【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23AE0024
利用課題名 / Title
模擬放射性廃棄物固化ガラス中の元素の化学状態と崩壊熱による温度の影響
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
模擬放射性廃棄物固化ガラス,崩壊熱,放射性廃棄物元素,X線吸収スペクトル,温度効果
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
矢野 哲司
所属名 / Affiliation
東京工業大学物質理工学院
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
毛利 恵聖久,角野 裕之,加藤 駿,宮部 大亮,榎枝 竜之介
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
松村 大樹
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
原子力発電所での使用済燃料の再処理で排出される高レベル放射性廃棄物を閉じ込めたガラス固化体では,含まれている核分裂生成物は引き続きその後も核分裂を起こす。その際に崩壊熱を発生するためにガラス固化体の温度が高い状態が持続し,固化体製造後は冷却期間を設けて温度制御される。ガラスには液相-固相の相転移を示す「ガラス転移温度」があるため,この温度以下の範囲において冷却保持されるものの,ガラス状態の変化について注意を払う必要がある。放射性元素自身や多価原子価をとる遷移金属イオン,また異なる化学状態への移行(分相や結晶の生成)についても注意が必要である。放射性廃棄物元素の化学的環境がガラス固化時と加温状態を経た後でどうかわるのか,ガラスへの固定化という観点でその有効性は損なわれることなく維持される必要があるためその温度の効果を知る必要がある。 本研究では,高温その場測定によるX線吸収スペクトル測定(高温XAFS)を測定し,ガラス中に含ませた金属イオンの化学環境の温度変化のデータを得た。
実験 / Experimental
室温から溶融温度の範囲のガラス状態を”in-situ”測定するため,透過法XAFS測定を可能とする電気炉を用いた。加熱中の試料ガラスの組成の変化を防ぐためにG3乾燥空気を電気炉内にフローした。測定はSPring-8 BL14B1 ビームラインで,Ni-K端,Mo K端に対し測定を行った。測定サンプルは溶融急冷法によって作製したガラスを専用の白金製リングに保持し,電気中で所定の温度水準(室温から最高1600℃;ただし最高温度は試料によって異なる)で温度が一定になった状態を確認して測定を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
高レベル放射性廃棄物元素(ここでは使用済MOX燃料の再処理後を想定した模擬廃液)を固化したホウケイ酸塩ガラスの加温下でのMo K端の動径分布関数(実空間)を示す(図1)。MOX由来の放射性廃棄物において充填すべき濃度(ここでは25mass%)を含んだガラス固化体は白金属以外の析出物の発生もなくガラス化することが確認されているが,そのガラスを再加熱して最高温度780℃までの温度範囲で加熱してもMoイオンの周りの局所構造変化が生じないと同時に,Moイオンの凝集(Mo元素が濃縮される分相やモリブデン酸塩結晶の析出)の兆候と見られるMo-Mo相関が現れなかった。放射性廃棄物を溶かし込むガラスマトリックスはこの廃棄物のために新たに開発されたものであるが,加温による廃棄物の化学状態変化として最も避けられるべき分相や可溶性結晶の析出が生じないことが明らかとなり,MOX使用済燃料のガラス固化処分へのマトリックスの有用性と加温に対する固化体の耐久性を示すことができた。 ケイ酸塩ガラス中の遷移金属イオンの化学状態の温度変化を測定したNi K端の酸素配位状態の温度依存性の解析結果を示す(図2)。溶けているガラス状態の局所構造解析には結晶モデルを適用することができない。そこで,干渉スペクトルをモンテカルロ法と同じ原理で素スペクトルの重ね合せで解析し,Niイオンの周りの局所構造を得た。Niイオン周りには最近接酸素(配位数約4)に加えて第2近接酸素が存在し,融液状態でその配位数を変えること(4↔︎5↔︎6配位),その変化はガラス組成(本研究ガラスの組成では,Na2O/MgO比率)によって変化が異なることを示すことができた。これは,ガラス融液のような配位環境が動的に変化している系のEXAFSスペクトルの取り扱いについて新たな解析方法を提案することができたと同時に,この解析結果とPre-edgeのピーク情報とが相関し矛盾なく説明ができる(Pre-edgeは最近接酸素の情報を与える)ことから,ガラス融液から取り出したXAFSスペクトルをPre-edge,XANS,EXAFSから多角的に解析できることを明示することができ,放射性廃棄物固化ガラスのように多種類の元素を含むガラスの化学状態の温度変化を理解する上で,有用な手法であることが示された。今後,他の金属イオンに対する測定を系統的に実施することで,模擬放射性廃棄物固化ガラス中の元素の化学状態と崩壊熱による温度の影響を調べ,固化体の性能の一つとして評価していくことが必要である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 使用済MOX燃料由来の高レベル放射性廃棄物25mass%充填ガラス固化体の高温Mo K端EXAFSから求めた動径分布関数
図2 高温Ni K端EXAFSのモンテカルロ様解析によって得たケイ酸塩ガラスおよび融体中のNiの局所構造の温度データ(左:室温,右:1500℃)の比較
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
なし。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- (1) 毛利恵聖久,ほか, 高温におけるNi-K端XAFSを用いたアルミノシリケートガラス融液の構造解析, 第59回X線分析討論会, O1-3S, 東京, 2023年10月(口頭)
- (2) E. Mori, et al., Local Structures around Mg2+ in Meta-aluminosilicate Glass Melts Analyzed by Ni-K Edge High- temperature XAFS, The 64th Symposium on Glasses and Photonic Materials, 1A03, Matsuyama, Oct. 2023 (Oral)
- (3) 角野裕之ほか,XAFS測定を利用した高レベル放射性廃棄物の組成および温度変化が難溶性元素におよぼす影響~高燃焼度/MOX使用済み燃料由来の高レベル放射性廃棄物用新規ガラスマトリックス~第5回放射性廃棄物固化体討論会(滋賀)NWG2023-03, 2023(口頭)
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件