【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.04.22】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23BA0001
利用課題名 / Title
TiNの新規アプリケーションとして利用可能な薄膜の成長条件の探査
利用した実施機関 / Support Institute
筑波大学 / Tsukuba Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/ Electronic microscope,セラミックスデバイス/ Ceramic device,スパッタリング/ Sputtering,光学顕微鏡/ Optical microscope,電子分光/ Electron spectroscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
片桐 創一
所属名 / Affiliation
筑波大学イノベティブ計測技術開発センター
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
小倉暁雄,野木広光
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
谷川俊太郎,俵妙
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
BA-002:スパッタリング装置
BA-014:触針式表面段差計
BA-021:極低温プローブステーション
BA-015:X線光電子分光装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
目的:真空における直流沿面放電の現象解明から耐放電メカニズムを解明すること。
用途:荷電粒子線システムの高電圧アプリケーション(SEM、TEM、X線源用電子銃、光励起電子銃他)
実施内容:絶真空中における沿面放電の代表的なモデルを図1に示した。絶縁体の両端に導体である陰陽極を備えた構造物が真空中に設置され、電極間に電位差を与えたモデルである。このような場合、真空、導体、絶縁体の3種類の物質の誘電率が異なるために電位勾配が生じ、3つの物質が交差する三重点に電界が集中する。この電界強度が陰極の仕事関数を超えるとトンネル効果による電界放出電子が真空中に放出される。この電子が絶縁体表面に衝突すると2次電子が生じることになる。通常使用されるアルミナセラミックスの場合2次電子イールドは6~9程度と大きいので、絶縁体表面は正帯電するためにより多くの電子を引き寄せ雪崩的に増加して陽極に至ることになる。このために陰陽極間に暗電流が生じる。これが放電の前駆現象であり、さらに進むと絶縁体表面に吸着したガス分子が励起されて絶縁体表面近傍に飛び出し、電子と衝突することでイオン化する現象(ESD)が加わり、多くの場合発光を伴うスパーク放電となるものである。
沿面放電リスク低減には、①三重点の電界緩和による電界放出電子の抑制、②2次電子イールドの低減、③帯電の抑制[1]、④ESDガスの抑制に効果が期待できる。本研究は直流放電の特徴である③の帯電抑止について検討したものである。その結果、TiN薄膜の作成条件の検討に加え、膜を酸化することによる抵抗値の制御が可能であることを見出した。さらに、帯電抑制効果があることを確認した。
実験 / Experimental
沿面放電モデルのうち帯電抑制について実験的に検証するため、アルミナ表面に僅かに導電性を持たせるためにTiN膜を10 nm程度スパッタ成膜し、さらに酸素雰囲気中で熱酸化(TiNOx)することで抵抗値を制御したサンプルを試作した[1]。表面抵抗率は10^13Ω/sq.台である。比較するためのアルミナの表面抵抗率は10^15~10^16Ω/sq.である。
サンプル形状は図2に示す通り幅10 mm、長さ47 mm、厚さ1 mmの板状の両端に銅テープで形成した電極が配線されたもので、沿面長さは30 mm程度である。サンプル面の両電極間を移動可能な静電電位測定プローブはサンプル面との間隔を5 mm離してある。また、サンプルホルダは図3に示すようにアクリル板を組み合わせて作製した。実験装置としては図4に示す構成を用いた。ガラスチャンバ内をターボ分子排気ポンプで真空排気することで10^-3 Pa台の真空度を保ち、チャンバ内部にサンプルホルダに試験用サンプルを固定する。サンプル面に沿って移動可能なプローブが設置されており、サンプル面上の帯電電位を非接触で測定できる。サンプル上下面には電極があり、上部電極に直流高電圧電源(最大±20 kV)が配線され、サンプル上部電極に通電する。サンプル下部電極は電流計を介して接地しており、微小電流を測定可能としている。
次に実験方法について述べる。サンプルとしてTiNOx膜を成膜したものと、していないアルミナに対してランプ電圧を印加した時の電流と表面電位の時間変化を測定する。静電プローブは陰陽極間の中央に固定した。印加電圧は10 kVまで増加させた。
結果と考察 / Results and Discussion
図5(a)は印加電圧と電流値の時間変化であり、(b)は印加電圧と表面電位の時間変化を示している。このとき、表面電位の測定プローブはサンプルの中央付近に固定している。40 sまでは増加率がほぼ一致しているが、それ以降、表面電位が増加している。これとほぼ同期して電流に2次電子雪崩現象と思われるパルス状の波形が現れており、帯電との関与が考えられる。また、図5(c)は電圧を1,3,5 kV印加した際の表面電位分布を規格化したものであり、(d)は除電後の表面電位分布を示している。これも陰陽極間をつなぐ2次電子雪崩放電が発生し、その影響でアルミナ表面が正帯電していると考えられる。この正帯電は、印加電圧を増加すると正帯電電位も増加する傾向があり、除電して0 kVにしても残留する。5 kV印加時では約1.8 kVであった。このことから高電圧下に伴い、正帯電位が増加することでより沿面放電を促進してしまっている。
一方、図6はTiNOx膜を成膜したアルミナに同様の実験を行った結果を示している。図6(a)より、2次電子雪崩放電は生じているが、図6(b)に示すように表面電位と印加電圧の増加率が一致しており、ほぼ帯電していないことが分かる。図6(c)に示した電圧印加時の電位分布において、各電圧における差異がなく、図6(d)に示すように除電後の分布もほぼフラットで差が見られない。これはアルミナ表面に形成した、僅かに電流を流すTiNOx膜により除電されているためと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 真空中の沿面放電モデル
図2 サンプルとホルダの構成
図3 サンプルとホルダ
図4 実験装置の構成
図5 アルミナサンプルの実験結果
図6 TiNOx膜付きサンプルの実験結果
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
引用文献
[1] A. Ogura, S. Katagiri, Y. Yuanchao, H. Nogi, R. Hasunuma: Abs. 14th-IVESC, P2-13 (2023)謝辞
ARIM利用にあたり微細加工PFの谷川俊太郎氏には大変お世話になり、ありがとうございました。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- A. Ogura, S. Katagiri, Y. Yuanchao, H. Nogi, R. Hasunuma: Abs. 14th-IVESC, P2-13 (2023)
- 小倉 暁雄*,片桐 創一,姚 遠昭,野木 広光,蓮沼 隆,”金属酸化物薄膜を有したアルミナ表面の帯電評価”電気学会全国大会(徳島),令和6年3月16日
- 小倉 暁雄*,片桐 創一,姚 遠昭,野木 広光,蓮沼 隆,”TiO2薄膜コーティングしたアルミナ表面の帯電評価",応用物理学会春季学術講演会(東京),令和6年3月23日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件