【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.04.24】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22QS0013
利用課題名 / Title
放射光を用いた全散乱法による次世代二次電池材料のin situ測定
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
Naイオン電池,低結晶性材料,insituPDF解析,X線回折/X-ray diffraction,放射光/Synchrotron radiation,二次電池,電極材料,エネルギー貯蔵
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
片岡 理樹
所属名 / Affiliation
産業技術総合研究所
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
町田晃彦
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
次世代二次電池用電極材料の充放電過程における局所構造の変化を放射光全散乱測定を用いて明らかにすること、およびそのためのin situ測定用のセットアップを確立することを目的とする。
Naイオン電池用の電極材料であるP2型の層状構造を有するNa2/3(Mn2/3Ni1/3)O2はメカニカルミリング処理により低結晶化すると充放電容量が向上することが見出されているが、メカニカルミリング処理により合成した結晶性の低い材料であるため、通常のXRDでは放射光を用いた測定でも詳細な情報を得ることが難しい。そこで本課題では、in situ全散乱測定用のセットアップを構築し、充放電過程に伴う構造変化をPDFによる局所構造解析により明らかにすることを目的とした。測定試料は高結晶性のP2層状構造を有するNa2/3Mn2/3Ni1/3O2(高結晶性試料)と、高結晶性試料をミリング処理した試料(低結晶性試料)を用いた。Na脱離(充電試験)前の2つの試料のPDFプロファイルを比較すると、1 nm程度範囲は類似したプロファイルを示すことが確認された。充電過程におけるプロファイルを比較すると、高結晶性試料では充電途中で構造変化に起因するプロファイルの変化が確認されたが、低結晶性試料では原子間距離のシフトは見られたがプロファイルの変化はほとんど見られなかった。構造変化の抑制メカニズムはさらに検討が必要であるが、結晶性の低下により構造変化が抑制され、充放電サイクル特性が改善されることがわかった。
実験 / Experimental
【利用した装置】:高速2体分布関数計測装置
【実験方法】
放射光測定はBL22XUにて、測定エネルギー70 keVとしサンプルと二次元検出機の間の距離を300 mmとして行った。測定セルは、Fig.1に示すようなラミネートセルを作製し、電池を充放電しながら電極部分の構造変化を測定する。測定中の試料への電圧印加は、電気化学測定装置を用いる。印加電圧の範囲は2.5~4.5 V(vs.Na+/Na)で、電流密度は14 mA/gとした。測定は1時間充放電するごとに10 min積算し、データ収集を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
充放電試験前の(a)高結晶性試料と低結晶性試料の二体分布関数(PDF)プロファイルと、P2層状構造とNaCl構造のNa2/3Mn2/3Ni1/3O2のシミュレーションプロファイルをFig.1に示す。層状化合物はミリング処理によりアルカリイオンと遷移金属イオンのカチオンミキシングし、NaCl構造に変化することがあると知られているが、実験プロファイルとシミュレーションプロファイルを比較すると、NaCl構造とは異なり、どちらの試料もカチオンミキシングは起きていないと考えられる。また、1 nmまでの範囲で比較すると、両試料ともP2構造のシミュレーションパターンと類似していることから、短周期の局所構造は同等であると考えられる。
Fig.2に充電過程における高結晶性試料と低結晶性試料のPDFプロファイルの変化を示す。P2型構造を有する高結晶性試料は、先行研究においてin situ XRD解析によりP2型構造からO2への構造相転移することが報告されており(1)、本実験においても構造変化に起因する新たなピークの出現が確認できる(図中、破線で囲んだ箇所)。一方、低結晶性の試料では、充電過程でNa脱離や遷移金属の酸化に伴う格子収縮に起因するピーク位置の変化は見られるが、プロファイル形状の変化は見られず、構造変化が抑制されていることが確認された。これは、結晶子が小さいことや、歪みなどを含む構造欠陥が構造相転移を抑制したと考えられる。詳細なメカニズムについては今後の検討課題である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig.1 結晶性の異なるNa2/3Mn2/3Ni1/3O2のPDFプロファイルとP2構造とNaCl構造のシミュレーションパターン
Fig.2 充電過程における結晶性の異なるNa2/3Mn2/3Ni1/3O2のPDFプロファイルの変化
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献
(1) Z. Lu et.al., J. Electrochem. Soc., 148(2001) A1225.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Riki Kataoka, Improving Electrochemical Activity of P2‐type Na2/3Mn2/3Ni1/3O2 by Controlling its Crystallinity, Batteries & Supercaps, 6, (2022).
DOI: 10.1002/batt.202200462
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 片岡理樹, 田口昇, 多田幸平, 町田晃彦, 竹市信彦, “結晶性の低下によるP2型Na2/3Mn2/3Ni1/3O2の電気化学特性の変化” 電気化学会第90回大会, 令和5年3月29日.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件