利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.26】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UE5334

利用課題名 / Title

磁気転移現象を示す遷移金属錯体微結晶の構造決定による、物性発現要因の探索

利用した実施機関 / Support Institute

電気通信大学 / UEC

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

分子磁性体、分子性導体、錯体,X線回折/ X-ray diffraction


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

榎本 真哉

所属名 / Affiliation

東京理科大学理学部第一部化学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

谷合亮祐,大井梨々花,赤田達陽

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

北田昇雄

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UE-005:HPC型単結晶X線回折装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

分子設計性に優れた有機分子と磁性発現や構造構築に寄与する遷移金属から成る遷移金属錯体は、各々単独では発現しないような、両者の特徴を活かした物性を発現させる化合物設計が可能である。しかしながらこれらは無機物に比べて結晶成長の方法が限られ、微小かつ壊れやすい結晶を形成することが多い。また有機物を含有することから軽元素の割合も大きく、この点でも単結晶構造解析の点では困難を抱える。現在電子物性の舞台として扱っている遷移金属錯体は、磁性、伝導性、誘電性、光学特性などの点で多様な物性を実現することができ、中にはそれらの性質が相互に作用しあう複合物性を示すものも存在するが、そういった電子物性の発現機構には結晶構造が深くかかわっており、どのような構造的変化が性質の変化をもたらしているのかを関連付けることは、予想した物性を発現させ、外部刺激に対して制御するための重要な基礎となる。本課題では、現在特に磁性の観点から取り組んでいる3d, 4f金属元素と有機分子を組み合わせた錯体や、伝導性と磁性の相関について調べるために実施している有機ラジカルイオンと3d遷移金属錯体によるラジカルイオン塩に関して、物性の裏付けとなる結晶構造を特定することを目的とする。

実験 / Experimental

 以下に示す2件の物質の合成を試み、磁性を中心とした物性測定と並行して、HPC型単結晶X線回折装置(XtaLab Synergy-R/DW/RF; UE-005)を用いて単結晶構造解析(SCXRD)を行った。(1) Fe中心に対してO, S原子を配させた複核錯体の磁性を観察する目的で、1,2-dithiosquaratoをFe2+に配位させた錯体を拡散法により合成し、単結晶を得た。この単結晶に対してSCXRDを行った。 (2) Fe3+イオン中心間を[NiII(dto)2] (dto = C2O2S2)で架橋したネットワーク構造に、大環状分子を挿入することで、内包空間を形成する配位高分子合成を試みた。大環状分子として1,8-diamino-3,6,10,13,16,19-hexaazabicyclo[6.6.6]eicosane (DiAmSar、図1)を使用し、拡散法により単結晶を得た。この単結晶に対してSCXRDを行った。

結果と考察 / Results and Discussion

(1)に関しては、得られた結晶の結晶性が悪く、有意な反射が得られなかったため、構造解析に至らなかった。(2)に関しては、生成条件によりブロック状黒色結晶 (1) と針状黒色結晶 (2) を得た。単結晶構造解析の結果、この両者はFe2+を中心金属イオンとしてDiAmSarが配位したカチオン性錯体に対して、[NiII(dto)2]ユニットが対アニオンとしてイオン性結晶を形成した錯体であることが判明した。12はDiAmSar中に取り込んだFe2+の濃度、ならびに[NiII(dto)2]の配列が異なることが明らかとなった。図2に示すように、1では独立な[NiII(dto)2]ユニット同士が平行に配列する一方、2では互いに垂直に配列することがわかった。いずれも隣接[NiII(dto)2]ユニットのNi2+イオン同士は十分に分離され、磁性源とはならないことが分かった。一方、DiAmSar中に取りこまれたFe3+の占有率が、1では52%、2では62%であることがわかり、電荷中性からずれた分はDiAmSarの一部の窒素がH+アクセプターとして作用することで補っていることが明らかとなった。両錯体の磁性はこの取り込んだFe3+の濃度よりもさらに小さい占有率を示唆する値を示し、DiAmSar中へのFe3+の取り込みにくさを示した。 今後の合成指針を策定する上で、DiAmSarへのFe3+イオンの挿入が課題となることを、構造の観点から示すことができたため、過剰量のFe3+とDiAmSarを反応させて100%配位させた状態の錯イオンを原料物質として錯体形成に用いるなどの工夫が必要である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


1 DiAmSar



図2 (a) 1ならびに (b) 2の結晶構造


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

なし


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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