【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23AE0033
利用課題名 / Title
窒化TiO2生成の素過程解明に向けたリアルタイム光電子分光
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
窒化物,TiO2,チタニア,素過程,X線光電子分光,ドーピング,太陽電池/ Solar cell,放射光/ Synchrotron radiation
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
阿部 真之
所属名 / Affiliation
大阪大学大学院基礎工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
大野 真也,勝部 大樹,稲見 栄一,金 庚民, 秋山 舜,中野 脩己,長門 諒浩
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
吉越 章隆
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
二酸化チタン(TiO2)は光触媒の材料や色素増感太陽電池の電極材料など幅広い応用が期待される重要な物質である。さらに、近年、アナターゼ型TiO2表面において、二次元電子ガス状態が発見・報告されており、電子デバイス応用の観点からも注目されている。TiO2を光触媒として利用する場合、紫外光(波長400nm以下)が必要となる。日光には紫外線が含まれているので、屋外での利用では、実用上の問題はないが、室内(蛍光ランプや照明器具)での利用には、可視光応答の光触媒が重要であり、それは、例えば窒素を光触媒にドープすることで実現可能であることが明らかにされている。窒素を固体材料へドープするには、ガス元素イオンの打込みとアニールを組み合わせた処理、ガス雰囲気下における超高温での焼成、薄膜等の合成中のプラズマ反応の付加、などの強力な運動エネルギー、熱エネルギー、イオン化エネルギー、化学エネルギーを用いた制御が必要である。これらのプロセスには酸化物材料の利用にとって致命的な酸素欠損というプロセスダメージを引き起こす可能性があるとともに、プロセスコストや時間を要する場合もあり、決して実用的な手法とは言えない。近年、我々のグループではNO分子線をTiO2表面に照射した場合、窒素をTiO2にドープできていることを、BL23SU(表面化学実験ステーション)に常設しているX線光電子分光装置(XPS)を用いて発見した(特願2018-057186)。これは、超熱状態の分子線を使った熱反応に依らない新たな元素ドープ方法の開拓であり、通常、多くの酸化物がn型であることに対する、p型伝導特性の付与を可能とするものである。材料表面プロセスの基礎研究としての重要性ばかりでなく、他の多くの酸化物材料に対する伝導性の制御と機能化処理の研究、それらのpn接合を利用した発光・受光デバイスなどの新たな応用研究の可能性を秘めるものである。 以上を踏まえて本研究では、これまで実用化に向けてネックであった、TiO2の窒化に関して、プロセス面における問題を解決することを目指すために、その素過程解明を目的とした放射光リアルタイム光電子分光分析を行う。具体的には、前回と同様に、BL23SUに常設しているXPSを用いて、アナターゼ型TiO2表面における欠陥や吸着種の定量化や反応のダイナミクスを解明するとともに、価電子帯スペクトルを得る。NO分子の吸着状態やNO分子線の並進エネルギーによる表面状態の違いと表面電子物性との関係を明らかにすることを目標とする。
実験 / Experimental
測定試料として、ルチル型TiO2(110)、PLD法により作製されたアナターゼ型TiO2(001)薄膜(成膜条件により欠陥密度等を制御する)を用いた。表面で観測される酸素欠陥量の異なる薄膜試料に対し、超音速NO分子線を照射した際の表面の反応性について検討を行った。室温ガス(0.03 eV)および超音速分子線(0.05~2.3 eV)を利用した。具体的な測定としては、以下の2点を行った。 1. 大気中から導入した表面未処理のアナターゼTiO2へのNO分子線の照射(分子線発生装置のノズル加熱無)2. 清浄表面および酸素欠陥導入表面、水吸着表面へのNO分子線の照射(ノズル加熱無) これまでの実験では、超音速NO分子線の並進エネルギーやノズル温度、また、照射される表面の状態に依り、形成されたN1s状態が異なっていること(TiN、TiON等の比が異なっている)が観測されている。また、清浄表面と水吸着表面では、NO分子線との反応性が異なっていることも観測されており、表面のOH基がN1s状態の形成に深く関わっているだろうと推測している。これらについて、現段階では大まかな変化のみが観測できているに留まっている。そのため、NO分子線による反応でのN1s状態の密度(吸着量)はあらかじめ表面に存在するOH基に依存しているのか、表面に存在する酸素欠陥に依存しているのか、並進エネルギーを変化させると反応性が変化するのか、NO分子の振動励起の有無により反応性が変化するのか、といった反応制御を決定する基礎的な支配的な反応因子や条件、また、それに付随するNO分子のドーズ量による反応過程については未だ明らかにできていないため、それを明らかにしたいと考えた。
結果と考察 / Results and Discussion
今回は、NO分子線との反応条件を明らかにするために、ノズル加熱なしで設定できる並進エネルギーの最大値と最小値、また、加熱ノズルにおける並進エネルギーの最小値におけるNO分子とアナターゼ型TiO2(001)薄膜との反応について、軟X線放射光電子分光を用いて調べた。今回のビームタイムで調べた範囲における並進エネルギーに対しては、反応性、反応速度による違いは見られなかった。また、ノズルの加熱による分子の振動励起を起こした状態の分子線照射においても顕著な違いは見られなかったが、詳細は解析中である。今回の実験では上記に加えて、放射光照射下での反応性と放射光照射していない状態でのNO分子との反応も調べた。放射光を照射していない状態では、アナターゼ型TiO2表面に酸素欠陥がない場合は反応が起こらないものの、酸素欠陥が存在する場合は反応がNO分子との反応によりN1sに状態が観測された。一方、放射光照射下においては、表面の酸素欠陥の有無に限らず、N1sに状態が観測された。これは、TiO2に光が当たることによりキャリアが生成されている状態(光触媒としてアクティブな状態)では欠陥がなくてもNO分子の反応を進行させることができることを示していると考えられる。 今後は、観測された状態の精密な成分分析を行うとともに、加熱ノズルを用いた高い並進エネルギーにおける反応性を調べることで、NO分子とアナターゼ型TiO2表面との反応を解析していきたいと考えている。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
なし。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件