利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.01】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UT0004

利用課題名 / Title

光触媒の分析・解析

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials

キーワード / Keywords

ソーラー水素製造、光触媒、水の完全分解、酸硫化物、透過電子顕微鏡、格子像観察、大面積展開,電子顕微鏡/ Electronic microscope,エネルギー貯蔵/ Energy storage,水素貯蔵/ Hydrogen storage,イオンミリング/ Ion milling,ナノ粒子/ Nanoparticles


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

山田 太郎

所属名 / Affiliation

東京大学 特別教授室

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

久富隆史,中林麻美子,堂免一成

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

寺西亮佑,福川昌宏,近藤尭之,押川浩之,木村鮎美,森田真理,中村光弘,柴田直哉

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-005:原子分解能元素マッピング構造解析装置
UT-006:ハイスループット電子顕微鏡
UT-154:イオンスライサー


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

粉末光触媒を用いた太陽光水分解反応は、ソーラー水素を大規模かつ安価に製造する技術として研究されている。光触媒を構成する材料は半導体であるため、良好な電荷移動特性を発揮させるには欠陥の少ない材料を合成する必要がある。また、半導体表面は酸化還元反応にはあまり活性ではないため、活性点として機能する助触媒を担持する必要がある。これらから構成される光触媒の活性を飛躍的に向上させるうえで、光触媒、助触媒の構造や組成を詳細に観察し、改善していく必要がある。本研究課題ではフラックス法で合成した可視光応答性酸硫化物Sm2Ti2O5S2の内部構造および、それに担持された複合助触媒の構造を電子顕微鏡を用いて詳細に解析した。

実験 / Experimental

酸硫化物光触媒Sm2Ti2O5S2 (以下STOS)はCaCl2/LiCl混合フラックス存在下で合成した。STOSに対し、IrO2をマイクロ波加熱水熱法で、Ptをマイクロ波加熱ソルボサーマル法で、Cr2O3を光電着法で逐次的に担持した。助触媒が担持されたSTOSは、メタノール水溶液からの水素生成反応に酸硫化物光触媒としては極めて高い活性を示し、波長420 nmの可視光に対して22%の外部量子効率を発揮した。その理由を明らかとするため、電子顕微鏡構造解析を試みた。光触媒STOS粉末試料は断面および粒子状態の二種のTEMサンプルを作製した。前者は光触媒を樹脂包埋してイオン研磨により薄片化する手法を用い、TEMサンプルに加工した。イオン研磨で用いた装置はイオンスライサー(EM-09100IS ; JEOL)であり、最大加速電圧は6.5 kV, 最小加速電圧は1.5 kVで、各作製工程により加速電圧やイオン照射角度を変更調節した。後者は光触媒をTEMグリッドに分散・乾燥し、粒子状態のTEMサンプルを作製した。電子顕微鏡(TEM, JEM-2800 ; JEOL)を用い、回折図形を取得しSTOSの結晶性を確認し、zone axisを合わせ結晶格子の状態を観察した。さらに、担持助触媒についての情報をより詳細に調べるために収差補正付原子分解能STEM (Cs-corrected thermal FE-STEM, JEM-ARM200F ; JEOL)を用いた。使用したTEMとSTEMの加速電圧は200 kVである。

結果と考察 / Results and Discussion

SEM像からは、STOSはサイズが1-2 μmの板状粒子で構成されていることがわかった(図1a)。TEM像では明瞭な格子縞が観察されたが、粒子内部の転位や粒界は観察されなかった(図1b)。制限視野電子線回折では、指数付け可能な明瞭な回折スポットを示した(図1c)。これらの観察結果から、STOSは構造欠陥の少ない単結晶微粒子として得られていることが確認された。このようなSTOS粒子は、LiClやCaCl2フラックスを単独で用いた場合には得られなかったことから、LiClとCaCl2を混合して融点を低下させたことが効果的であったと考えられる Ir、Pt、Cr成分を担持した後の試料をHAADF-STEM及びEDSで分析したところ(図1d-g)、IrO2の大きさは1 nm未満で粒子として観察できなかったが、Ptは大きさが2-4 nmあり、Cr2O3に被覆されている様子が見られた。先行研究により、このようなコア・シェル構造は助触媒上での逆反応の抑制に重要であることが示されている。STOS光触媒は、単結晶性の微粒子上に逆反応を抑制できる微細構造を有する助触媒が高分散に担持されたために、可視光水素生成反応を高効率に駆動できたと考えられる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. a An SEM image of a STOS specimen. b Lattice fringes generated by the STOS as obtained using HR-TEM. c A TEM image of a STOS specimen and the corresponding SAED pattern. d A TEM image of a Cr2O3/Pt/IrO2/STOS specimen and e an enlarged image of the surface. f, EDS mapping of Sm, Ir, Pt, and Cr. g An HR-TEM image of the surface of a Cr2O3/Pt/IrO2/STOS specimen. Reprinted from ‘Lin, L., Ma, Y., Vequizo, J.J.M. et al. Efficient and stable visible-light-driven Z-scheme overall water splitting using an oxysulfide H2 evolution photocatalyst. Nat Commun 15, 397 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-44706-4”. © The Author(s) 2024’.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Lihua Lin, Efficient and stable visible-light-driven Z-scheme overall water splitting using an oxysulfide H2 evolution photocatalyst, Nature Communications, 15, (2024).
    DOI: 10.1038/s41467-024-44706-4
  2. Jiadong Xiao, Sub-50 nm perovskite-type tantalum-based oxynitride single crystals with enhanced photoactivity for water splitting, Nature Communications, 14, (2023).
    DOI: 10.1038/s41467-023-43838-3
  3. Lihua Lin, Flux‐Assisted Synthesis of Y2Ti2O5S2 for Photocatalytic Hydrogen and Oxygen Evolution Reactions, Angewandte Chemie International Edition, 62, (2023).
    DOI: 10.1002/anie.202310607
  4. Swarnava Nandy, Oxide layer coating enabling oxysulfide-based photocatalyst sheet to drive Z-scheme water splitting at atmospheric pressure, Joule, 7, 1641-1651(2023).
    DOI: 10.1016/j.joule.2023.05.018
  5. Lihua Lin, Formation Mechanism for Particulate Y2Ti2O5S2 Photocatalyst by the Solid-State Reaction, Chemistry of Materials, 36, 1612-1620(2024).
    DOI: 10.1021/acs.chemmater.3c02929
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:1件

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