利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.04.28】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22SH0020

利用課題名 / Title

星間減光217.5nm吸収を示す炭素質物質の構造評価

利用した実施機関 / Support Institute

信州大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

ラマン分光


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

木村 誠二

所属名 / Affiliation

電気通信大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

SH-009:レーザラマン分光装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 未解決である星間減光217.5nm吸収の起源解明を目的として、その候補物質として検討されてきた3種類の炭素物質(無煙炭、メソフェーズ、急冷炭素質物質)が観測に似たピークを示す原因を明らかにするためにラマン分光法を用いて実験を行ってきた。ラマン分光法は炭素構造の違いが区別できるために有効的な評価方法として活用されている。さらに励起波長と物質の吸収エネルギーが近い場合に吸収に関係したピークが強く散乱される共鳴ラマン散乱が発生するため、それを利用したラマンスペクトルの波長依存性が炭素構造の評価に利用されている。本研究では、これまで3つの候補物質に対して532nm、325nm、224.3nmでのラマンスペクトルを測定してきたが、スペクトルの波長依存性を確かめるには244nmで測定したラマンスペクトルが必要である。その測定結果からラマンスペクトルの波長依存性を解析し、星間減光217.5nm吸収に関する原因構造を解明することが本実験の目的である。

実験 / Experimental

 レニショー社製ラマン分光装置の244nmレーザーを使って3つの候補物質(無煙炭、メソフェーズ、急冷炭素質物質)と217.5nm吸収ピークを示さない3種類(炭素蒸着膜、ベンゼンから作製したスス、アセチレンブラック)の合計6種類の炭素物質のラマン測定を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

 今回の実験では6種類すべての試料において信頼できるラマンスペクトルは測定できなかった。唯一、ピークらしきスペクトルが無煙炭で測定できたため、そのスペクトルおよび着目範囲を拡大してベースライン補正した結果を図1に示す。図1の33cm-1付近のピークはレイリー光で、矢印で示してあるシャープなピークはノイズによるものである。拡大した実測スペクトルは多くのノイズを含んでいるが、スムージング処理した赤線のデータでは1600cm-1付近と1220cm-1付近にピークらしきものを確認することができる。1600cm-1のピークは炭素構造で一般的に測定されるGバンドによるもので、他の波長で測定されたラマンスペクトルにも見られたピークである。一方、1220cm-1のピークは他波長では1260cm-1付近で測定され、244nmのラマンスペクトルでは40cm-1程度短波数側にシフトしている。これはレイリー光も33cm-1ほど短波数側にシフトしているために、その影響だと考えられる。しかし33cm-1のレイリー光を0cm-1に補正すると、Gバンドのピーク位置が高波数側へシフトするために別波長のラマンスペクトルの結果とは大きく矛盾する。これは、図1のラマンスペクトルに見られるように、試料からのラマンピークが弱く短波数側にベースラインが上がっているためにピーク位置のシフトが生じてしまった可能性がある。今回、別波長で測定されたラマンスペクトルに似た結果は確かに測定できているが、ピーク位置に不確かさが残ってしまった。加えて別波長の結果を考慮すると1415cm-1付近に弱いピークが測定される可能性があったが、それはノイズで確認できず、結果として一つの試料も実験は未達成で終了した。
 これまでの報告では、同じレニショー社製のラマン分光装置で244nmを含めた複数波長のレーザーを使って非晶質炭素物質のスペクトルが実測されている[参考文献(1)]。その中の514.5nmでのデータは、本研究でこれまでに測定した532nmのラマンスペクトルと似た結果を示している。したがって、本利用課題においても244nmのラマンスペクトルは測定できると考えられるが、実際にはスペクトルは得られなかった。その要因として、325nmのラマン測定において1mWでは短時間でもスペクトルが得られたが、0.2mWではピークらしきスペクトルが得られるまで数時間を必要としたため、1mW以下の244nmレーザーでは測定条件としてパワー不足あるいは測定時間が短かったことが原因だと考えられる。今回の実験を通して適切な測定条件であれば244nmのラマンスペクトルが測定できる可能性が確かめられたため、現在別の測定手段を検討中である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 244nmで測定した無煙炭のラマンスペクトルとその1000-1800cm-1の範囲をベースライン補正して拡大したラマンスペクトル。拡大中の赤線はスムージング処理した結果である。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

(1) A. C. Ferrari and J. Robertson, Phys. Rev. B 63, 121405 (2001).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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