利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.10】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23MS1028

利用課題名 / Title

特異な磁気特性を発現する逆ペロブスカイト型マンガン基窒化物に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

逆ペロブスカイト, 窒化物, 磁性体


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

川口 昂彦

所属名 / Affiliation

静岡大学学術院工学領域電子物質科学系列

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

杉浦怜希

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮島 瑞樹,伊木 志成子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-220:SQUID (MPMS3 DC)
MS-223:熱分析(固体、粉末)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

磁気信号の高感度検出に重要な「交換バイアス」(磁場に対して正負非対称な磁化反転を生じさせる見かけ上の磁場)の発現には、一般に強磁性/反強磁性の接合素子が必要である。これに対し、本研究ではMn3(Ge,Mn)Nにおいて、単一物質にも関わらず室温で交換バイアスを示すことを独自に見出した。これは、Mn3(Ge,Mn)Nにおいて、一般に極低温の現象として知られているスピングラス相(ミクロに強磁性と反強磁性の相互作用が混在した相)が室温以上まで安定化していることを示唆している。導体で室温までスピングラス相が安定となる物質は非常に限られており、室温駆動デバイスへの応用だけでなく基礎研究上も興味深い物質である。そこで本研究では、PLD法を用いて作製したMn3(Ge,Mn)N薄膜の磁気特性について調査を進めている。結果として、MgO(001)基板およびGaN(0001)/c-sapphire基板上にエピタキシャル成長したMn3(Ge,Mn)N薄膜では交換バイアスは観測されなかった。一方で、Si(001)基板上に作製したMn3(Ge,Mn)N薄膜は多結晶であったが、4 Kで100 Oe程度の微弱ながらも交換バイアスが観測された。このことから、粒界の存在が交換バイアスの発現にとって重要である可能性が考えられる。

実験 / Experimental

Mn3(Ge1-xMnx)N 粉末は真空封入した石英管中で固相反応法(800℃, 60 h)により合成した。また、Mn3(Ge1-xMnx)N薄膜はPLD法を用いてMgO(001)基板、GaN(0001)/c-sapphire基板およびSi(001)基板上に成膜した。ターゲットには、放電プラズマ焼結法により作製したMn3(Ge1-xMnx)N 焼結体を用いた。成膜は、背景真空度0.8-5.0×10-5 Pa において、Nd:YAGレーザー4倍高調波を用いて行った。得られた薄膜は静岡大学にてX線回折(XRD)と蛍光X線分析、および分子科学研究所にて超伝導量子干渉磁束計(SQUID)の搭載されたMPMS-3を用いて評価した。

結果と考察 / Results and Discussion

GaN/c-sapphire基板上への(111)面外配向Mn3(Ge,Mn)N薄膜のエピタキシャル成長は500℃の成膜で成功した。ただし、500℃成膜したMgO(001)上のMn3(Ge,Mn)N薄膜と同等の結晶配向性とするには、GaN上では700℃成膜が必要であった。これはGaN上の格子不整合性が大きいことが原因であると考えられる。一方、Si(001)基板上にはフッ酸処理により自然酸化膜を除去した場合でも、Mn3(Ge,Mn)Nのエピタキシャル成長は見られず多結晶薄膜が得られた。原因は表面エネルギー差の可能性が挙げられる。これらの薄膜について磁化測定を行ったところ、いずれの薄膜でも1 kOeでのFCとZFCに極低温から270 K付近の間で大きな差が見られた。これは薄膜がスピングラス状態となっていることを示唆している。4 KでM-H曲線を測定したところ、MgO上およびGaN上の薄膜では交換バイアスは観測されなかった。一方、Si上の薄膜では、100 Oe程度の交換バイアスが観測された。粉末試料で観測された1 kOeオーダーの交換バイアスに比べれると値が1桁小さいが、多結晶粒界が交換バイアスの発現に重要である可能性が示唆された。 さらに、MPMS-3の抵抗オプションを用いて4端子法で磁気抵抗(磁場は薄膜表面に垂直に印加)を測定したところ、GaN上の薄膜でのみ、最大で150 K、7 Tで70%程度の大きな磁気抵抗効果が得られた。MgO上の薄膜の抵抗率は極低温まで金属的な振る舞いを示したのに対し、GaN上の薄膜の抵抗率は150 K付近から低温に向かって半導体的挙動を示した。これらの振る舞いの原因は明らかになっていないが、この抵抗での変化と大きな磁気抵抗効果が密接に関係していると考えられる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・MPMS-3の装置管理者である宮島瑞樹様、藤原基靖様、伊木志成子様に感謝します。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. [1] "GaN上のMn3(Ge,Mn)Nエピタキシャル薄膜における磁気抵抗効果", 〇川口昂彦, 杉浦怜希, 菅原祐哉, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第71回応用物理学会春季学術講演会, 2024年3月22日, 東京都市大学世田谷キャンパス+オンライン
  2. [1] "GaN上のMn3(Ge,Mn)Nエピタキシャル薄膜における磁気抵抗効果", 〇川口昂彦, 杉浦怜希, 菅原祐哉, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第71回応用物理学会春季学術講演会, 2024年3月22日, 東京都市大学世田谷キャンパス+オンライン
  3. [3] “Preparation of nitride and oxynitride thin films with high-crystallinity using magnetic-field-induced PLD”, 〇Takahiko Kawaguchi, 第25回高柳健次郎記念シンポジウム, 2023年11月29日, 静岡大学浜松キャンパス..
  4. [4] "PLD法による様々な基板上へのMn3(Ge,Mn)Nエピタキシャル薄膜の作製および磁気特性評価", 〇杉浦怜希, 川口昂彦, 菅原祐哉, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第43回電子材料研究討論会, 2023年11月9日, 東京工業大学すずかけ台キャンパス.
  5. [5] "PLD法によるGaN上へのMn3(Ge,Mn)N(111)エピタキシャル薄膜の作製", 〇川口昂彦, 杉浦怜希, 菅原祐哉, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第84回応用物理学会秋季学術講演会, 2023年9月22日, 熊本城ホールほか3会場+オンライン.
  6. [6] " PLD 法を用いた様々な基板上への Mn3(Ge,Mn)N エピタキシャル薄膜の作製", 〇杉浦怜希, 川口昂彦, 菅原祐哉, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 日本セラミックス協会第36回秋季シンポジウム, 2023年9月7日, 京都繊維工芸大学松ヶ崎キャンパス+オンライン.
  7. [7] “Room temperature exchange bias in Mn3(Ge,Mn)N and preparation of their thin films using PLD”, Satoki Sugiura, Takahiko Kawaguchi, Naonori Sakamoto, Naoki Wakiya, EM-NANO2023, 2023年6月7日, 石川県地場産業振興センター.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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