【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.30】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS0024
利用課題名 / Title
液晶性有機薄膜の液晶転移に伴う表面モルフォロジー変化のその場観察
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
薄膜, 液晶, AFM,電子顕微鏡/Electron microscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
丸山 伸伍
所属名 / Affiliation
東北大学大学院工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
张 文重(D2)
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
湊 丈俊
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
有機薄膜の構造制御において、基板と有機薄膜の間にバッファ層を挿入する方法は、有効なアプローチの一つである。我々は、新しいバッファ層として液晶性有機薄膜を用いることを提案し、バッファ層の液晶相転移がその上の有機薄膜の結晶状態に及ぼす影響を調査している。本研究では、バッファ層の液晶相転移近傍における、液晶性バッファ層表面のモルフォロジー変化を、温度可変走査プローブ顕微鏡を用いて直接観察した。
実験 / Experimental
本研究では、200 nm の熱酸化膜付きSi基板上に成膜した、イオン液晶材料1-hexadecyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate ([C16mim][PF6])の薄膜の表面形状の温度依存性を調べた。[[C16mim][PF6]は75 ℃から125 ℃の温度範囲でスメクチックA液晶相をもち、75 ℃以下では結晶であることが知られている。まず、東北大において、連続発振赤外(CW-IR)レーザ蒸着法を用いて、蒸着速度~6 nm/minで室温真空蒸着したas-deposited試料と、蒸着直後に真空中、液晶温度でポストアニールして結晶性と平坦性を向上させた試料[1]を準備した。これらの試料を真空ポットに入れて分子研に持ち込み、環境および温度の制御が可能な走査プローブ顕微鏡Bruker Dimension XR Iconを用いて、窒素雰囲気中で室温から70 ℃または80 ℃の温度範囲で昇温し、タッピングモードで表面モルフォロジーの温度変化を観察した。
結果と考察 / Results and Discussion
As-deposited薄膜試料では、図1に示すように、30 ℃において、数100 nmのモザイク状グレインが多数観察され、RMS表面粗さは9 nm程度であったが、スメクチック液晶転移温度である75 ℃よりも低温の50 ℃程度から形状の変化が観察され、60 ℃で薄膜の一部に100 nm以上の高さをもつ液滴状の構造が現れた。70 ℃でもこの構造は保たれ、30 ℃まで降温後は平坦なテラスとステップ構造が確認された。我々は、[C16mim][PF6]薄膜をバッファ層として用いた有機膜において、ペンタセン薄膜の昇温過程における結晶多形転移や、非晶質ルブレン薄膜の結晶化が、相転移温度より低温から生じることを観察しており、今回観察されたモルフォロジー変化が、それらの現象のきっかけとなっている可能性が示唆された。一方、ポストアニールした[C16mim][PF6]薄膜では、30 ℃において、直線的なステップとテラスから構成されたRMS表面粗さ約2 nmの比較的平坦な表面をもち、50 ℃までほとんどモルフォロジー変化は見られなかったが、60-70 ℃でテラス上の島の外形がわずかに変化した。液晶相転移温度を超える77-80 ℃まで昇温すると、平坦性を保ったまま、大きくモルフォロジーが変化し、ステップが曲線的となった。このように、ポストアニール薄膜はas-deposited薄膜よりも、加熱に対して表面形状が安定であることが分かった。 本研究では、[C16mim][PF6]薄膜の昇温過程において、液晶転移温度以下での光学顕微鏡レベルでは観察が困難なサブミクロンスケールの形状変化とナノスケールの高さ変化を、分子研のBruker Dimension XR Iconを用いることで明瞭にとらえることができた。この結果は、液晶薄膜そのものの応用だけでなく、液晶材料をバッファ層とした有機膜における熱安定性を議論する上で、有用な知見である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. As-deposited薄膜試料における昇温過程および降温後のAFM形状像
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献 [1] H. Komatsu et al., Chem. Lett. 2022, 51, 162–165.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件