利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.03】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23MS1002

利用課題名 / Title

有機分子の自己組織化に基づく新規有機・無機ハイブリッドナノ構造の構築4

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

量子ドット、ペロブスカイト、ナノ材料


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

増尾 貞弘

所属名 / Affiliation

関西学院大学生命環境学部環境応用化学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

山内 光陽,久保 直輝

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-203:電界放出形透過型電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

ナノメートルサイズの半導体ナノ結晶(CsPbBr3やCdSe)は「量子ドット」と呼ばれ、卓越した発光特性や光耐久性を示すなど、光機能性ナノ材料として魅力的な物質である。さらに、複数の量子ドットが集まり配列すると、量子ドット間の相互作用が働くようになり、単独の量子ドットでは示さない新たな光物性が発現する。この優れた特性を利用することにより、既存のデバイス性能を超えた発光ダイオードや太陽電池等の発光・光電子デバイスの創出が期待されている。しかしながら、このような量子ドット間の相互作用に由来する物性は、量子ドットの分散溶液を基板上で自然乾燥させて得られた最密充填構造(超格子)においてのみ観測されている。そのため、超格子のような特異な構造以外においては、「量子ドット配列構造」と「光物性」の相関関係は明らかになっていない。量子ドット配列構造由来の光物性を明らかにするためには、配列を構築・制御する必要がある。しかしながら、量子ドットは、溶液中で高い分散性を示すため、量子ドット間の相互作用のみでは配列構造は形成し難い。これを克服するために、報告者らは最近、有機分子の自発的に集まる性質(自己集合)を量子ドットに組み込むことで、 溶液中で量子ドットを配列させることに成功してきた(参考文献)。このアプローチを基盤にすることで、様々な量子ドット配列構造を構築することができれば、配列構造由来の新たな光物性の解明に繋がることが期待される。そこで本研究では、有機分子の自己集合を駆使することで、量子ドットの配列構造を自在に、そして精密に制御することを目的とした。配列制御に関する本手法が確立すれば、他の金属ナノ粒子、有機ナノ結晶、ポリマー粒子の緻密な配列制御の指針になり、当該量子ドット領域のみならず分子科学領域全体に多大な波及効果をもたらすことが期待できる。

実験 / Experimental

本研究では、「量子ドットの1次元配列構造」、および「量子ドット-有機分子交互配列構造」の構築に取り組んだ。量子ドットとして、球状のCdSe量子ドット、およびキューブ状のCsPbBr3ペロブスカイトナノ結晶(PNC)を合成した。また、有機分子として、1次元ファイバー構造の形成が見込まれるコレステロール誘導体(Chol)とアゾベンゼン誘導体(Azo)、および3次元的な集合構造の形成が見込まれるペリレンビスイミド誘導体(PBI)を合成した。有機分子集合体は、低極性溶媒を用いた再沈法により形成させた。得られた有機分子集合体と量子ドットを混合することで、両者の共集合体溶液を作製した。これらの量子ドット、有機分子集合体、共集合体のサイズや形状・構造を、電界放出形透過型電子顕微鏡(TEM, ID番号:MS-203)を用いて、200kVの加速電圧で測定することにより評価した。

結果と考察 / Results and Discussion

・量子ドットの1次元配列構造の構築 TEM観察より、Cholは、ナノファイバーを形成することが確認された。このChol集合体のナノファイバーとCdSe量子ドットを共集合させると、Chol集合体に沿って球状のCdSe量子ドットが並んだ像が観測され、目的とした量子ドット1次元配列構造が構築されたことが明らかとなった。さらに、分光測定より配列した量子ドット間で光エネルギーの輸送が可能なことを解明した。次に、球状のCdSe量子ドットに加え、キューブ状のPNCを混合すると(異種量子ドットの混合)、CdSe, およびPNCがナノファイバーに沿って並んだ1次元配列構造を形成可能なことをTEM観察から見出した。今後は、異種量子ドットの配列制御を行なっていく予定である。・アゾベンゼン誘導体を用いたCdSe量子ドットの1次元配列構造の作製と光照射による構造変化の検討 アゾベンゼン、コレステロール、およびアルキル鎖からなる分子設計したAzoは、ナノファイバーを形成することをこれまで見出している。このAzo集合体とCdSe量子ドットを共集合させると、Azo集合体に沿って球状のCdSe量子ドットが並んだ像がTEM観察で見られ、量子ドット1次元配列構造を形成可能なことが明らかになった。さらに、この構造にUV光を照射すると、アゾベンゼンの光異性化反応により、Azo集合体が分解され、可視光を照射すると再び元のAzo集合体が形成されることTEM観察と分光測定から見出した。つまり、光による集合構造の変化に成功した。・量子ドット-有機分子交互配列構造の構築  TEM観察より、PBI集合体の構造(サイズ)が時間変化することを見出し、同一分子から様々な構造の集合体を得ることを見出した。さらに、これらのPBI集合体にPNCを混合したところ、それぞれ異なる共集合構造となることが明らかとなった。これらの結果は、有機分子集合体の構造を精密に制御することで、目的とした配列構造を意図して作り分けることが可能であることを示唆している。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

参考文献1.      Colloidal Quantum Dot Arrangement Assisted by Perylene Bisimide Self-Assembly, M. Yamauchi, S. Masuo, Chem. Eur. J., vol.25, pp.167-172 (2019).2.      Self‐assembly of Semiconductor Quantum Dots via Organic Templates, M. Yamauchi, S. Masuo, Chem. Eur. J., vol.26, pp.7176-7184 (2020). 3.      Highly Ordered Quantum Dot Supramolecular Assembly Exhibiting Photoinduced Emission Enhancement, M. Yamauchi, S. Yamamoto, S. Masuo, Angew. Chem. Int. Ed., vol. 60, pp.6473-6479 (2021).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Naoki Kubo, Self-Assembly Behavior of Perylene Bisimide Derivatives on a Perovskite Nanocrystal Surface, The Journal of Physical Chemistry C, 128, 4648-4654(2024).
    DOI: 10.1021/acs.jpcc.3c08420
  2. Miyu Yoshioka, Single-Photon Emission from Organic Dye Molecules Adsorbed on a Quantum Dot via Energy Transfer, Nano Letters, 23, 11548-11554(2023).
    DOI: 10.1021/acs.nanolett.3c03279
  3. Mitsuaki Yamauchi, One‐Dimensionally Arranged Quantum‐Dot Superstructures Guided by a Supramolecular Polymer Template, Angewandte Chemie International Edition, 63, (2023).
    DOI: 10.1002/anie.202314329
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Sadahiro Masuo, Hina Igarashi, Mitsuaki Yamauchi, “Correlation between Single-Photon Emission and Size of Cesium Lead Bromide Perovskite Nanocrystals” The 31st International Conference on Photochemistry (ICP2023)(2023年7月25日)
  2. 町田恵利子,山内光陽,増尾貞弘「極性アゾベンゼンにおける凝集誘起発光挙動の制御」2023年光化学討論会(2023年9月5日)
  3. 増尾貞弘「ペロブスカイトナノ結晶に生成する多励起子の有効活用に向けて」第84回応用物理学会秋季学術講演会(2023年9月20日)(招待講演)
  4. Naoki Kubo, Mitsuaki Yamauchi, Sadahiro Masuo, “Construction of Heterogeneous Superlattice Using a Perylene Bisimide Derivative and a Perovskite Nanocrystal”, 36th International Microprocesses and Nanotechnology Conference (MNC2023)(2023年11月16日)
  5. Naoki Kubo, Mitsuaki Yamauchi, Sadahiro Masuo, “Controlling Heterostructures Composed of a Perylene Bisimide Derivative and a Perovskite Nanocrystal” 日本化学会第104春季年会(2024年3月20日)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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