利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23NM0002

利用課題名 / Title

赤外線カメラを用いた微細流路内の沸騰熱伝達の非定常測定

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

CAD, エネルギー関連技術, 沸騰熱伝達, 赤外線カメラ,スパッタリング/ Sputtering,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,光リソグラフィ/ Photolithgraphy


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

吉田 雅輝

所属名 / Affiliation

防衛大学校理工学研究科後期課程装備・基盤工学系専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-607:スパッタ装置 [CFS-4EP-LL #3]
NM-608:スパッタ装置 [JSP-8000]


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

日本政府が2050年カーボンニュートラルの目標を掲げたことによって,各種機器の省エネ化に寄与する技術開発への関心が高まっている.冷凍空調分野では,単位面積当たりの伝熱量の増加や冷媒充填量の削減を目的とし,熱交換器内の流路の微細化に着目した研究と実用化が進められている.特に,矩形流路では円形流路よりも熱伝達が向上することが知られており,扁平多孔管熱交換器として実用化されている.ただし,この伝熱性能を十分に説明した伝熱モデルや数値計算モデルは提案されていない.そのため,矩形微細流路における流動沸騰熱伝達の動的挙動を十分に理解し,気泡の挙動に対応した熱伝達変動を定量的に把握する必要がある.本研究では,矩形微細流路内の熱伝達変動を高時空間分解測定を目指した.測定を実現するため,NIMS微細加工プラットフォームの設備を利用し,フッ化カルシウム(CaF2)への酸化インジウムスズ(ITO)の成膜を実施した.このサンプルで赤外線計測を行う場合,赤外線透過窓材であるCaF2を介して赤外線不透明導電性膜であるITO膜の温度を測定することが可能である.また,サンプルは可視光を透過する.そのため,作成したサンプルを矩形微細流路の壁面の一部とすることにより,高速度赤外線(IR)カメラで沸騰に伴う壁面(ITO膜)の温度計測を行うとともに,外部から高速度カメラで沸騰気泡の気液界面挙動を撮影することができる.今回は,沸騰の各素過程(薄膜蒸発,ドライアウト,三相界線,リウェット)に対応する熱伝達挙動を可視化することができるか検証した.

実験 / Experimental

沸騰熱伝達変動を計測するため,赤外線と可視光を透過するフッ化カルシウム(CaF2,φ30 mm × t 2 mm)の片面に,ITO(t700nm)をスパッタ成膜したサンプルを作成した.ITOスパッタはAr:13.3 sccm,O2:0.7 sccm,圧力:0.25 Pa,DCパワー:200 W の条件で行った.Fig.1に示すように,成膜したITOは可視光を十分に透過し,赤外線をほとんど透過しない(透過率1%以下).そのため,サンプル越しに可視画像の撮影と赤外線カメラによるITO表面の温度変動の計測を行うことができる.さらに,サンプルに成膜したITO膜の形状を流路の形状に合わせるため,ウェットエッチングを行った.サンプルのITO膜面にレジスト(AZ1500,38cp)を成膜(3μm)し,流路の形状(辺長2 mm)に合わせたフォトマスクを被せて露光し,現像を行うことで,レジストパターンを作成した.このサンプルをITOエッチング液(ITO-07N)でウェットエッチングすることで,ITOパターンを作成した.サンプルのITO成膜面を流路壁とし,流路の外部からITO膜を通電加熱するため,ITO成膜面から裏面にかけてスパッタでAu電極(t 200 nm)を成膜した(Fig.1参照).AuスパッタはAr:15 sccm,圧力:0.25 Pa,DCパワー:200 W の条件で行った.ITO膜と水を電気的に絶縁するため,ITO成膜面の全面にSiO2(t 500 nm)を成膜した.SiO2スパッタはAr:15 sccm,圧力:0.25 Pa,RFパワー:200 W の条件で行った.Fig.2に実験装置の概要を示す.今回は,平均流速v = 0.16 m/s程度の水(脱気した純水)をプレヒータで沸騰が起こらない温度(99 ℃程度)まで加熱し,矩形ミニチャネルに流入させた.Fig.3に示すように,水平に設置したポリカーボネート製の矩形ミニチャネル(断面2 mm × 2 mm)の下面の一部に作成したサンプルを設置した.サンプルのITO膜を熱流束qin = 183 kW/m2で金電極を介して外部から通電加熱し,その上面に加熱した水流を通過させた.水流の沸騰挙動を2台の高速度カメラ(2000 Hz)で真上および斜め下方から撮影し,加熱面(ITO膜)の温度変動を高速度赤外線カメラ(2000 fps,0.03 mm/pix)で測定した.さらに,赤外線カメラで測定したITO膜の温度分布Tw(x,z,t)を境界条件とした窓材内の三次元非定常伝導解析を行い,加熱面から水流への熱流束qw(x,z,t)を算出した[1].

結果と考察 / Results and Discussion

Fig.4に,(a) t = 24 ms,(b) t = 191 ms,(c) t = 224.5 ms,(d) t = 427 msの瞬間(t = 0 msが計測開始時間)における沸騰気泡の様相,および加熱面の温度分布と熱流束分布を示す(上から,高速度カメラで真上から撮影した可視画像,斜め下方から撮影した可視画像,加熱面の温度分布,および熱流束分布を示している.座標系はFig.3参照).Fig.4 (a)では,流路内の大半は液相であり,流路の両端やITO膜のエッチングによって作成した人工発泡点(座標x = 10 mm,z = 0 mmに作成した直径φ 20 µm程度,深さ700 nm程度のキャビティ)では沸騰気泡が生成している.このとき,局所熱流束qwは気泡の発泡点で高く,気泡周囲においてもやや高くなっている.これは,気泡の発泡による薄液膜蒸発や気泡による対流の擾乱によると考えられる.Fig.4 (b)では,気泡の成長に伴い気泡同士が合体し,流路断面に向かって広がった気体プラグが形成されている.気体プラグが成長すると気泡底部の薄液膜蒸発によって局所熱流束qwが上昇し,局所温度Twが低下している.Fig.4 (c)では,局所熱流束qwの低い箇所が随所に確認できる.これは,Fig.4 (b)で形成された気体プラグが流路全体に広がり,気体プラグの底部に形成された薄液膜のドライアウトによってドライパッチが形成されるためであると考えられる.また,このときドライパッチの周囲に沿って局所熱流束qwの高い領域が形成されていることが確認できる.この領域は固気液が接する三相界線であると考えられる.なお,x > 12 mmでは液体が淀んでおり,局所温度Twが上昇している.そのため,時々気泡の核生成による熱流束の上昇が見られる(Fig.4 (c)の座標x = 12 mm,z = − 0.8 mm).Fig.4 (d)では,ドライパッチの形成によって局所温度Twが上昇していた領域でリウェットが起こっている(Fig.4 (d)の座標x = 7 mm,z = − 0.5~0.8 mm).上流からの液体によって壁面が急激に冷やされるため,局所熱流束qwが急上昇している.また,リウェット領域の上流側では,液体の温度上昇に伴う気泡の核生成によって,局所熱流束qwが上昇していることも確認できる(Fig.4 (d)の座標x = 6.5 mm).このように,流動沸騰現象の可視画像と熱流束qw(x,z,t)を対応させることで,薄液膜蒸発,三相界線,ドライアウト,リウェットといった沸騰の各素過程に対応した領域を判別できることを確認した.今回はさらに,MatlabのImage Processing Toolboxの関数である ”imclose(画像内の隙間の塗りつぶし)” や ”imdilate(画像の膨張処理)”などを使用した画像解析アルゴリズムを作成し,薄液膜蒸発(Lf),三相界線(Cl),ドライアウト(Dry),リウェット(Rew),強制対流(Fc)の5つの素過程に区分した.なお,画像解析の事前処理として,熱流束qw(x,z,t)を3つの閾値によって,超高熱流束域A,高熱流束域B,中熱流束域C,低熱流束域Dの4つの領域に区分した.Fig.5に,熱流束qw(x,z,t)の区分結果の一例を示す.Fig.5 (a)はFig.4 (d)の熱流束qw(x,z,t)であり,Fig.5 (b)~(e)は3つの閾値によって区分したA~Dの領域,Fig.5 (f)~(j)は5つの素過程に区分した結果である.区分された領域を黄色で塗りつぶしている.Fig.6は,5つの素過程に区分した熱流量Q(薄膜蒸発QLf,三相界線QCl,ドライアウトQDry,リウェットQRew,強制対流QFc,それぞれ熱流束qwを面積で積分したもの)と全熱流量QTotの時間変化を示している.t < 150 msの気泡流では,強制対流QFcが支配的であるが,流路端では気泡形成による薄膜蒸発が観察される(Fig.4 (a)も参照).t≒200msでは,QLfが急激に増加し,全熱流量QTotも急激に増加する.これは,Fig.4(b)に示すように,プラグ気泡の薄い液膜蒸発がより大きな専有面積を占めるためである.そして,これが全伝熱量の増加に大きく寄与している.200 ms < t < 400 msでは,ドライパッチ面積が大きくなるため,QLfとQTotは急速に減少する(Fig.4 (c)も参照).しかし,QTotの減少は,三相界線(QCl)の寄与が大きいため,顕著ではない.t > 400 msでは,ドライパッチのリウェットが起こるが(Fig.4 (d)も参照),QRewの寄与は小さい.このように,流れの沸騰パターンの変化によって,各素過程の寄与が変化することが確認された.また,薄液膜蒸発の寄与が大きくなると,それに対応して全伝熱量が増加することも確認できた.今後は,実験回数を増やし,流量,気体の流量比,壁面加熱熱流束の変化による流動様相の変化や伝熱への寄与の変化を明らかにしていく.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig.1 Sample for boiling experiment (ITO deposited on CaF2).



Fig.2 Schematic of the experimental setup.



Fig.3 Schematic of the test section.



Fig.4 Instantaneous boiling behaviors and corresponding temperature and heat flux distributions:top-visible image (high-speed visible camera 1, from above); 2nd from top-visible image (high-speed visible camera 2, from diagonally below); 2nd from bottom-wall temperature Tw; bottom-wall heat flux qw.



Fig.5 An example of heat flux classification results (Results of classifying the wall heat flux in Fig.4 (d)).



Fig.6 Temporal fluctuations of heat flow rate Q.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

【謝辞 本研究の一部は,科研費(No.21K03908)の助成を受けた.】 【参考文献 [1] M. Yoshida et al., IHTC-17, (2023-8), IHTC-17 | ID:0465. 】 【受賞 第60回 日本伝熱シンポジウム 優秀プレゼンテーション賞, 日本伝熱学会 (2023-5). 】 【本研究は防衛大学校理工学研究科後期課程の卒業研究として実施した.】


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Masaki Yoshida, High spatio-temporal resolution measurement of boiling heat transfer of a falling droplet, Applied Thermal Engineering, 228, 120464(2023).
    DOI: https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2023.120464
  2. Masaki Yoshida, HIGH SPATIO-TEMPORAL RESOLUTION MEASUREMENT OF FLOW BOILING HEAT TRANSFER IN A RECTANGULAR MINICHANNEL VIA A VISIBLE-LIGHT TRANSPARENT HEATER WALL, Proceeding of International Heat Transfer Conference 17, , 10(2023).
    DOI: https://doi.org/10.1615/IHTC17.150-100
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 吉田雅輝, 山田俊輔, 船見祐揮, 中村元, 可視透明ヒータを壁面とした矩形ミニチャネル内流動沸騰熱伝達の高空間分解能測定, 第60回日本伝熱シンポジウム, (2023-5), H1414.
  2. 吉田雅輝, 山田俊輔, 船見祐揮, 中村元, 矩形微細流路内の流動沸騰様相と熱伝達変動の高時空間分解測定, 2023年度日本冷凍空調学会年次大会, (2023-9), A233.
  3. 吉田雅輝, 山田俊輔, 船見祐揮, 中村元, 壁面の熱物性値が流動沸騰熱伝達計測に及ぼす影響, 日本機械学会熱工学コンファレンス2023, (2023-10), I135.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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