利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23AE0017

利用課題名 / Title

強磁性酸化物を用いたスピントロニクスデバイスにおける量子輸送特性の解明

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構 / JAEA

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

Photoemission spectroscopy, Spintronics, ferromagnetic oxide,スピントロニクス/ Spintronics,超伝導/ Superconductivity


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

小林 正起

所属名 / Affiliation

東京大学 大学院工学系研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

関裕一,稲垣洸大,有川世修

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

藤森伸一,竹田幸治

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-007:軟X線光電子分光装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

情報技術の革新は高品質半導体物質を基にした高性能電子デバイスによって支えられている。しかしながら、微細化によって発展した半導体電子デバイスは技術的な限界が近づいており、発展を続ける情報化社会を維持するために新しい原理に基づくエレクトロニクスが切望されている。酸化物エレクトロニクスは、金属から絶縁体までの広い伝導特性を持つ酸化物を用いたエレクトロニクスである。特に遷移金属酸化物は、超伝導や巨大磁気抵抗効果などの特異な量子物性を示す[H. Y. Hwang et al., Nat. Mater. 11, 103 (2012.)]。近年、強磁性酸化物を用いたデバイス構造において電子スピンに起因した新しい伝導現象が発見されており、スピントロニクス(スピン+エレクトロニクス)の発展に貢献することが期待されており、基礎及び応用共に強磁性酸化物ヘテロ構造の研究が進んでいる。本研究では、強磁性酸化物デバイスの電子状態を調べることで、量子輸送特性の原因を解明することを目的とする。 酸化物エレクトロニクスおよびスピントロニクスの発展は、従来の半導体エレクトロニクスを拡張し将来の消費電力・エネルギー問題の解決に貢献することが期待される。強磁性遷移金属酸化物(La,Sr)MnO3(LSMO)を電極として用いたスピントランジスタにおいて、従来の半導体デバイスを遥かに凌ぐ、超巨大磁気抵抗(MR)比が達成された。このデバイスでは、LSMO電極間にArミリングを行い、酸素欠損を導入することで絶縁化したLSMOがトンネル障壁として存在し、この高いMR比の達成に大きな役割を果たしているとされている。本研究では、これら強磁性酸化物を用いたスピントロニクスデバイス構造における電子状態を光電子分光により調べ、スピン物性の起源を電子状態の観点から解明することで、将来の酸化物エレクトロニクス・ナノテクノロジーへの貢献を目指した。

実験 / Experimental

測定には、SPring-8重元素科学ビームライン(BL23SU)の光電子分光装置を用いた。測定した試料は、Ar処理前後の高品質La0.7Sr0.3MnO3薄膜である。光電子分光測定は、温度T = 30 Kで行い、450-1250 eVの入射光エネルギーを用いた。エネルギー分解能は約140­–300 meVである。

結果と考察 / Results and Discussion

LSMOを用いたスピントランジスタデバイスでは、LSMO電極間にArミリングを行い、酸素欠損を導入することで絶縁化したLSMOがトンネル障壁として存在し、この高いMR比の達成に大きな役割を果たしていると考えられている。本研究では、デバイスと同様のAl キャップ/LSMOの構造を対象にRPES測定を行うことで、この絶縁層の電子状態を解明し、ミリング条件の最適化やトンネル障壁に最適な絶縁壁の構造、電子状態の提案を目指した。
  図1は、Ar照射およびアニーリング処理をしたLSMO薄膜におけるMn L3端共鳴光電子分光スペクトルを示す。LSMOではEFをよぎるMn 3d部分状態密度(PDOS)が観測されているが、Ar照射によりフェルミ準位(EF)近傍の強度がなくなり絶縁化することが分かった。アニールにより僅かにEF近傍の強度が回復するがギャップは空いている様子が観測された。この結果はAr照射後にアニールをしても金属状態は回復せずに、LSMOは絶縁化した状態になることが明らかになった。この結果は、Ar照射の処理によってLSMOを部分的に絶縁化できることを示唆しており、スピントランジスタデバイスで観測された巨大な磁気抵抗効果は、急峻な界面を有する金属-絶縁体ヘテロ構造によるものと考えられる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. LSMOの価電子帯スペクトルにおけるAr照射処理の影響.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

BL23SUでの実験に関して、原子力研究機構の竹田幸治氏、藤森伸一氏、にご支援いただいた。本研究の一部は、スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク拠点の支援を受けて行われた。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Ryo Okano, Ferromagnetism induced by hybridization of Fe 3d orbitals with ligand InSb bands in the n -type ferromagnetic semiconductor (In,Fe)Sb, Physical Review B, 107, (2023).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.107.205205
  2. Tatsuro Endo, Giant Spin‐Valve Effect in Planar Spin Devices Using an Artificially Implemented Nanolength Mott‐Insulator Region, Advanced Materials, 35, (2023).
    DOI: https://doi.org/10.1002/adma.202300110
  3. Yuki K. Wakabayashi, Isotropic orbital magnetic moments in magnetically anisotropic SrRuO3 films, Physical Review Materials, 6, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevmaterials.6.094402
  4. Takahito Takeda, Development of magnetism in Fe-doped magnetic semiconductors: Resonant photoemission and x-ray magnetic circular dichroism studies of (Ga,Fe)As, Physical Review B, 105, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.105.195155
  5. M. Suzuki, Magnetic anisotropy of the van der Waals ferromagnet Cr2Ge2Te6 studied by angular-dependent x-ray magnetic circular dichroism, Physical Review Research, 4, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.4.013139
  6. Yuki K. Wakabayashi, Single-domain perpendicular magnetization induced by the coherent O 2p -Ru 4d hybridized state in an ultra-high-quality SrRuO3 film, Physical Review Materials, 5, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevmaterials.5.124403
  7. Hiroyasu Yamahara, Flexoelectric nanodomains in rare-earth iron garnet thin films under strain gradient, Communications Materials, 2, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1038/s43246-021-00199-y
  8. Le Duc Anh, Ferromagnetism and giant magnetoresistance in zinc-blende FeAs monolayers embedded in semiconductor structures, Nature Communications, 12, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-021-24190-w
  9. Masaki Kobayashi, Minority-spin impurity band in n -type (In,Fe)As: A materials perspective for ferromagnetic semiconductors, Physical Review B, 103, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.103.115111
  10. Masaki Kobayashi, Alternation of Magnetic Anisotropy Accompanied by Metal-Insulator Transition in Strained Ultrathin Manganite Heterostructures, Physical Review Applied, 15, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.15.064019
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る