利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.03.25】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UT1029

利用課題名 / Title

グラフェンナノスケールデバイスの作製と多層グラフェンの光学特性評価

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

カーボン系材料/Carbon related materials, ナノシート、ナノリボン/Nanosheets and nanoribbons,光学顕微鏡/ Optical microscope,電子線リソグラフィ/ EB lithography,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,量子効果/ Quantum effect,ナノシート/ Nanosheet


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

松井 朋裕

所属名 / Affiliation

アンリツ株式会社

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

鎌田雅博,横澤峻元,越智太亮,岡本明文

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術相談/Technical Consultation


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-503:超高速大面積電子線描画装置
UT-606:汎用平行平板RIE装置
UT-850:形状・膜厚・電気特性評価装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

炭素の単原子層薄膜であるグラフェンは優れた電気的・機械的特性をもち、さまざまな分野への応用が期待される物質である。我々はグラフェンのナノスケール加工と、グラフェンに特有のジグザグ端状態を活用したデバイスの研究開発を進めている。今年度は、端がジグザグ型に整ったナノスケール構造に特異な熱伝導特性が得られること、そしてジグザグ端に局在した電子状態を介してラマン散乱が増強されることを明らかにした。また、単層から厚さ約100 nmに至る多層グラフェンについて、その反射率とグラフェン積層構造の関係を理論・実験の両面から調べている。

実験 / Experimental

グラフェンに加工パターンを電子線描画し、CHF3プラズマによって基板ごと穴を開けた後、独自に開発した水素プラズマエッチング装置を用いて穴を核とした六角形ナノピットをグラフェンに作製した。この六角形ナノピットの端は原子スケールでジグザグ型に整っていることが分かっており、事前の加工パターンを工夫することで、ジグザグ六角形ナノピットをベースとした多彩なグラフェンのナノスケール構造を作製することができる。作製した素子には電極パターンをやはり電子線で描画し、我々が所有する真空蒸着器で金/クロムを蒸着した。ここで基板にはSiO2 (t = 274 nm)/Si基板を用いている。また基板から浮いた試料の作製には、バッファードフッ酸(BHF)で基板をエッチングした後、我々が所有する超臨界乾燥装置で素子を乾燥した。
 一方、多層グラフェンの光学特性とグラフェンの積層構造の関係を明らかにするために、基板であるSiO2の膜厚と可視光域での多層グラフェンの反射率を光干渉式膜厚測定装置を用いて測定した。

結果と考察 / Results and Discussion

本研究で使用するグラフェンはグラファイトを基板上に劈開して作製するもので高々10 μm程度の大きさであり、測定装置の制約から10 mm角サイズの基板を用いていた。ところがこの基板サイズでは電子線描画の位置合わせには疎調しか使用することができないため、加工の設計と描画に3-5 μmのズレがあり、素子作製の歩留まりが悪かった。
そこで今年度は微調による高精度な描画を行うために、用いる基板を20 mm角に変更した。描画座標の基準となる微調マーカーには、Si基板に対しては10 μm四方で高さおよそ500 nmの構造が必要とされるが、SiO2基板に対しては必要な大きさが知られていなかった。今回の試行の結果、10 μm四方で高さ100 nmの凸構造、あるいは深さ200 nm以上の凹構造が微調マーカーとして十分であることが分かった。本研究では試料の不要な汚染を避けるため凹構造を電子線描画と続くCHF3プラズマエッチングで作製し微調マーカーとした。この結果、100 nm以下の位置合わせ精度での描画が可能となり、ジグザグ グラフェン ナノリボン(zGNR)のアレイ構造(zGNRA)のほか、zGNRが折り返しつながったsnake構造(zGNS)やzGNRのネットワーク構造であるジグザグ グラフェン ナノメッシュ(zGNM)など、より複雑な形状の素子も歩留まりよく作製できるようになった。作製した素子を我々が所有する原子間力顕微鏡で観察した像の一例を図に示す。このときCHF3プラズマエッチングには汎用平行平板RIE装置(RIE-10NR)を使用したが、年度途中でエッチング速度が著しく低下し微調マーカーの凹構造が浅くなったために電子線描画が行えなくなることがあった。原因は不明であるが、今後はエッチングが期待通り行われているか確認しながら進める必要がある。
こうして作製したzGNRAとzGNMについて、基板上に置かれた素子と、基板から浮いた宙吊り素子を作製し、それらの熱伝導度やそれらを基板としたときのラマン散乱の増強効果について研究を進めた。昨年度までの取り組みから、気相フッ酸によるエッチングではグラフェンの宙吊り構造の実現が困難なこと、またバッファードフッ酸(BHF)を用いたエッチングとヘキサンを用いた乾燥では宙吊りzGNRは作製できるが、宙吊りzGNMは作製できないことが分かっていた。そこで本年度は超臨界乾燥装置を独自に導入してBHFによるエッチング後の乾燥に用いている。これによりzGNMの宙吊り構造も作製できるようになった。
一方これまでの知見から、グラフェンの反射率は基板であるSiO2の膜厚に強く依存することが分かっている。そこで多層グラフェンの光学特性を明らかにするためには基板であるSiO2の膜厚測定が欠かせない。その上で今年度はグラファイトを劈開して作製した多層グラフェンの他に、化学気相法で作製した3層までのグラフェンについて反射率を測定した。可視光域では重要な結果は得られていないが、自作の装置により測定波長を通信波長帯まで伸ばすことで、反射率がグラフェンの積層構造の違いを反映していることを示唆する結果が得られている。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図:微細加工したグラフェンの原子間力顕微鏡像。(b)に示すように最も明るい部分がグラフェン、次に明るい部分がSiO2基板、暗い部分がCHF3プラズマで事前に加工した穴である。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・共同研究者:NTT物性基礎研究所 佐々木健一博士
・藤原誠氏には微細加工を、三田吉郎教授、落合幸徳博士には技術相談を支援頂きました。感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Ken-ichi Sasaki, Introducing Corrections to the Reflectance of Graphene by Light Emission, C, 10, 18(2024).
    DOI: http://doi.org/10.3390/c10010018
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. T. Matsui et al., The 65th Fullerenes-Nanotubes-Graphene General Symposium (Fukuoka, Japan), 2023.09.05
  2. T. Matsui, Global Experts Conference on Graphene and 2D Materials (Online), 2023.09.21
  3. T, Matsui, 4th International Conference on Materials Science & Nanotechnology (Valencia, Spain + Online), 2023.10.26
  4. T. Matsui, 7th World Congress on Materials Science and Engineering (Online), 2023.11.06
  5. 佐々木健一 他、日本物理学会 第78回 年次大会(東北大学)、令和5年9月16日
  6. 越智太亮 他、第84回 応用物理学会 秋季学術講演会(熊本)、令和5年9月22日
  7. 横澤峻元 他、第84回 応用物理学会 秋季学術講演会(熊本)、令和5年9月22日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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