利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.08】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NI1101

利用課題名 / Title

高分子表面のTOF-SIMS測定

利用した実施機関 / Support Institute

名古屋工業大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

生体材料,質量分析/Mass spectrometry,資源代替技術/ Resource alternative technology


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

田村 篤志

所属名 / Affiliation

東京医科歯科大学生体材料工学研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮川鈴衣奈

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NI-011:飛行時間型二次イオン質量分析装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

利用者が所属するグループでは、環状分子シクロデキストリン(CD)の空洞部に線状高分子であるポリエチレングリコール(PEG)が貫通した数珠状構造の超分子ポリマー(ポリロタキサン)の生体材料応用に関する研究を推進している。ポリロタキサンの特徴の一つとして、軸高分子上に束縛されている環状分子が軸に沿って並進運動や回転運動をする分子可動性が挙げられる。このような分子可動性は、既存の高分子材料には見られない特性であることから新規機能性材料としての応用展開が進められている。利用者が所属するグループでは、ポリロタキサンを固定した表面上での培養細胞の性質に対する分子可動性の影響を検討している。また、ポリロタキサンを化学修飾することで新たな物性を賦与することも検討しているが、これまでの研究でメチル基やアセチル基を導入することで、ポリロタキサンの水素結合性が低下し水溶性を示すとともに、温度応答性を示すことを明らかにしている。特に、アセチル基を修飾したポリロタキサンは培養温度では不溶性(疎水性)であるが、10℃では水溶性(親水性)となることを見出している。そこで、本研究ではアセチル基を導入したポリロタキサンを培養表面上に固定し、培養細胞の機能に対する分子可動性と温度の影響について評価することを目的に研究を行っている。この研究の過程で、アセチル基を導入したポリロタキサンが表面上に固定されているか評価を行ったが、赤外分光法やX線光電子分光法では高分子が固定されていることを示す明確なデータが得られなかった。そこで、本事業を通じて飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)測定による表面分析を実施した。

実験 / Experimental

アセチル基を導入したポリロタキサンが表面上に固定するため、ポリロタキサンの軸高分子両末端にアンカーポリマーとしてポリベンジルメタクリレート(PBnMA)を導入したトリブロックコポリマー(PBnMA-b-PRX-b-PBnMA)を合成した。本トリブロックコポリマー中のポリロタキサン部位にアセチル基を無水酢酸との反応により導入し、アセチル基導入PBnMA-b-PRX-b-PBnMA(Ac-PRX-PBnMA)を得た。市販のポリスチレン製細胞培養プレートの表面にAc-PRX-PBzMAをキャストすることで疎水性相互作用によって固定した。比較対象としてアセチル化を施していないPRX-PBnMAを被覆した表面も同様に作製した。これらの表面をTOF-SIMSにより評価した。

結果と考察 / Results and Discussion

Ac-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMA固定表面をTOF-SIMS測定を行った結果、アンカーポリマーであるPBnMAに由来するC4H5O2-(m/z = 85)に相当するピークがネガティブモードで観測された。Ac-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMAを固定していない表面では本ピークは観察されなかったことより、Ac-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMAが表面に固定されていることが示唆された。また、Ac-PRX-PBnMA固定表面ではアセチル基に由来するC2H3O2-(m/z = 59)に相当するピークが観測された。本ピークはPRX-PBnMA固定表面では観察されなかった。また、m/z =85、および59で二次元マッピングを行った結果、Ac-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMAが表面に均一に固定されていることが明らかになった。以上の結果より、TOF-SIMS測定によりAc-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMAが表面に固定されていることが示唆された。
これらの表面にマウス由来線維芽細胞(NIH/3T3)を播種し、細胞の接着を増殖を評価した。Ac-PRX-PBnMA、及びPRX-PBnMAを固定した表面上では、未固定表面と同等の細胞接着や増殖を示し、高分子の固定が接着や増殖には影響しないことが明らかになった。しかし、培養温度を10℃に低下させるとAc-PRX-PBnMA固定表面上の細胞が自発的に脱着する様子が確認された。これはAc-PRXの温度応答性に由来すると考えられる。以上より、Ac-PRX-PBnMA固定表面上では温度変化によって細胞の接着状態を任意に制御できることが明らかになった。このような機能を有する表面は、細胞の非侵襲的な回収等に利用できると期待される。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Atsushi Tamura, Supramolecular Surface Coatings with Acetylated Polyrotaxane-Based Triblock Copolymers for Thermal Regulation of Cell Adhesion and Fabrication of Cell Sheets, Biomacromolecules, 23, 4860-4871(2022).
    DOI: 10.1021/acs.biomac.2c01043
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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