利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.24】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23MS1039

利用課題名 / Title

フラビンタンパク質の光誘起ラジカルペア生成に関する人工システムの構築

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

センサ/ Sensor,スピン制御/ Spin control,光誘起電子移動反応, ラジカルペア, フラビンタンパク質モデル, 時間分解電子スピン共鳴測定


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

岡 芳美

所属名 / Affiliation

広島大学持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

浅田 瑞枝,伊木 志成子,上田 正,長尾 春代,藤原 基靖,宮島 瑞樹

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-214:電子スピン共鳴(E680)
MS-227:蛍光分光
MS-228:紫外・可視・近赤外分光光度計
MS-229:絶対PL量子収率測定装置
MS-231:ピコ秒レーザー


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 生体内で、青色光受容体タンパク質クリプトクロムが高感度磁気センサーとして働いている可能性が強く示唆されている。その機構は、クリプトクロム中のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が青色光により励起されたとき、アミノ酸(トリプトファン、Trp)との間で電子移動が起こり、その結果生じるラジカルペアのために、微弱磁場であっても反応効率の差として検出できると推定されている。本課題では、この磁気センシング機構に着目し、フラビンとTrpを電子アクセプターおよびドナーユニットとして含む連結分子やDNAオリゴマーを対象に、フラビンを青色光で励起したときに電子ドナーから電子移動が起こるようモデル系を設計、構築した。フラビン-Trp・ラジカルペア形成における反応機構の評価(スピン分極の観測)、最終的な3重項ラジカルペアの寿命評価を目的とし、時間分解電子スピン共鳴(TREPR)測定を行った。

実験 / Experimental

 新規フラビン-Trp連結分子を合成した。DNAオリゴマーは、水溶性のフラビン誘導体を合成し、3’-末端修飾体を入手した。分子科学研究所・機器センターで、溶液サンプルのTREPR測定を行った。Bruker E680(X-band)とNd:YAG-OPOレーザーを用い、ナノ秒光パルス(励起波長450 nm、レーザーパワー〜2 mJ、繰り返し周波数30 Hz)照射後のTREPR測定を行った。マイクロ波パワーは2 mWに設定した。フラビン-Trp連結分子については、2 mm(内径1 mm)管を使用し、主に室温(~298 K)でDMSO溶液、MeCN溶液中の測定を行った。DNAオリゴマーについては、4×10 mm(内寸:0.3 mm)の偏平セルを使用し、278 Kで10%DMSO水溶液中の測定を行った。サンプル溶液は、脱気処理のため、真空及びHe雰囲気下で凍結融解を繰り返した後、封管した。

結果と考察 / Results and Discussion

 TREPR測定から、pフェニルアミドをリンカーとするフラビン-Trp連結分子は、MeCN溶液中において、光励起後に345 mT付近の磁場領域で半値幅が約1.5 mTの発光(E)分極パターンのみ示した。この結果は、分子内ラジカルペアが3重項を前駆体として生成しており、フラビン-Trp間の距離が比較的近いためにダイポール相互作用が大きいことを反映していると考えられる。298 Kでのラジカルペアの寿命は、約5 μsと算出した。同じ濃度(100 μM)のDMSO溶液中では、分極パターンは観測されず、溶媒効果、すなわち分子間相互作用の関与を捉えている可能性が考えられる。さらに、p‒ターフェニルアミドをリンカーとするフラビン-Trp連結分子についても、凍結状態ではほぼ同様の分極パターンが得られたが、溶液状態では観測されなかった。DNAオリゴマーについては、フラビンタンパク質で報告されているフラビン-Trp・ラジカルペアと同様の分極パターンを、フラビン-グアニン間で観測できており、詳細について検討を進めている。同様の水溶液を用いてQ-bandでも測定を行った(内径0.3 mm管を使用)が、シグナルは観測できなかった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

<謝辞>
 本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(C) 22K05053を受けて実施した。実際の測定では、機器センターの藤原基靖氏、上田正氏、伊木志成子氏、宮島瑞樹氏、浅田瑞枝氏にご協力いただいた。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 岡芳美,“Artificial Creation of Flavin-Based Radical Pair Systems Relevant to Biological Magnetoreception” 9 th Kanto Area Spin Chemistry Meeting (KASC 2023),令和6年3月25日.
  2. 岡芳美,井上克也,“Blue Light-induced Radical Ion Pairs in Flavin–Trp Dyad” CEMS International Symposium on Supramolecular Chemistry and Functional Materials 2024 (CEMSupra 2024),令和6年1月18日.
  3. 岡芳美,井上克也,“Artificial Creation of Flavin-Based Radical Pair Systems Relevant to Biological Magnetoreception” Gordon Research Conference: Electron Spin Interactions with Chiral Molecules and Materials,令和5年7月30日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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