【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.24】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23MS1073
利用課題名 / Title
先端電子スピン共鳴法を用いた酵素ダイナミクスの実測
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
スピンラベル, 酵素, ダイナミクス, 構造変化,資源使用量低減技術/ Technologies for reducing resource usage,未利用資源の有効利用技術/ Technologies for effective utilization of unused resources
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
矢垰 紅音
所属名 / Affiliation
鹿児島大学大学院連合農学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
堀谷 正樹
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
横山 利彦,中村 敏和,浅田 瑞枝,上田 正,藤原 基靖,宮島 瑞樹,伊木 志成子
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
我々が所有している南極産好冷細菌由来グルコキナーゼ(PsGK)は高熱安定性を有する低温適応酵素である。つまり、PsGKは低温から高温での高い酵素活性と高い安定性を併せ持ち、産業利用に理想的な特徴を有している酵素である。しかし、PsGKのように低温適応と高熱安定性を同時に達成する天然酵素は報告がほとんどなく、また現在の一般論ではそのメカニズムは説明できない。そこで、本研究ではPsGKの分子基盤を解明することを目的とし、これを達成するために、酵素活性および安定性と関係があるとされる構造柔軟性に注目した。グルコキナーゼの酵素反応は開閉運動を伴うため、これまでに行ってきた部位特異的な構造柔軟性を実測に加え、全体的な構造柔軟性として構造ダイナミクスを実測することでPsGKの酵素活性や安定性のメカニズムを明らかにする。構造ダイナミクスの実測には、高速混合凍結-先端ESR法(DEER)を利用する。
実験 / Experimental
PsGKの構造ダイナミクスを解き明かすために、高速混合凍結法とDEERを用いてPsGKの酵素反応に伴う構造変化速度の温度依存性を実測することを目的とした。DEERでは、酵素のドメイン間の距離を測定することで構造変化を追跡できる。また、高速混合凍結によって、種々の温度でインキュベートした酵素と基質を様々な反応速度で混合し瞬間凍結することで反応中間体を作製できる。これらを達成するためには、①DEER測定条件の検討、②DEERによる基質非結合型構造および基質結合型構造の距離測定、③中間体捕捉に適した酵素と基質の混合速度の検討、④高速混合凍結で作製した反応中間体サンプルのDEER測定といったいくつかのステップを経る必要があった。我々の研究対象であるPsGKは金属などのラジカルを保有していないため、ESRで検出するためにはスピンラベル剤を酵素中に導入する必要があった。そのため、分子科学研究所では電子スピン共鳴装置(EMX Plus)を用いてスピンラベル濃度の測定(ラベル率の定量)および電子スピン共鳴装置(E680)を用いてDEER測定を実施した。
結果と考察 / Results and Discussion
まず①について、EMX Plusを利用して測定サンプルのスピンラベル濃度を測定した。初めて測定した際は、現地で酵素にスピンラベルを付加し、ラベル化条件の検討も行ったため室温で測定した。その場合は、ラベル化した酵素をキャピラリーに入れて測定した。ラベル化条件が決定した後は、所属機関で作製したサンプルを極低温で測定することでラベル濃度を確認した。DEERサンプル作製条件が決定した後、そのサンプルを用いてE680を利用することでDEER測定を行った。基質非結合型(OPEN構造)、第一基質結合型(semi-CLOSED構造)、第二基質結合型(CLOSED構造)の距離を測定し、結晶構造では観測できていないOPENからCLOSEDまでの一連の構造変化を可視化することに成功した(CLOSED構造の結晶構造は未解明なため)。③について、代謝回転数から逆算した反応速度を目安にして高速混合凍結したサンプルのDEER測定に挑戦したが、信号強度の弱さやサンプル作製方法などの見直しが必要なことがわかり、③および④の実験については今後の課題である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
受賞: 第24回極限環境生物学会ポスター賞, 矢垰紅音, 鹿児島大学大学院連合農学研究科, 令和5年8月
受賞につながった研究内容:
酵素の活性と熱安定性は構造の柔軟性と相関があると考えられている。地球上の大部分を占める極地にて生存する好冷細菌や低温菌は低温適応酵素を保持している。低温適応酵素は通常の酵素と比べると低温でも活性を失わず、全体的に高活性である一方、熱安定性が低い特徴があると考えられてきた。そのため、産業利用においては低い安定性が懸念され、長く研究対象から外れているという現状であった。ところが、最近になり熱安定性の高い低温適応酵素の報告が相継いでいることから、これまでの学説では低温適応機構を説明することが出来ないことが指摘されていた。
そこで、私たちの研究グループは熱安定性の高い低温適応酵素について、部位特異的に構造柔軟性の温度変化を電子スピン共鳴(ESR)法により実測することに成功し、酵素の構造柔軟性と活性-熱安定性に関する新たな知見を得た。また、先端ESR法である電子-電子二重共鳴法(DEER)にもチャレンジし、酵素の構造変化を可視化することに成功しています。この先端ESR法は日本国内でも測定できる研究者がわずかしかいないため、この手法を用いた研究の発展にも貢献しています。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 矢垰紅音, 浅香里緒, 渡邉啓一, 堀谷正樹 “南極産好冷細菌由来グルコキナーゼの低温適応・高熱安定性機構の解明” 第24回極限環境生物学会年会, 令和5年8月28日
- 矢垰紅音, 浅香里緒, 渡邉啓一, 堀谷正樹 “スピンラベル-ESR法を利用した酵素の構造柔軟性の実測” 第35回生物無機化学夏季セミナー, 令和5年9月7日
- 矢垰紅音, 堀谷正樹 “先端電子スピン共鳴法を用いた酵素ダイナミクスの実測” 令和5年度生命金属科学夏の合宿, 令和5年9月9日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件