利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.24】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23MS1063

利用課題名 / Title

シグナル伝達に伴うベシクル型人工細胞組織の集団挙動発現

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

ベシクル, 塩橋, 人工組織,細胞・組織再生誘導材料/ Materials for inducing cell and tissue regeneration


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

小島 知也

所属名 / Affiliation

慶應義塾大学大学院理工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

MS-222

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 「生命とは何か?」を明らかにするうえで、単純な構成要素である分子を用いて細胞を一から人工的に創り上げ、化学的観点から生命の本質を探る手法が注目を集めている。中でも、両親媒性分子の脂質からなる袋状構造体の「ベシクル」は、リン脂質2分子膜で覆われた実際の生物の細胞に類似している点で“人工細胞”の研究対象とされてきた。実際の生物は「細胞→組織→器官→個体」という階層性を有しており、多数の細胞が寄り集まり組織を成した結果、最終的に生物の個体が出来上がっている。そこで、生物でみられる「細胞→組織」の階層性を分子の観点からより一層明らかにするため、“人工細胞”である複数のベシクルを利用し (1) 人工細胞を密着させて人工組織を作る、(2) 組織内の人工細胞間でシグナル伝達させる、(3) 伝達されたシグナルにより集団としての組織全体の動きを発現させる、という3段階を経ることで、筋肉の弛緩・収縮や心臓の拍動に代表されるような、細胞が組織を形成して動きを発現するまでの過程を人工的に再現することを目的としている。

実験 / Experimental

 「(1) 人工細胞を密着させて人工組織を作る」ことを目指し、イオン結合と水素結合を併せた分子間相互作用である塩橋の効果を利用してベシクル同士を密着・組織化することを既に達成していた。その際、カチオン性を有するアンモニウムイオンとアニオン性を有するカルボキシラートイオンの間での塩橋を利用した。ベシクルの密着・組織化が当初の仮説通り塩橋に基づくものであることを確かめるため、ゼータ電位測定結果からイオン結合の存在が、赤外分光法による測定結果から水素結合の存在が示唆され、イオン結合と水素結合を併せ持つ塩橋の効果を示唆できていた。しかし、塩橋の効果について定量的な観点から議論できていないのが現状であった。そこで、分子科学研究所の等温滴定型カロリメーターを用いることにより、塩橋に基づく分子間相互作用について、定量的な熱力学的パラメーターを取得することを試みた。2023年3月に分子科学研究所の装置を利用して取得を試みたが、適切なデータが得られなかった。この原因は、塩橋を形成するイオンの濃度が小さく、測定に足る十分な発熱が生じなかったためであると考えた。そこで、今回の測定では塩橋を形成するイオンの濃度を10–100倍程度大きくした試料を用いて再度測定を試みた。

結果と考察 / Results and Discussion

 長鎖アミンを有するベシクル分散液と長鎖カルボン酸を有するベシクル分散液を用い、一方の分散液をセルに加え、それに対してもう一方の分散液をシリンジから滴下した際の吸熱/発熱ピークを等温滴定型カロリメーターにより測定した。塩橋を形成するイオンの濃度を10–100倍程度大きくして測定を行ったところ、滴定に伴い発熱ピークを得ることができた。しかし、コントロールとして長鎖アミンや長鎖カルボン酸を含まない試料を用いて同様の測定を行ったところ、アミンやカルボン酸存在時と同程度の発熱ピークが観測された。このコントロールの結果を踏まえると、測定された発熱はアミンとカルボン酸との間での塩橋形成によるものではなく異種溶液同士の混合熱によるものと示唆された。したがって、このようなベシクル分散液を用いた測定は困難であることを結論付け、その理由としては、測定中に撹拌を行うことによるベシクル同士の接着の阻害によるものと考えられた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

技術支援を行ってくださりました、長尾春代 様に感謝します。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Tomoya Kojima, Engineering pH‐Responsive, Self‐Healing Vesicle‐Type Artificial Tissues with Higher‐Order Cooperative Functionalities, Small, 20, (2024).
    DOI: 10.1002/smll.202311255
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. (1) 小島知也, 野口雄太郎, 朝倉浩一, 伴野太祐, “塩橋により形成されたベシクル型人工組織の運動性” 日本化学会第104春季年会, 令和 6 年 3 月 19 日.
  2. (2) 小島知也, 野口雄太郎, 藤岡沙都子, 寺坂宏一, 朝倉浩一, 伴野太祐, “可逆的な組織形成能および自己修復能を有するリポソーム型人工組織の創製” 第7回分子ロボティクス年次大会, 令和 6 年 3 月 13 日.
  3. (3) Tomoya Kojima, “Formation of artificial tissues and their higher-order cooperative functionalities” 15th HOPE Meeting, 令和 6 年 2 月 26 日.
  4. (4) 小島知也, 野口雄太郎, 寺坂宏一, 朝倉浩一, 伴野太祐, “複数の外部刺激に応答するベシクル型人工組織の創製” 第72回高分子討論会, 令和 5 年 9 月 27 日.
  5. (5) 小島知也, 野口雄太郎, 寺坂宏一, 朝倉浩一, 伴野太祐, “多数のリポソームからなる人工組織の協同的な高次機能” 「細胞を創る」研究会 16.0, 令和 5 年 9 月 25–26 日.
  6. (6) 小島知也, 野口雄太郎, 寺坂宏一, 朝倉浩一, 伴野太祐, “多数のベシクルが形成する組織様集合体の協同的なダイナミクス” 第74回コロイドおよび界面化学討論会, 令和 5 年 9 月 14 日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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