【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.10】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT1014
利用課題名 / Title
集束イオンビーム照射によるSnベース超伝導体/トポロジカルディラック半金属ヘテロ構造の作製
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
トポロジカル量子物質/ Topological quantum matter,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,スピントロニクス/ Spintronics,超伝導/ Superconductivity
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
田中 雅明
所属名 / Affiliation
東京大学工学系研究科電気系工学専攻
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
佐伯崇寛
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
太田悦子,水島彩子
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
超伝導体/トポロジカルディラック半金属(TDS)ヘテロ構造は、マヨラナ束縛状態を実現し得るトポロジカル超伝導状態のプラットフォームとして期待されている。我々の研究室では現在3種しか報告されていないTDSの1種であるα-Snの高品質薄膜の成長が可能である。超伝導体/TDSヘテロ構造の微細加工には複雑な加工プロセスが必要であったり、加工中における超伝導体/TDS界面の汚染が生じるなどの問題点があった。したがって本研究ではこれらの課題を解決する、「容易な加工手法」かつ「きれいな超伝導体/TDS界面」を実現し得る微細加工手法の確立を目指し、TDSのα-Snへの集束イオンビーム(FIB)の照射を行った。
実験 / Experimental
FIB照射にはGaイオンビームの衝突によるスパッタリング作用に加え、副次的効果として局所的な加熱が生じる。α-Snは加熱により超伝導体金属であるβ-Snに相転移するという性質があるため、この性質を利用し超伝導体/TDSヘテロ構造の作製を目指した。InSb基板上にエピタキシャル成長したα-Sn薄膜上に加速電圧30kV、電流値7.7pA、ビーム照射幅10nmのFIB照射を行い、照射領域の顕微鏡観察と極低温における電気伝導特性の評価を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
本材料のFIBによる加工の概略構造と、加工後のSEM写真を図1に示す。結果は大きく分けて①FIB照射領域の超伝導転移およびその基本的な超伝導特性の評価、②β-Sn領域の微細加工、③α-Sn中に埋め込まれたβ-Snナノワイヤにおける巨大な超伝導ダイオード効果の3つに分けられる。①FIB照射領域の超伝導転移およびその基本的な超伝導特性の評価FIB照射領域を光学顕微鏡観察したところ、反射率が変化し白色に変更していることが確認された。この領域を2Kまで冷却しながら抵抗値の温度依存性を測定したところ、3.7K以下で抵抗値がゼロになり超伝導転移することが確認された。またα-Sn領域とFIB照射領域をXPS測定したところ、Gaイオンビーム由来のGaやInSbバッファ層から拡散し得るInはほとんど存在せず、この超伝導性はβ-Snから生じることが確認された。またSQUIDを用いてβ-Snの磁化の温度依存性を測定し、FCとZFCでM-Tカーブが一致した。この結果からFIB照射によるβ-Snは非超伝導領域の存在しない均一な第1種超伝導体であることが確認された。②β-Sn領域の微細加工FIB照射により可能な限り細いβ-Snナノワイヤとβ-Sn/α-Sn/β-Sn型ジョセフソン接合の加工を行った。FIB照射では熱の拡散により、照射領域よりもβ-Sn領域が広がる傾向がある。条件出しを行い、最小幅180nmのナノワイヤ構造と最小幅70nmのジョセフソン接合構造の加工に成功した。これらの結果から電子線リソグラフィ技術のような手法を用いずにFIBを照射するだけで微細な超伝導デバイスの加工が可能であることが分かった。③α-Sn中に埋め込まれたβ-Snナノワイヤにおける巨大な超伝導ダイオード効果幅500nmのβ-Snナノワイヤ構造と平行に磁場を印加することで巨大な超伝導ダイオード効果が生じることが確認された。近年、極低温における電子回路の素子や超伝導の基礎研究として超伝導ダイオード効果(SDE)が多く研究されているが、先行研究においては電流と磁場が垂直な場合のみにSDEが観測されていたが、我々の系では電流と磁場が平行な場合にSDEが生じた。磁場の角度依存性や断面構造の解析から、このSDEはTDSのα-Snのカイラルアノマリーが関係していると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 集束イオンビーム (FIB) 照射によって作製されたトポロジカルDirac半金属 α-Sn/超伝導 β-Sn ナノ構造の概略構造と上面走査型電子顕微鏡(SEM)画像。 Ga FIBを用いて、幅70 nmのβ-Sn/α-Sn/β-Sn平面ジョセフソン接合構造と、α-Sn薄膜に埋め込まれた幅180 nmのβ-Snナノワイヤの作製に成功した。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Kohdai Inagaki, Allotropic transition of Dirac semimetal α-Sn to superconductor β-Sn induced by focused-ion-beam irradiation, Applied Physics Letters, 124, (2024).
DOI: https://doi.org/10.1063/5.0177343
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- ○Keita Ishihara, Le Duc Anh, Tomoki Hotta, Kohdai Inagaki, Masaki Kobayashi, Masaaki Tanaka; “ Nanofabrication of Sn-based superconductor / topological Dirac semimetal planar heterostructures”,第70回応用物理学会春季学術講演会、上智大学、2023年3月16日(国内、口頭、査読なし)
- 〇石原奎太, レ デゥック アイン, 堀田智貴, 稲垣洸大, 小林正起, 田中雅明;“Snベース超伝導体/トポロジカルディラック半金属横型ヘテロ接合の微細加工”, スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク(Spin-RNJ) シンポジウム、京都大学、2023年3月20日(国内、ポスター、査読なし)
- ○Keita Ishihara, Le Duc Anh, Tomoki Hotta, Kohdai Inagaki, Masaki Kobayashi, Masaaki Tanaka; “Large nonreciprocal superconductivity in β-Sn nanowires embedded in topological Dirac semimetal α-Sn thin film”, The 25th International Conference on the Electronic Properties of Two-Dimensional Systems (EP2DS-25) and 21st International Conference on Modulated Semiconductor Structures (MSS-21), Grenoble, France, 13 July 2023(国際、口頭、査読なし)
- ○Keita Ishihara, Le Duc Anh, Tomoki Hotta, Masaaki Tanaka; “Magnetic-field and current-direction dependence of the superconducting diode effect in superconductor Sn wires embedded in a Dirac semimetal thin film” 第84回応用物理学会秋季学術講演会、熊本城ホール、2023年9月20日(国内、口頭、査読なし)
- 〇レ デゥック アイン、高瀬健吾、石原奎太、堀田智貴、千葉貴裕、小田洋平、田中雅明; “スズ(Sn)ベース量子ヘテロ構造のエピタキシャル成長とトポロジカル輸送特性”,スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク(Spin-RNJ) シンポジウム、京都大学、2023年3月21日
- ○Le Duc Anh, Keita Ishihara, Tomoki Hotta, Kohdai Inagaki, Masaki Kobayashi, Masaaki Tanaka; “ Giant superconducting diode effect in β-Sn nanowires embedded in topological Dirac semimetal α-Sn thin films”,第70回応用物理学会春季学術講演会、上智大学、2023年3月16日(国内、口頭、査読なし)
- 〇Le Duc Anh, Keita Ishihara, Tomoki Hotta, Takahiro Chiba, Yohei Kota, Masaaki Tanaka ; “Crystal growth and topological transport in Sn-based quantum heterostructures”, Superstripes 2023 Quantum Complex Matter, Ischia (Naples) Italy, June 26- July 1, 2023
- 〇稲垣 洸大 , 石原 奎太, 堀田 智貴, 関 祐一, 武田 崇仁,石田 達弘, 大槻 太殻, 川崎 郁人, 藤森 伸一, 田中 雅明, Le Duc Anh, 小林 正起; “集束イオンビーム照射によるディラック半金属α-Snの超伝導体β-Snへの同素体転移”, 日本物理学会 第78回年次大会
- 〇稲垣 洸大,石原 奎太, 堀田 智貴, 関 祐一, 武田 崇仁, 石田 達拡, 大槻太毅, 川崎 郁斗, 藤森 伸一, 田中 雅明, Le Duc Anh, 小林 正起; ““集束イオンビーム照射によるディラック半金属α-Snの超伝導体β-Snへの同素体転移”,第84回応用物理学会秋季学術講演会、熊本城ホール、2023年9月19~23日
- 〇L. D. Anh, K. Ishihara, T. Hotta, D. Nishigaki, K. Inagaki, M. Kobayashi, T. Chiba, Y. Kota, M. Tanaka ; “Epitaxial growth and topological transport properties of Sn-based quantum heterostructures”, MRM2023/IUMRS-ICA2023 Grand Meeting December 11-16, 2023, Kyoto, Japan
- Keita Ishihara†, Le Duc Anh†, Tomoki Hotta, Kohdai Inagaki, Masaki Kobayashi & Masaaki Tanaka “Giant superconducting diode effect in ion-beam patterned Sn-based superconductor nanowire / topological Dirac semimetal planar heterostructures” https://doi.org/10.48550/arXiv.2308.00893
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件