【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2024.03.14】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22NI0204
利用課題名 / Title
酸化物薄膜の構造制御に関する研究 -酸化タングステンスパッタ膜の斜め成長-
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋工業大学 / Nagoya Tech.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
酸化タングステン, 酸化物半導体, 光触媒,電子顕微鏡/Electron microscopy,X線回折/X-ray diffraction,スパッタリング/Sputtering,スパッタリング/Sputtering,赤外・可視・紫外分光/Infrared and UV and visible light spectroscopy,資源代替技術/ Resource alternative technology,分離・精製技術/ Separation/purification technology,セラミックスデバイス/ Ceramic device
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
市川 洋
所属名 / Affiliation
名古屋工業大学
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
本田 光裕
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
山内 直輝
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
酸化タングステン(WO3)は、2.60~3.25 eVに光学的バンドギャップEgを持つ酸化物半導体の一つであり、光触媒性、ガス・エレクトロクロミック性、湿度・ガス感応性を持つ機能性材料としても知られている。これらの機能発揮のためには、材料の比表面積を大きくすることが望まれ、ナノ構造の作製が行われてきた。ナノ構造作製は、大別して、気相法、液相法で行われてきたが、気相法では600 ℃以上の高温を必要とし、液相法では残留による材料特性への影響が懸念されるNaを含む溶剤が使用されてきた。本研究では、比較的低温で薄膜の作製が可能なスパッタ法でWO3薄膜を作製し、薄膜の比表面積を稼ぐためスパッタ条件の制御によって結晶の斜め成長を試みた。
実験 / Experimental
マグネトロンカソード上にW金属ターゲット(純度3N、直径100 mm)を装填し、Ar・O2ガス雰囲気中で高周波(13.56 MHz)電力を注入してWO3薄膜を作製した。ターゲット-基板ホルダー中心間の距離は50 mm一定で、基板ホルダーを傾斜させて成膜を行った。両面研磨の合成石英(厚み0.5 mm)、FTOガラス(厚み1.0 mm)を基板に用いた。今回の実験では、基板加熱は行っていない。分光光度計を用い薄膜の光学的透過率を調べ、走査型電子顕微鏡(SEM)で微細構造、X線回折法で結晶構造を調べた。また、メチレンブルー(C16H18N3SCl)粉末を溶かした水溶液に薄膜試料を漬け、試料薄膜面にキセノン光源(朝日分光MAX-303)からの太陽光に近い光(300 W)を照射して、メチレンブルーの退色変化を調べてWO3薄膜の光触媒性を評価した。
結果と考察 / Results and Discussion
実験では、まずArガスのみを用いたW金属膜の斜め成長が確認できる基板ホルダーの傾斜角度、高周波電力、スパッタガス圧力を調べ、さらに、基板ホルダーの傾斜角度0°で、WO3薄膜の透明性が確認できるAr・O2混合スパッタガス条件を調べた後、基板ホルダーを60°傾斜させて成膜した。スパッタガス圧力を0.2 Paにし、酸素分圧を0.05、0.04、0.03 PaにしてFTOガラス基板上に形成されたWO3薄膜の断面SEM画像をそれぞれ、図1(a)、(b)、(c)に示す。このときの、高周波電力は100 W、薄膜堆積時間は4hである。800 nm程度のFTO膜の上にWO3薄膜が堆積していることがわかる。酸素分圧0.05 Pa((a))では柱状の結晶が観られなかったが、酸素分圧を低くすることで斜めに成長する柱状結晶((b)、(c))が確認できた。X線回折により薄膜の結晶構造を調べたところ、全て非晶質WO3であることがわかった。
しかしながら、得られたWO3薄膜の透過率は高くないことがわかる(図2)。このときの基板は合成石英基板である。Taucプロットから、いずれの薄膜についてもバンドギャップEgは3.5 eV(波長350 nm)程度とかなり広いことが考えられるが、酸素分圧が低くなるにつれて可視光領域における透過率が著しく下がっていることが分かる。図1のSEM画像から、酸素分圧 0.05 PaではWO3の柱状成長は観られないが(図(a))、0.04 Pa、0.03 Paでは、膜厚も2 mm程度とかなり厚く、太い柱状が密に斜め成長していることが原因と考えられる。
これら合成石英基板上に作製したWO3薄膜は、いずれも良好な光触媒性を示したが、斜め成長(酸素分圧0.04 Pa、0.03 Pa)の優位性は観られなかった。本WO3薄膜について、薄膜の透明性・比表面積の確保の両立が課題と考えられる。光触媒への応用を考える場合には、透明性、透過率の向上は必ずしも必要ではないが、ガスクロミック、エレクトロクロミック応用には、この光学的問題の解決は重要である。今回の実験では、スパッタターゲットに金属Wを用いたが、焼結WO3ターゲットを用いることで、薄膜の透明度向上が期待されるが、柱状結晶の柱径制御に関わるスパッタ条件の最適化、柱状結晶間の隙間を拡げる後処理なども検討していく必要があるかと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 基板ホルダーを60°傾けFTOガラス基板上に成膜したWO3薄膜の断面SEM画像;酸素分圧(a)0.05 Pa、(b)0.04 Pa、(c)0.03 Pa.
図2 基板ホルダーを60°傾け合成石英基板上に成膜したWO3薄膜の透過スペクトル;酸素分圧(a)0.05 Pa、(b)0.04 Pa、(c)0.03 Pa.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
なし
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Popy Listiani, Optimization of hydrolysis temperature in liquid phase deposition for TiO2 photocatalysis, Japanese Journal of Applied Physics, 61, 075508(2022).
DOI: https://doi.org/10.35848/1347-4065/ac7838
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Mitsuhiro Honda, Low-Temperature Synthesis of Cu-Doped Anatase TiO2 Nanostructures via Liquid Phase Deposition Method for Enhanced Photocatalysis, Materials, 16, 639(2023).
DOI: https://doi.org/10.3390/ma16020639
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Popy Listiani, Mitsuhiro Honda and Yo Ichikawa, "Liquid Phase Deposition Method for the Synthesis of TiO2 Photocatalyst onto Fly Ash-Zeolite" 超異分野学会大阪大会2022(大阪), 令和4年8月27日
- Mitsuhiro Honda, Rahul Deshmuk, Tsuyoshi Ochiai, Tomoyuki Tamura, Keisuke Goto and Yo Ichikawa, "Tetrahedrally coordination surface for the enhancement of TiO2 photocatalysis", The 22nd International Vacuum Congress(札幌), 令和4年9月14日
- 本田光裕,坂井考基,中島慎太朗,市川 洋, "酸化スズナノ粒子を含むミストによるガスセンサー膜形成", 第83回応用物理学会秋季学術講演会(仙台), 令和4年9月21日
- 神田 優,LEE JIYONG.Rahul Deeliprao Deshmukh,本田光裕,市川 洋, "グラフェン-TiO2光触媒の耐久性", 第70回応用物理学会春季学術講演会(東京), 令和5年3月17日
- Rahul Deeliprao Deshmukh,Mitsuhiro Honda,Yo Ichikawa, "Controlling the defect states fromation in anatase TiO2 thin film by rf magnetron sputtering and its role on photocatalytic performance", 第70回応用物理学会春季学術講演会(東京), 令和5年3月17日
- 本田光裕,落合 剛,Popy Listiani,山口佑馬,市川 洋, "液相析出法による銅添加酸化チタン微粒子の合成と光触媒応用", 第70回応用物理学会春季学術講演会(東京), 令和5年3月17日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件