたりに注目する。金属鉄は7114 eV付近でピークが現れる。錯体構造に入らず、金属鉄として残留する鉄はORRを阻害する為好ましくない。使用した触媒は7114 eVでの強度は小さく、鉄錯体の割合が多いと考えられる。鉄の仕込み量や酸洗浄による残留金属鉄量の減少に成功している。窒素雰囲気と酸素雰囲気共に、電位毎のスペクトル変化はあまり現れず、電位依存性は確認できなかった。窒素雰囲気と酸素雰囲気の吸収端XANES領域のスペクトルを比較すると、1.04, 0.84, 0.64, 0.44 V vs.RHEにおいてpre-edgeの7110~7112 eVでの立ち上がりに差が見られる[図1(b)]。これら電位では、いずれも酸素雰囲気の方が窒素雰囲気より高エネルギー側でピークの立ち上がりが確認でき、ガス依存性が確認できた。低エネルギー側(7110 eV付近)のピークは1s-4p及び1s-3d遷移を示し、ピーク強度から3d軌道と4p軌道の混成具合を考察できる。酸素雰囲気の方が高エネルギー側にピークが現れていることから、フェルミ準位高く、電子の存在確率が高いと考えられる。酸素が多く存在する酸素雰囲気の方が、ORRが起こる電位範囲において電子が酸素分子と相互作用している。
・XES測定 鉄のKβエミッションを測定した[図2]。7058 eV付近のメインピークはKβ1,3を示しておりこのエネルギー位置から価数変化を観察できる。今回使用したFe-N-C触媒では、高電位から低電位にかけてのKβ1,3を示す7060 eV付近のエネルギーシフトは見られず電位依存性を確認できなかった。今回のXES測定データからは価数変化の議論は難しい。メインピークと7045 eV付近のサブピークの比率からの考察は、フィッティング方法や算出方法の確立を含めて議論中である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 X線吸収分光(XAS)測定結果



図2 X線発光分光(XES)測定結果


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

BL11XUのエネルギー高分解能ビームラインを構築していただき、これまで見ることのできなかった燃料電池電極触媒上の吸着種を観察できるようになりました。量子科学技術研究開発機構 石井賢司様のご尽力とご支援に感謝を申し上げます。高分解能CV-XAFS手法を開発し、いつも研究室の学生たちをご指導いただいています日本原子力研究開発機構の松村大樹様に謹んで御礼申し上げます。また、アニオン交換形の電解質膜・アイオノマーをご提供いただいています量子科学技術研究開発機構・高崎量子応用研究所 前川康成所長、吉村公男様に感謝申し上げます。
他に利用したARIM支援機関:日本原子力研究開発機構(23AE0003)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Genki Nakamura, Daiju Matsumura, Kenji Ishii, Kei Tanaka, Kohei Miwa, Sung Hon Cho, Toru Sekino, Hirohisa Tanaka, "Improvement of Oxygen Reduction Reaction Performance of Fe-N-C Catalyst", The Electrochemical Society, 244th ECS Meeting,令和5年10月10日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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