【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.21】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT0153
利用課題名 / Title
NanoSIMSを用いた炭素質コンドライトの新規年代測定法の開発
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials
キーワード / Keywords
隕石、二次イオン質量分析、 基礎技術開発,質量分析/ Mass spectrometry
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
藤谷 渉
所属名 / Affiliation
茨城大学 大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
竹内美由紀
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
初期太陽系の過程を記録している始原的な隕石は、太陽系形成史を紐解く貴重な試料である。特に、炭素質コンドライトと呼ばれる始原的な隕石は、水や有機物を豊富に含み、地球の大気海洋や生命の材料となった物質である可能性がある。JAXAの小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから地球に持ち帰った試料も炭素質コンドライトに似た物質である。このような炭素質コンドライトには、母天体(小惑星)内部の水から析出したと考えられる炭酸塩鉱物が存在し、小惑星内での水・岩石・有機物の相互作用を解明する手がかりとなる。特に、炭酸塩鉱物はマンガンを比較的多量に含むため、マンガン-53がクロム-53に半減期370万年で壊変する放射壊変系を用いた「マンガン・クロム年代測定」を適用することで、小惑星内での物質進化のタイムスケールを知ることができる(参考文献1、2)。しかしながら、これまで二次イオン質量分析計(SIMS)を用いたマンガン・クロム年代測定では、マンガンとクロムの比を定量するのが難しかった。なぜならば、マンガンおよびクロムの濃度が既知の天然の炭酸塩の「標準試料」を準備するのが困難だからである。本研究では、そのような困難を払拭するため、加速器を用いてクロムイオンを注入した炭酸塩試料を作製することを目指している。その基礎実験として、今回は、53Crイオンを注入したカンラン石試料を準備し、そのクロムの定量をSIMSを用いて行った。具体的には、注入を行ったクロムと、もとよりカンラン石に含まれているクロムの間でSIMSの感度が等しいか確認する実験を行った。
実験 / Experimental
カンラン石へのクロムイオンの注入は、高崎量子応用研究所にて行った。SIMSを用いた分析には、東京大学弥生キャンパスに設置されている二次イオン質量分析計(CAMECA NanoSIMS 50L)を用いた。一次イオンビームとして、電流値100 pA、ビーム径1マイクロメートルに調整した16O-ビームを用い、二次イオンとして30Si+, 52,53Cr+, 55Mn+, 57Fe+の各イオンを検出した。SIMSは破壊分析であり、一次イオンビームによって試料表面が測定中に削り取られてしまう(スパッタリング)。これを逆手に取って、二次イオン強度の時間変化を観察することで、試料に注入されたクロムイオンの深さ方向プロファイルを得ることができる。精度のよい深さ方向プロファイルを得るため、一次イオンビームは10マイクロメートル×10マイクロメートル四方の領域をラスター(走査)し、その分析痕の平滑な中心部分から発生する二次イオンのみを記録した。一分析あたりの測定時間は2時間程度である。53Crの信号強度全体から、試料にもとより含まれていた53Crを除くため、(注入を行っていない)52Crの信号強度と天然試料の53Cr/52Cr比を用いた。最後に、分析痕の深さを茨城大学に設置されているレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-9700)を用いて測定した。
結果と考察 / Results and Discussion
図に、得られた53Crイオンの深さ方向プロファイルを示す。この結果はThe Stopping and Range of Ions in Matter (SRIM)コードによるイオン注入のシミュレーション結果とよい一致を示している。実験で用いたカンラン石中のクロムの濃度は既知であり、注入したクロムイオンのドーズ量も既知である。これらの量と、試料にもとより含まれていた53Crおよび注入した53CrのSIMSによる二次イオン強度から、両者のSIMSにおける感度を比較することができる。今回は計4回の測定でよい深さ方向プロファイルが得られ、その結果から、注入クロムと、試料中クロムの間のSIMS感度比は、1.27~1.54となった。この結果から、注入クロムと試料中クロムのSIMS感度には数10%の差があること、またその再現性も数10%程度であることが結論される。すなわち、クロムを注入した炭酸塩鉱物の標準試料を作製して用いれば、隕石中の炭酸塩鉱物のマンガン/クロム比を数10%程度の誤差で測定できることが示された。また、カンラン石のようなクロム濃度既知の試料と炭酸塩鉱物を同条件でイオン注入することで、注入クロムと試料中クロムの間の数10%のSIMS感度差をキャンセルすることができることも示唆される。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図:NanoSIMS 50Lによって得られた、カンラン石に注入された53Cr+イオンの深さ方向プロファイル。全体の53Cr+イオン強度から、52Cr+の信号強度と天然の53Cr/52Cr比を用いて計算した試料中の53Cr+の信号強度を差し引いて作成。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献:
1 Fujiya et al. (2012) Nature Communications 3:627、2 McCain et al. (2023) Nature Astronomy 7, 309–317
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- W. Fujiya, R. Kogiso, S. Sugawara, and K. Hashizume (2023) On the Mn-Cr dating of Ryugu carbonates using ion-implanted standard materials. 85th Annual Meeting of the Meteoritical Society. August 14-18, Los Angeles, CA, USA.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件