利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.30】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22UT0020

利用課題名 / Title

担持金属クラスター触媒の幾何構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

電子顕微鏡/Electron microscopy,電子分光,ナノ粒子/ Nanoparticles


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

増田  晋也

所属名 / Affiliation

東京大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術補助/Technical Assistance(副 / Sub),機器利用/Equipment Utilization


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-005:原子分解能元素マッピング構造解析装置
UT-301:多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 我々は、配位子で保護することで原子精度の精密性で金クラスターの標的合成を行い、その触媒応用を行っている。今回、代表的なチオラート (RS) 保護金クラスターであるAu25(SR)18をカーボン上に吸着させて特定の温度で熱処理を行うことで、クラスターとカーボン担体の界面に存在する配位子のみを選択的に残留させた触媒の合成に成功した。X線吸収微細構造解析および本事業の収差補正電子顕微鏡(JEM-ARM200F)観察により、Au25が主として保持されたクラスターが形成されていると結論付けた。本触媒は表面の配位子が除去されているため高活性を示すのに加えて、残留した配位子が触媒反応中で金クラスターを安定化する理想的な触媒として機能した。

実験 / Experimental

 支援機関にて収差補正電子顕微鏡(JEM-ARM200F)観察およびX線光電子分光(PHI500 VersaProbe)を行った。合成した触媒上の金クラスターの粒子径分布を測定するには原子レベルの分解能が必須であるため、本事業の収差補正電子顕微鏡を用いた。また、X線光電子分光により担持された金クラスターの電子状態を評価した。

結果と考察 / Results and Discussion

 フェニルエタンチオラート (PET) 配位子で保護されたAu25クラスター (Au25(PET)18) をトルエン中でカーボンと混ぜ合わせることで触媒を合成した。配位子が残存したままでは触媒活性がほとんど現れないため、本触媒を真空下、450℃でt時間焼成した触媒 (Au25(PET)/C-t) を合成した (Figure 1a)。XAFS測定を行ったところ、8時間までの焼成において配位子が脱離していき、8-12時間の間は同等の配位子が保たれており、12-24時間において配位子が完全に脱離することが分かった。この24時間の間、Au–Au結合の配位数から判断して、Au25クラスターのサイズが保たれていると考えられた。そこで、収差補正電子顕微鏡によって粒子径を観察したところ、例えば12時間焼成したサンプルでは平均粒子系1.6 nm程度で金クラスターが担持されていた (Figure 1b)。この値は推定されるAu25の粒子径よりも少し大きいと考えられるが、未焼成のサンプルにおいても平均粒子径が1.5 nm程度と算出されたため、金クラスターが電子線下で揺らいでいることで大きく観察されたと考えられ、粒子サイズは保持されていると結論付けた。本触媒を用いてベンジルアルコールの酸化反応を30℃で行ったところ、8時間以上焼成したサンプルでは高い活性が得られ、配位子が完全に脱離した24時間焼成のサンプルが最も高い活性を示した。一方で、同反応を80℃で行ったところ、配位子が完全に脱離した触媒では反応初期に凝集を伴い失活したのに対して、一部配位子が残存した触媒では失活なく良好に反応が進行し、触媒回転頻度>4000/h-1で触媒回転数>50000が得られた。Au 4fのX線光電子分光から担持された金クラスターはカチオン性と観測されたが (Figure 1c) 、反応速度論解析では既報でのアニオン性の金に近い傾向が見られた。そこでクラスターの半面に配位子が残存したモデルを用いて量子化学計算を行ったところ、配位子が配位した金原子はカチオン性だが、配位子が脱離して形成した金サイトはアニオン性であること得られた。すなわち、配位子が残存していることで系全体として見た金の電荷はカチオン性だが、活性点となる金サイトはアニオン性となっていることが示唆された。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Figure 1 (A) Schematic illustration of partially-thiolated Au25 cluster on carbon support, (B) aberration-corrected HAADF-STEM images of Au25(PET)/C-12, (C) XP spectra of Au25(PET)/C-t.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究はJSPS科研費 (JP20H00370, JP20K22548, JP21K14476) およびCREST(JST)「原子・分子の自在配列・配向技術と分子システム機能」 (JPMJCR20B2) の助成を受けたものです。HAADF-STEM観察の測定補助をしていただいた森田真理様(東京大学ARIM)に感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Shingo Hasegawa, Polymer-Stabilized Au38 Cluster: Atomically Precise Synthesis by Digestive Ripening and Characterization of the Atomic Structure and Oxidation Catalysis, ACS Catalysis, 12, 6550-6558(2022).
    DOI: 10.1021/acscatal.2c01355
  2. Shingo Hasegawa, Synergistically Activated Pd Atom in Polymer-Stabilized Au23Pd1 Cluster, ACS Nano, 16, 16932-16940(2022).
    DOI: 10.1021/acsnano.2c06996
  3. Kosuke Sakamoto, Partially Thiolated Au25 Cluster Anchored on Carbon Support via Noncovalent Ligand–Support Interactions: Active and Robust Catalyst for Aerobic Oxidation of Alcohols, ACS Catalysis, 13, 3263-3271(2023).
    DOI: 10.1021/acscatal.2c06197
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Shingo Hasegawa, Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Koji Harano, Tatsuya Tsukuda: "Size and doping effects on oxidation catalysis of atomically precise gold clusters stabilized by PVP", The 9th Tokyo Conference on Advanced Catalytic Science and Technology (TOCAT), Fukuoka, Japan, July 24-29, 2022.
  2. 増田晋也、高野慎二郎、佃達哉: “複水酸化物を担体とする高活性Au25クラスター触媒の原子精度調製”、ナノ学会第20回大会, オンライン, 2022年5月20日~22日.
  3. 増田晋也、高野慎二郎、佃 達哉:“層状複水酸化物にインターカレートされたAuクラスター触媒の合成と触媒特性評価”, 第130回触媒討論会, 富山, 2022年9月20日-22日.
  4. 坂本光翼、増田晋也、高野慎二郎、佃 達哉:“配位子とカーボン担体間の相互作用を利用した高耐久性Au25クラスター触媒の開発”, 第130回触媒討論会, 富山, 2022年9月20日-22日.
  5. Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Seiji Yamazoe, Tatsuya Tsukuda: "Au25 Cluster Catalyst on Double Metal Hydroxide: Atomically Precise Synthesis and Oxidation Catalysis", The 9th Tokyo Conference on Advanced Catalytic Science and Technology (TOCAT), Fukuoka, Japan, July 24-29, 2022.
  6. Kosuke Sakamoto, Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Tatsuya Tsukuda: "Controlled Removal of Thiolate Ligands from Au25(SR)18 Clusters on Carbon Support", The 9th Tokyo Conference on Advanced Catalytic Science and Technology (TOCAT), Fukuoka, Japan, July 24-29, 2022.
  7. Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Tatsuya Tsukuda: "Synthesis of Ligand-free Au25 Cluster Catalyst on Double Metal Hydroxide by Strong Immobilization during Thermal Aging", Post Symposium of TOCAT, Hokkaido, Japan, August 1-2, 2022.
  8. Kosuke Sakamoto, Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Tatsuya Tsukuda: "Immobilization of Metastable Au25(SR)18-x Clusters on Carbon Support by Strong Ligand-Support Interaction", Post Symposium of TOCAT, Hokkaido, Japan, August 1-2, 2022.
  9. Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Tatsuya Tsukuda: "Atomically Precise Synthesis of Au Cluster Catalysts Intercalated into Layered Double Hydroxide", Gordon Research Conference "Atomically Precise Nanochemistry", Ventura, CA, United States, October 16 - 21, 2022.
  10. Shinya Masuda, Shinjiro Takano, Tatsuya Tsukuda:“Partially Thiolated Au Cluster Catalysts on Layered Double Hydroxide: Atomic-Level Size Effect on Oxidation Catalysis”, 日本化学会第103回春季年会, 東京, 2023年3月22日-25日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る