利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.09】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22UT1064

利用課題名 / Title

グラフェンナノスケールデバイスの作製と多層グラフェンの光学特性

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

カーボン系材料、ナノリボン、膜厚測定、電子線描画、プラズマエッチング,リソグラフィ/Lithography,EB,膜加工・エッチング/Film processing and Etching,エリプソメトリ/Ellipsometry,赤外・可視・紫外分光/Infrared and UV and visible light spectroscopy,ナノカーボン/ Nano carbon


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

松井 朋裕

所属名 / Affiliation

アンリツ株式会社

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

横澤峻元,鎌田雅博,越智太亮,岡本明文

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

藤原誠,三田吉郎,落合幸徳

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-503:超高速大面積電子線描画装置
UT-606:汎用平行平板RIE装置
UT-850:形状・膜厚・電気特性評価装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

グラファイトの単原子層薄膜であるグラフェンは優れた電気的・機械的特性をもち、様々な分野への応用が期待される物質である。我々はグラフェンを用いたナノスケールデバイスの開発を念頭に、グラフェンのナノリボン、ナノメッシュ、そしてそれらを電極で架橋したグラフェン共振器の作製を進めている。今年度は架橋グラフェンナノリボンの作製に成功すると同時に、グラフェンナノメッシュ素子の熱伝導やラマン散乱の増強効果を調べた。また単層から厚さ約100 nmに至る多層グラフェンの光学特性を、可視光に対する反射率とラマン分光から包括的に明らかにした。

実験 / Experimental

グラフェンに加工パターンを電子線ビーム描画し、CHF3プラズマによって基板ごと穴を開けた後、独自に開発した水素プラズマエッチング装置を用いて穴を核とした六角形ナノピットをグラフェン上に作製した。ここで基板には約10 mm角に切り出したSiO2 (t = 274 nm)/Si基板を用いている。グラフェンの架橋構造を作るためには、微細加工した電極パターンに金/クロムを蒸着した後、試料をバッファードフッ酸でエッチングし、ヘキサンで乾燥させた。
一方、多層グラフェンの光学特性を明らかにするために、基板であるSiO2の膜厚と可視光域での多層グラフェンの反射率を光干渉式膜厚測定装置を用いて測定した。

結果と考察 / Results and Discussion

グラフェンの架橋構造を作製するために昨年度は気相フッ酸による基板のエッチングを試みたが、これは期待通りには進まなかった。そこで今年度はエッチングにはバッファードフッ酸(BHF)を用い、表面張力の小さいヘキサンを介して乾燥させた。その結果、電極を架橋するグラフェンナノリボン(GNR)の作製に成功した。 作製した架橋GNRはおよそ10個に1つの割合で共振を示したが、これはこれまでの研究から得られている知見と同等である。このような共振器の作製再現性の低さはGNRの形状再現性の低さや、架橋GNRの張力の不均一性が原因と考えられる。 再現性あるグラフェン共振器の作製のため、水素プラズマエッチング(HPE)により形状を原子スケールで整えたGNRで架橋グラフェンを作製したが、グラフェン共振器の実現確率は更に低いものになった。これはHPEによって基板の状態が変化したためBHFによるエッチング条件が変化した可能性や、共振器として十分な張力が得られていない可能性がある。 一方、GNRのネットワーク構造であるグラフェンナノメッシュ(GNM)ではヘキサンを用いた乾燥でも架橋構造を作ることができなかった。別途試みた超臨界乾燥では架橋GNMを作製できていることから、GNMの架橋にはヘキサンよりも表面張力が小さな環境を用いた乾燥が必要であることが分かった。このGNM素子についてはSiO2基板に保持された状態での熱伝導やラマン分光基板としての特性を評価し、リボン幅に反比例する異常な熱伝導率やRhodamine6G分子に対するラマン散乱の増強効果が観測されている。
グラフェン微細加工の一方で、単層から厚さ約100 nmまでの多層グラフェンについて、その可視光域での光学特性を反射率とラマン散乱強度(レーザー波長532 nm)の両面から測定した。その結果、厚さ20 nm前後でラマン散乱強度は最大に、反射率は最小になることが分かった。これはラマン散乱に対しては、グラフェン各層での反射光とラマン発光の多重散乱と干渉のため実効的な散乱断面積が最大となるためである。しかし、それらの効果は反射率に対しては十分小さいことが分かった。グラフェンの反射率はグラフェンの吸光度が厚さ20 nm程度であまり変化しなくなるために最小値をとり、SiO2の膜厚によっては特定の波長に対して反射率がゼロの状態すら実現することが分かった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図:電極間を架橋させたジグザグ-グラフェン-ナノリボンの走査電子顕微鏡写真。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・共同研究者:熊本大学大学院先端科学研究部 原研究室, NTT物性基礎研究所 佐々木健一博士
・藤原誠氏には微細加工を、三田吉郎教授、落合幸徳博士には技術相談を支援頂きました。感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Takamoto Yokosawa, Nanoscale Fabrication of Graphene by Hydrogen-Plasma Etching, e-Journal of Surface Science and Nanotechnology, 20, 139-144(2022).
    DOI: 10.1380/ejssnt.2022-022
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. M. Kamada, T. Yokosawa, T. Ochi, K. Sasaki, T. Matsui, “Optical Properties of Multi-Layer Graphene II”, The 63rd Fullerenes-Nanotubes-Graphene General Symposium (2022/8/31).
  2. K. Sasaki, K. Hitachi, M. Kamada, T. Yokosawa, T. Ochi, T. Matsui, “Coherent light emission from multilayer graphene and graphite”, The 63rd Fullerenes-Nanotubes-Graphene General Symposium (2022/8/31).
  3. M. Kamada, T. Yokosawa, T. Ochi, K. Sasaki, T. Matsui, “Optical Properties of Multi-Layer Graphene”, The 22nd International Vacuum Congress (2022/9/12).
  4. 鎌田雅博, 横澤峻元, 越智太亮, 佐々木健一, 松井朋裕, “多層グラフェンの光学特性”, 第83回応用物理学会秋季学術講演会 (2022(令和4)年9月23日).
  5. 松井朋裕, “グラフェンのジグザグ端状態” 第5回日本表面真空学会若手部会研究会(合同開催:放射光学会若手有志研究会) (2022(令和4)年11月9日).
  6. 横澤峻元, 鎌田雅博, 越智太亮, 松井朋裕, “ジグザググラフェンナノメッシュの熱伝導” 第70回応用物理学会春季学術講演会 (2023(令和5)年3月15日).
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:2件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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