利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23AE0001

利用課題名 / Title

金属錯体化合物を有する新規ナトリウム二次電池用正極材料のXAFSによる電池反応機構解明

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構 / JAEA

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

二次電池/ Secondary battery,XAFS, Cathode reaction, Metal complex compounds, MOF (metal-organic framework), LIB (lithium-ion battery), SIB (sodium ion battery)


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

吉川 浩史

所属名 / Affiliation

関西学院大学工学部 物質工学課程

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

若松勝洋,古野壮一郎

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

松村大樹

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-006:エネルギー分散型XAFS装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

世界のエネルギー問題、特に電気エネルギーの安定的な供給の実現の為には、大容量・高速動作・長寿命な二次電池の開発が必要不可欠である。二次電池では正極に関して多くの研究が行われており、様々な物質が検討・応用されている。本研究では、金属イオン-配位子間の結合由来の優れた導電性を有する二次元層状構造金属有機構造体(2D-MOF)に着目し、それらの電気化学特性評価を行った。具体的には、銅イオンと配位子原子X (X=窒素原子N, 酸素原子O, 硫黄原子S) からなるCu₃(HXTP)₂(X= O, N, S)を正極活物質として用いた、リチウムイオン電池およびナトリウムイオン電池の異なる電極作製条件における特性差異について調査した。また、これらの電極材料を応用したカルシウムイオン電池におけるXAFS分析を行い、これらの電極反応機構の調査も試みた。

実験 / Experimental

近年、地球規模での環境問題やエネルギー問題などから、新しいエネルギー材料の開発が急務となっている。中でも高性能な蓄電機能や電池特性を有する物質の開拓は、重要な研究課題の1つである。二次電池では正極に関して多くの研究が行われており、様々な物質が検討・応用されている。例として架橋有機配位子と金属イオンからなる空孔を有する金属有機構造体(MOF)などが注目されている。そのなかでも二次元層状構造金属有機構造体(2D-MOF)は金属イオン-配位子間の結合由来の優れた導電性を有している。本研究では銅イオンと配位子原子X (X=窒素原: N, 酸素原: O, 硫黄原: S) からなる2D-MOFであるCu₃(HXTP)₂(図1)を正極活物質として用いた際の、配位子原子のキャリアイオンとの相互作用の挙動および、異なる電極作製条件におけるリチウムイオン電池(LIB)、ナトリウムイオン電池(SIB)特性を調査する。また、BL14B1において、Cu₃(HOTP)₂正極電極を用いたカルシウムイオン電池(CIB)を作製し、ex situ XAFS分析を用いてこれらの電極反応機構解明を試みた。まず、本研究において対象としたCu₃(HXTP)₂の合成について述べる。出発物質としては2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HOTP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサイミノトリフェニレン(HNTP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサチオールトリフェニレン(HSTP)を用いた。ここでは、例としてCu₃(HOTP)₂の合成方法について述べる。ジメチルホルムアミドを含む蒸留水にHOTPを溶かした溶液と、硫酸銅(II)五水和物を蒸留水に溶かした溶液を混合し、80℃で加熱した。その後、固体を回収し洗浄すると暗青色の固体が得られた。この暗青色固体を真空乾燥しCu₃(HOTP)₂を得た。残りのCu₃(HNTP)₂とCu₃(HSTP)₂についても同様の方法に順じて作製した。 得られた2D-MOF、導電性カーボン、バインダー(PVDF/NMP or CMC/水)を3:6:1の割合で混合し、電極スラリーを作製した。このスラリーをAl箔上に塗布した電極を正極として用い、負極にリチウム金属またはナトリウム金属を用いたハーフセルを作製し、定電流充放電試験によって電池特性を評価した。ここで電解溶液は、LIBにおいてはLiPF6 in EC/DEC、SIBにおいてはNaClO4 in EC/PCを用いた。また、上記と同様の方法で作製したCu₃(HOTP)₂正極(PVDF/NMP)、カルシウムイオン含有電解溶液(Ca(BF4)2 in EC/PC= 1:1 (0.45mol/L))およびカーボンペレットをカウンター電極(トーカブラック:PAN=7:3)とするCIBを作製し、それらの放電前(OC)と放電後(1D)の電極を用いてBL14B1でex situ XAFS測定を実施した。標準試料としてはCuO, Cu2O, Cu foilを用いた。

結果と考察 / Results and Discussion

100サイクル後の容量保持率を考えると、それぞれの2D-MOFの放電容量はLIBでは40-50%程度、SIBでは30-40%程度保持されており、大きな違いは無かった。ここでは例として、図2に同一電極作製条件(CMC/水)におけるそれぞれの2D-MOFのLIBサイクル特性を示す。理論容量に対する放電容量の達成率を考えると初期容量、最大容量、100サイクル後の容量においてCu₃(HOTP)₂が比較的高い達成率を誇るということが分かった。また、これらの傾向はSIBやPVDFバインダーを用いた場合でも同様に見られた。したがってCu₃(HOTP)₂が最も優れた電池特性を有すると考えられる。これは構造の安定性やインピーダンス抵抗の大きさの違いに起因されると考えられる。次に、CIBにおけるCu₃(HOTP)₂のex-situ Cu K-edge XAFSスペクトルを図3に示す。ここで、1Dのデータに関しては、放電は完了しておらず40時間程放電させた電極に関して測定している。ピーク位置や大まかな形状からOCではCuは2価の状態に近く、1Dでは低エネルギー側へのシフトが観測され、放電後のCuは2価~1価の間の酸化状態であると推測される。今後は、種々の電気化学測定手法を用いてCu₃(HOTP)₂の電池特性や反応機構のより詳細な調査を引き続き行っていく予定である。また、充放電中の反応機構を詳しく調査するためにoperando XAFS測定を行う予定である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 Cu₃(HXTP)₂(X= O, N, S)の構造図



図2 Cu₃(HXTP)₂(X= O, N, S)のLIBサイクル特性(CMC/水)



図3 CIBにおけるCu₃(HOTP)₂のex-situ Cu K-edge XAFSスペクトル


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

なし


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Katsuhiro Wakamatsu, Electron Storage Performance of Hybrid Materials Comprising Polyoxometalates and Carbon Nanohorns as Cathode‐Active Materials, Batteries & Supercaps, 6, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1002/batt.202200385
  2. Katsuhiro Wakamatsu, Electron Storage Performance of Metal–Organic Frameworks Based on Tetrathiafulvalene–Tetrabenzoate as Cathode Active Materials in Lithium- and Sodium-Ion Batteries, ACS Applied Energy Materials, 6, 9124-9135(2023).
    DOI: https://doi.org/10.1021/acsaem.2c03537
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. K. Wakamatsu and H. Yoshikawa “Battery Performances of Hybrid Materials Comprising Polyoxometalates and Carbon Nanohorns as Cathode-Active Materials” The 7th Edition of Global Energy Meet (GEM-2023) March 2023.
  2. K. Wakamatsu, A. Sekihara, Y. Yamaguchi, D. Matsumura, and H. Yoshikawa,”Electron Storage Performances of Hybrid Materials Consisting of Polyoxometalates and Carbon Nanohorns”,8th Asian Conference on Coordination Chemistry (ACCC8), August 2022.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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