利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS0023

利用課題名 / Title

コハク酸、リンゴ酸の吸着によるカルサイトの溶解促進メカニズムの解明

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)その他/Others

キーワード / Keywords

原子間力顕微鏡,吸着,炭酸カルシウム,結晶溶解


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

荒木 優希

所属名 / Affiliation

金沢大学理工研究域数物科学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

井村 晃男

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

湊 丈俊

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-204:走査プローブ顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

カルボキシ基を持った有機物は炭酸カルシウム結晶(カルサイト)表面へ吸着し、成長速度や形態を変化させると考えられている。我々は、吸着が結晶のステップダイナミクスを変化させるのであれば、溶解にも同様に有機物の吸着が影響を及ぼすと考え、コハク酸、リンゴ酸を添加物としてカルサイト表面の溶解過程(エッチピットの形成)を微分干渉顕微鏡でその場観察してきた。エッチピットの形態変化からステップ後退速度を解析したところ、これらの添加物は①ステップの後退速度を促進させること、②ステップの後退速度を阻害すること、③分子構造が酷似しているにも関わらず、コハク酸とリンゴ酸で吸着場所に差異があることが明らかとなった。本研究では、これらの添加物の吸着場所および吸着量を調べ、溶解促進・阻害を引き起こすメカニズムを明らかにすることを目的とする。試料表面の局所的な粘弾性をマッピングできるピークフォースタッピング原子間力顕微鏡を用いて、添加物の存在下で溶解させたカルサイト表面を大気中観察したところ、コハク酸、リンゴ酸ともにカルサイトのステップの形態をラフに変化させていることがわかった。また、コハク酸はクラスター状にステップ端に吸着している様子が観察された。添加物濃度を一定に保ちながら、これらの吸着、ステップ形態変化をその場観察するため、溶液フロー観察システムの最適化を行い、カルサイトの溶解過程を観測することに成功した。その結果、溶液を流しながらの観察ではステップの形態変化や添加物の吸着は見られず、これらの変化はより高濃度の条件で起こることが示唆された。

実験 / Experimental

分子研所有のピークフォースタッピング原子間力顕微鏡を用い、①0.2 Mコハク酸、およびリンゴ酸水溶液中で溶解後のカルサイト表面のex situ観察と、②0.1 Mコハク酸水溶液をフローさせた条件でのカルサイト表面その場観察を行った。①、②ともカルサイト表面に形成したエッチピット周囲の溶解ステップを観察し、添加物の吸着場所と吸着量に注目して観察した。さらに、添加物の吸着と事前に測定したステップ後退速度との関係を調べた。なお、②の溶液を流しながらの実験は、観察中に溶液濃度を一定に保つことを目的としており、本課題では液中観察セルとフローポンプを接続して溶液フロー条件下でのその場観察の最適化を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

①0.2 Mコハク酸水溶液で溶解後のカルサイト表面を大気中で観察したところ、エッチピットを形成するステップの構造が直線的なものから荒れた形態に変化しており、そのステップ端に数10 nmの吸着物が見られた。ピークフォースタッピング法によって得られる粘性のマッピング像より、吸着物はカルサイト表面に比べ粘性が高いこと、純水中で溶解したカルサイト表面には見られないことから、コハク酸のクラスター分子であると考えられる。しかし、予想とは異なり、コハク酸は溶解速度が低下したステップと、上昇したステップの両方に吸着していた。このように、吸着場所に異方性はなく、吸着量にも有意な差は見られなかった。リンゴ酸水溶液中で溶解したカルサイト表面の観察では、コハク酸と同様にステップの構造が直線からジグザグに変化していたが、ステップ端に吸着物は見られなかった。 コハク酸クラスターの吸着とステップ構造の変化が、試料を乾燥させる過程で起きている可能性が考えられるため、②0.1 Mコハク酸水溶液を流しながらカルサイト表面の溶解をその場観察をしたところ、 ステップ、ともその形態は直線的なまま溶解が進行し、ステップ端への吸着物も見られなかった。従って、①で見られたステップ端へのクラスターの吸着やステップ形態の変化は試料の乾燥過程で生じたと考えられる。このことから、コハク酸の濃度が上がるとステップへの吸着や形態変化が生じる可能性が浮上した。添加物の吸着とステップの溶解促進・阻害の関係および、添加物の分子構造の違いによる吸着場所の差異を明らかとするには、今後より高濃度の条件でステップの形態(およびその異方性)、吸着形態を明らかにする必要がある。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 井村滉男、中田俊隆、湊丈俊、荒木優希、”コハク酸リンゴ酸を添加した水溶液中におけるカルサイトの溶解促進効果”、第51回結晶成長国内会議、広島、2022年11月
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

スマートフォン用ページで見る