【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.17】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT0037
利用課題名 / Title
黒色酸化チタンのナノ微粒子化に関する研究
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
蓄熱材料,電子顕微鏡/ Electronic microscope,X線回折/ X-ray diffraction
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
賈 方達
所属名 / Affiliation
東京大学 大学院理学系研究科化学専攻
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
清木 陸,Fadilla Akhmad Fadel,吉清 まりえ,川口 泰史,大竹 登夢,紺野 裕生,浅野 捺貴,久保田 智子,山口 和也,川上 航太郎
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
福川 昌宏,近藤 尭之,押川 浩之,木村 鮎美,森田 真理,府川 和弘,飯盛 桂子
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
UT-008:高分解能トップエントリー型透過電子顕微鏡
UT-101:低損傷走査型分析電子顕微鏡
UT-103:高分解能走査型電子顕微鏡
UT-202:高輝度In-plane型X線回折装置
UT-102:高分解能走査型分析電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
五酸化三チタン(Ti3O5)は、α、β、γ、δといった異なる結晶構造を持つ酸化チタンです。我々の研究グループは2010年に、Ti3O5の中でも特異な新しい結晶形態であるラムダ型(λ-Ti3O5)を発見しました。この結晶相は室温で光によって可逆的に相転移する特性を持ち、このような現象が金属酸化物で観測されたのはこれが初めてでした[1]。更に、λ-Ti3O5は低圧で圧力誘起相転移を起こし、その過程で蓄積された熱エネルギーを解放することができるという蓄熱性能があることが判明しました[2]。2019年には、この性質を生かしたブロック型のλ-Ti3O5を合成し、蓄熱セラミックとしての応用可能性を確認しました[3]。金属置換型によりλ-Ti3O5の物性変化に関する研究も発表されました[4, 5]。研究は、λ-Ti3O5にアルミニウムを置換したλ-AlxTi3-xO5(0 < x <= 0.29)に焦点を当て、圧力による相転移効果及びその蓄熱特性について詳細に調査しました。特に、x = 0.01および0.04の場合に見られるβ-AlxTi3-xO5への相転移圧力は、それぞれ23 MPaと43 MPaと実用的な範囲内であり、第一原理計算を用いてAl3+イオンの置換効果と相転移への影響を検討しました。この研究により、新型の蓄熱材料としてのλ-Ti3O5およびそのアルミニウム置換体の潜在性に関する貴重な知見が提供され、エネルギーの有効活用に貢献する新しい道が開かれました。
実験 / Experimental
合成:本研究では、アルミニウムを置換したラムダ型五酸化三チタン(λ-AlxTi3-xO5、0 < x <= 0.29)の合成に成功しました。前駆体合成として、ルチル型TiO2粉末をアルミニウム硫酸塩溶液に分散させ、その後、アンモニア水を加えることでAlイオンを含有するTiO2の前駆体を作製しました。この前駆体を水素ガスの流れのもと、1300°Cで6時間焼成することにより、目的とするλ-AlxTi3-xO5サンプルを合成しました。実験:合成されたサンプルの結晶構造と相転移特性は、X線回折装置(XRD)高輝度In-plane型X線回折装置SmartLab(9kw)を使用して調べました。XRD測定は、Cu Kα放射線を用い、2θ範囲でスキャンを行いました。また、サンプルの微細構造については、電界放射形走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-7500F,JSM-7800F,JSM-7000Fおよび高分解能トップエントリー型透過電子顕微鏡(TEM)JEM-2000EXで観察しました。SEMでは加速電圧を10 kVと15 kVで行い、TEMでは加速電圧を200.0 kVに設定して詳細な構造分析を行いました。これにより、サンプルが持つ独特な形状や粒子サイズを明らかにしました(図1)。さらに、合成サンプルの圧力誘起相転移特性および蓄熱性能に関しては、圧力変化を伴う差分走査熱量測定(DSC)を用いて評価しました。これらの実験を通じて、アルミニウム置換によるλ-Ti3O5の物性変化及びその応用可能性について深い理解を得ることができました。
結果と考察 / Results and Discussion
本研究では、アルミニウム置換型λ-AlxTi3-xO5(0 < x <= 0.29)が圧力を加えることでβ-AlxTi3-xO5への相転移を示すことを確認しました。特に、x = 0.01と0.04のサンプルでは、転移圧力がそれぞれ23 MPaと43 MPaと測定され、これは実用的な応用に十分な範囲であることが示されました。アルミニウム置換により、相転移温度を制御することが可能となり、それによって蓄熱材料としての性能が大きく改善されることが期待されます。また、第一原理計算を通じて、アルミニウムイオンが置換するサイトの選択性と、その置換が圧力誘起相転移に与える影響についても検討しました。アルミニウムの置換は、相転移圧力だけでなく、相転移時に蓄積されるエネルギー量にも影響を及ぼすことが理論的に示され、実験結果との一致が見られました。これらの結果は、アルミニウム置換型λ-Ti3O5が、廃熱利用や再生可能エネルギーシステムなどの分野での応用において大きな可能性を持つことを示しています。特に、相転移温度や蓄熱能力を精密に制御できることは、熱エネルギーの効率的な管理と利用において重要な意味を持ちます。今後の研究においては、さらに多様な金属の置換や複合材料の開発によって、その性能の最適化および応用範囲の拡大が期待されます。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
(a)λ-Al0.01Ti2.99O5, (b)λ-Al0.04Ti2.96O5, (c)λ-Al0.13Ti2.87O5, (d)λ-Al0.29Ti2.71O5の粒子形状のSEM画像。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1] Ohkoshi, S. et al., Nature Chemistry, 2, 539–545 (2010). [2] Tokoro, H. et al., Nature Communications, 6, 7037/1–8 (2015). [3] Ohkoshi, S., Tokoro, H., Nakagawa, K. et al., Scientific Reports, 9, 13203 (2019). [4] Nakamura, Y., Sakai, Y., Azuma, M., and Ohkoshi, S., Science Advances, 6, 5264 (2020). [5] Ohkoshi, S. et al., Material Advances, 3, 4824–4830 (2022).本研究では、特にTEM観察において総合研究機構ナノ工学研究センターの押川様に、SEM観察において総合研究機構ナノ工学研究センターの福川様にご協力を頂きました。厚く御礼を申し上げます。 [6]DOI:https://doi.org/10.1039/D3CC00641G
URL:http://dx.doi.org/10.1039/d3cc00641g
発表年:2023
タイトル:Long-term heat-storage materials based on λ-Ti3O5for green transformation (GX)
筆頭著者:Shin-ichi Ohkoshi
ジャーナルタイトル:Chemical Communications
ボリューム:59
ページ:7875-7886
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Fangda Jia, Observation of a Pressure Effect on an Al-substituted λ-Ti3O5 Heat-storage Material, Chemistry Letters, 52, 748-751(2023).
DOI: 10.1246/cl.230244
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Riku Seiki, Akito Fujisawa, Akhmad Fadel Fadilla, Jia Fangda, Shin-ichi Ohkoshi, Hiroko Tokoro, Synthesis of λ-Ti3O5 using Titanium Chloride as starting material, Multiscale Phenomena in Condensed Matter Conference for young researchers, online, 3~5 July 2023, Poster.
- 清木陸、藤澤聖斗、Akhmad Fadel Fadilla、Jia Fangda、大越慎一、所裕子、塩化チタンを出発物質としたラムダ型五酸化三チタン、第13回CSJ化学フェスタ、タワーホール船堀、2023年10月19日、ポスター
- 清木陸、クロム置換体黒色酸化チタンの合成と特性評価、筑波大学 数理物質科学研究群 物性・分子工学サブプログラム 2023年度修士論文発表会、2024年2月15日
- T. Kubota, R.Seiki, A. Fujisawa, A. F. Fadilla, F.Jia, S.Ohkoshi, H.Tokoro, "Synthesis method for heat storage ceramic of λ-Ti3O5 using titanium chloride", PDSTM(東京), 2023年11月
- Akhmad Fadel Fadilla, Akito Fujisawa, Fangda Jia, Shin-Ichi Ohkoshi, Hiroko Tokoro, "Synthesis of λ-Ti3O5 using titanium chloride as starting material", 日本セラミックス協会第36回秋季シンポジウム(京都), 2023年9月
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件