利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.01】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23NR0014

利用課題名 / Title

機能導入した表界面の微細構造の状態観察

利用した実施機関 / Support Institute

奈良先端科学技術大学院大学 / NAIST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials

キーワード / Keywords

分離材料、表面・界面、分子集合体、金属ナノ粒子,電子顕微鏡/ Electronic microscope


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

島内 寿徳

所属名 / Affiliation

岡山大学 大学院環境生命科学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub),共同研究/Joint Research


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NR-204:走査透過電子顕微鏡(STEM)
NR-203:200kV透過電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

表面・界面(表界面と呼ぶ)でのタンパク質や低分子量物質の化学的処理を可能とする分離材料を構築することを目的とする。そのため、以下の2点について検討する。(1)表面でのタンパク質の分子集合体(たとえばアミロイド)の形成状況を観察する。可能であれば、微細構造(アミロイドの直径やねじれ構造など)を調査する。(2)化学的処理を触媒作用で行うべく、機能性物質(金属ナノ粒子や金属錯体など)を導入する。この申請では特に表界面に析出した金属ナノ粒子の組成をSTEMにより検討し、所望の金属ナノ粒子であることを実証する。別途解析中の触媒作用のデータと比較することにより、表界面への機能性物質の導入の成否を議論したい。

実験 / Experimental

(1)脂質として,中性のソルビタンモノオリエート(Span40)、Tween40、ならびに1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (DPPC)、正電荷脂質dioleoyloxy-3-(trimethyl ammonio)propane (DOTAP) を用いた(図1).各種脂質組成のベシクルは水和法とエクスとルージョン法により粒径100nmに調整した.あるいは,図2に示すような亜臨界水乳化法によりW/O/Wエマルションを調製し,その後に溶媒拡散によりベシクルを作成した.その後,このベシクルとAβ やα-シヌクレイン(10 μM)をリン酸緩衝液 (PBS 50 mM pH 7.4 )中で混合し,37˚Cで48 h保温してアミロイドを作成した(図3(a)).(2)図2の方法を用いたベシクル形成過程において脂質DOPCやDOTAPを用いた.金属錯体H2PtCl6・6H2O、HAuCl4・4H2O、そして2-エチルヘキサン酸スズ (II)を導入した(構造式は図1を参照).保護剤としてポリビニルピロリドン(PVP),を添加し,粒径を100 nmに調整した後,還元剤NaBH4を添加して金属ナノ粒子(NP)を得た.同様の方法を水/メチルイソブチルケトン(MIBK)からなる二相系のスラグ流の界面において実施し,金属ナノ粒子を得た.具体的には,金属錯体水溶液+PVPと脂質-MIBK溶液をT字合流路で流量比1:1(0.011 mL/min)で混合し,スラグ流を形成させた.

結果と考察 / Results and Discussion

まず、種々の脂質組成において,亜臨界水乳化法と溶媒拡散法の組み合わせによりベシクル形成が可能かを検討した(前年度採択課題からの継続).cryo-TEM観察の結果,ベシクルが形成されていることが分かった.また,図2の装置を用いて金属錯体水溶液+PVPと脂質-MIBK溶液を流し,T字合流路で混合するとスラグ流が形成された.ここで,スラグ流は互いにほとんど溶解しない二相が交代しながら流れる流動状態のことを指す.このように,図2の装置を用いて,W/O/Wエマルションやスラグ流を作り分けることが可能であった.そこで,ベシクル膜表面やスラグ流の水/MIBKの界面を本課題における「表界面」として利用する.
(1)図3(b)に示すように、ベシクル共存条件でアミロイドが得られた.アミロイドは200~400 nmの長さアミロイドが絡まるようにアミロイド凝集物を形成していることが分かった.拡大して微視的構造を観察した結果,100 nm未満の短いアミロイドが側方に凝集している様子(図3(c))や軸方向に交互に結合している様子(図3(d))が見られた.またα-シヌクレインのアミロイドでも同様の微視的構造が確認された.本知見は,ベシクル膜表面がアミロイドの生成場として振舞い,その微細構造に影響を与える可能性を示唆している.
(2)(2-1)ベシクル上に金属ナノ粒子(NP)を形成した後,STEM観察を行った.Auでは数nm程度の粒径であった(図4(a)).これはベシクル膜表面に保護剤としてPVPを被覆していることにより,そのマトリックス内での還元反応に伴う金属ナノ粒子成長が生じたことに起因すると考えられる.次に,微細構造を図4(b)に示した.格子面間距離は0.24 nmであった.これは典型的な面心立方格子(FCC)であることが示唆された.この粒子の組成をEDSモードで調べた結果,図4(c)に示すように,主成分としてAuがそれぞれのサンプルにおいて確認された.それ以外のピークとして炭素由来とサンプル台由来のAlやCuのピークが見られた.それゆえ、おおむねAuNPを得たと考えられる.一方、Ptの場合も粒径10 nmよりも大きなNPが見られ、EDSによりPt成分も検知できたが、さらなる微細化を検討している段階である.SnについてはNPとは呼べない大きい粒子が形成されており、微細化に向けた最適化を進める.本材料は,ベシクル界面に数nmの金属ナノ粒子が担持され,さらに外層に高分子PVPが被覆された複合材料である.PVPは触媒(反応場)である金属ナノ粒子表面への基質の拡散を制御できる可能性がある.
(2-2)同様の分析手法により水/MIBK二相系からなるスラグ流界面でもPtとAuのNP形成が可能であることが分かった.今後も詳細に検討を進める予定である.
以上から、ベシクル膜表面へのアミロイド形成,ベシクル膜表面や水/MIBK界面での金属NP形成が可能であることが示された.今後の研究を通して反応分離場として機能性物質を表界面上に構築することが期待される.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 使用物質の名称と構造



図2. 亜臨界乳化法と溶媒拡散法を組み合わせたベシクル調製法



図3. (a) ベシクル上でのアミロイド形成に関する概要図,(b) アミロイド,(c,d) アミロイドの拡大図.(b)と(c,d)のスケールバーはそれぞれ200 nmと20 nm.



図4. 金属ナノ粒子(Auの場合)のSTEM像やEDSモードによる組成分析.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本課題は前年度までの継続課題である.その研究成果の一部は本年度成果公表を行った.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Toshinori Shimanouchi, Hydrothermal Preparation of Faceted Vesicles Made of Span 40 and Tween 40 and Their Characterization, Applied Sciences, 13, 6893(2023).
    DOI: https://doi.org/10.3390/app13126893
  2. Toshinori Shimanouchi, Conversion of Glycerol to Lactic Acid by Using Platinum-supported Catalyst Combined with Phosphatidylcholine Vesicles, Chemistry Letters, 52, 426-429(2023).
    DOI: https://doi.org/10.1246/cl.230117
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Y. Sano, T. Shimanouchi, K. Hayashi, Y. Kimura, Preparation of lens-like vesicles made of Span40 and Tween40 by using hydrothermal conditions and solvent extraction,ICOM2023@幕張メッセ, P1-BR-19,令和5年7月10日
  2. 島内寿徳、高橋勇貴、木村幸敬,乳酸合成反応における白金担持触媒へのリポソームの複合効果,日本膜学会第45年会・膜シンポジウム2023合同大会(早稲田大学),P-46,令和5年11月21日(2023)
  3. 島内寿徳, 松崎啓人, 木村幸敬,スラグ流界面を利用した金属ナノ粒子の合成と乳酸合成への応用,化学工学会第89年会@大阪公立大,K323, 令和6年3月20日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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