【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.03】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23AE0018
利用課題名 / Title
XAFSを用いた配位化合物/ナノカーボン複合体を正極とする二次電池の反応機構解明
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
XAFS (X-ray absorption fine structure), Cathode reaction, Metal complex compounds, MOF (metal-organic framework), LIB (lithium-ion battery), SIB (sodium ion battery), CIB (calcium-ion battery),二次電池/ Secondary battery,放射光/ Synchrotron radiation
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
吉川 浩史
所属名 / Affiliation
関西学院大学工学部 物質工学課程
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
若松勝洋, 古野壮一郎
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
松村大樹
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
遷移金属酸化物に取って代わる高性能な二次電池正極材料の開発が必要不可欠である。本研究では、優れた導電性と空孔を有した二次元層状構造の金属有機構造体(2D-MOF)に着目し、これとナノ炭素からなる合材電極の電気化学特性評価を行った。具体的には、銅イオンと配位子HXTPからなるCu3(HXTP)2(X= O, N, S)を正極活物質として用いた、リチウムイオン電池(LIB)、ナトリウムイオン電池(SIB)の電極性能について調査した。また、X線吸収微細構造(XAFS)分析を行い、これらの電極反応機構を解明した。
実験 / Experimental
近年、世界各国が直面している環境問題やエネルギー問題より、新規エネルギー材料開発が急務となっている。中でも高性能な蓄電機能や電池特性を有する物質の開拓は、重要な研究課題の1つである。二次電池では、現在使用されている遷移金属酸化物に代替する高性能な正極材料の開発が多く行われており、様々な物質が検討・応用されている。例として架橋有機配位子とコア金属イオンから成る空孔を有する金属-有機構造体(MOF)などがある。なかでも二次元層状構造金属-有機構造体(2D-MOF)は、金属イオン-配位子間の結合由来の優れた導電性から注目されている。本研究ではCuイオンと配位子HXTP からなる2D-MOFであるCu3(HXTP)2(図1)に着目し、それらを正極活物質として用いたリチウムイオン電池(LIB)、ナトリウムイオン電池(SIB)の電池特性を評価および比較することで、配位原子Xのキャリアイオンとの相互作用の挙動を調査する。また、BL14B1において、Cu3(HOTP)2とナノ炭素からなる合材正極を用いた電池について、ex-situ X線吸収微細構造(XAFS)分析およびin-situ XAFS分析を用いて電極反応機構解明を試みることを目的とする。まず、本研究において対象としたCu3(HXTP)2の合成について述べる。出発物質としては2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HOTP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサイミノトリフェニレン(HNTP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサチオールトリフェニレン(HSTP)を用いた。ここでは、例としてCu3(HOTP)2の合成方法について述べる。ジメチルホルムアミドを含む蒸留水にHOTPを溶かした溶液と、硫酸銅(II)五水和物を蒸留水に溶かした溶液を混合し、80℃で12時間加熱した。その後、固体を回収し洗浄すると暗青色の固体を得られた。この暗青色固体を真空乾燥しCu3(HOTP)2を得た。残りのCu3(HNTP)2とCu3(HSTP)2についても同様の方法に準じて作製した。 得られた2D-MOF、導電性ナノ炭素、バインダー(CMC)を3:6:1の割合で混合した後、NMPを加え、電極スラリーを作製した。このスラリーをAl箔上に塗布した電極を正極として用い、LIBおよびSIBにおいては、負極にリチウム金属またはナトリウム金属を用いてハーフセルを作製し、定電流充放電試験によって電池特性を評価した。ここで電解溶液は、LIBにおいては1.0M LiPF6 in EC:DEC=1:1 v/v、SIBにおいては1.0 M NaClO4 in EC:PC=1:1 v/vを用いた。これらのpristine(充放電前の電極)、1D(一度目の放電完了後)、1D1C(一度目の充電完了後)、および1D1C2D(二度目の放電完了後)の電極を用いてBL14B1でex situ XAFS測定を実施した。標準試料としてはCuO, Cu2O, Cu foilを用いた。
結果と考察 / Results and Discussion
100th後の容量保持率(100th/1st)を考えると、それぞれの2D-MOFの放電容量はLIBでは25-47%程度、SIBでは30-50%程度保持されており、大きな違いは無かった。ここでは例として、図2に同一電極作製条件(CMC/NMP)におけるそれぞれの2D-MOFのSIBサイクル特性を示す。理論容量に対する放電容量の達成率を考えると初期容量、最大容量、100th後の容量においてCu3(HOTP)2が比較的高い達成率を示すということが分かった。また、これらと同じ傾向がLIBにおいても観測された。これは構造の堅牢性やインピーダンス抵抗の大きさの違いに起因すると考えられる。次に、SIBにおけるCu3(HOTP)2のCu K-edge XAFSスペクトルを図3に示す。pristineでは約8985
eV辺りにCu2+起因のプレピークがみられることから、Cuは2価の状態に近いと考えられる。1Dでは約8982 eV辺りにCu+起因のプレピーク、1D1Cでは約8985
eV辺りにCu2+起因のプレピーク、1D1C2Dでは再びCu+起因のプレピークが観測されることから、充放電中に2価から1価の間でCuの可逆的な酸化還元が生じていると推測される。今後は、種々の電気化学測定手法とoperando XAFS測定を用いてCu3(HXTP)2の電池特性や反応機構のより詳細な調査を引き続き行っていく予定である。また、NiやCoなど他の金属種を用いた2D-MOFにおいても電極性能評価および反応機構解析を行い、コア金属種における電極性能への依存性なども調査を行う。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 Cu3(HXTP)2(X= O, N, S)の構造図
図2 Cu3(HXTP)2(X= O, N, S)のSIBサイクル特性(CMC/NMP)
図3 Cu3(HOTP)2のCu K-edge XAFSスペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
なし
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 若松勝洋、古野壮一郎、吉川浩史、”テトラチアフルバレンを基盤とする金属有機構造体の電子貯蔵性能”、日本化学会第104春季年会、2024年3月
- 大方俊佑、若松勝洋、小柳友貴、清水剛志、吉川浩史、”二次元層状構造金属有機構造体の蓄電特性”、日本化学会第104春季年会、2024年3月
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件