利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22JI0010

利用課題名 / Title

地下水・堆積泥・土壌に含まれる天然有機物の分子組成解析

利用した実施機関 / Support Institute

北陸先端科学技術大学院大学 / JAIST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

FT-ICR MS,質量分析/Mass spectrometry


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

戸田 賀奈子

所属名 / Affiliation

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮里朗夫

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

JI-004:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本課題は、2021年度からの継続課題である。異なる試料採取地から得られた堆積泥や地下水に含まれる天然有機物に対して、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR MS)測定を実施し、分子化学組成的な特徴を理解することを目的としている。今年度は、より多くの試料を測定・解析に供した。本報告書は、堆積泥試料に着目して記載する。堆積泥に含まれる天然有機物は、浚渫された堆積泥をセメント系材料で改質し、建設材料として有効利用する上で材料の強度発現を阻害すると言われている。天然有機物に含まれる有機分子は、炭素に対する水素や酸素比によって、タンパク質、縮合芳香族類、リグニン、タンニン様などに分類できるが、強度発現を阻害する有機分子の詳細な特徴は未解明に留まっていた。今年度の成果より、セメント系材料で改質した際に強度発現が阻害される堆積泥試料には、リグニンやタンニン様の組成を持つ有機分子種が共通して多いことが示唆された。今後の研究にて、強度を阻害する有機分子の特徴の詳細が解明できれば、堆積泥を用いた建設材料の強度増加方法の提案につながり、廃棄されている浚渫された堆積泥の有効利用に貢献することが期待される。

実験 / Experimental

FT-ICR MS測定には、様々な堆積泥から得られた天然有機物のフルボ酸とフミン酸画分を測定対象とした。乾燥した堆積泥から、フルボ酸とフミン酸を抽出し、フルボ酸は精製のために固相抽出を行った。フミン酸は、透析ののちに凍結乾燥し得られた固体フミン酸を、0.1%アンモニア溶液に溶解した。その後、アンモニア溶液に溶解したフミン酸に対して水とメタノールの1:1混合溶液を加え、測定試料とした。試料は、北陸先端科学技術大学院大学のFT-ICR MS、SolariX-JAにて測定した。フルボ酸試料の濃度は0.01~0.1 mg/mLとし、測定条件はイオン源にESI を用いたネガティブモード、キャピラリー電圧を3000V、イオン溜め込み時間が0.5 秒間、m/z 範囲を200~2000、エレクトロスプレー流速を毎時0.4 mL、ネブライザガス圧力を0.8 bar、乾燥ガスフロー速度を毎分4 L、4M word、積算回数を300回とした。フミン酸試料の濃度は0.001 mg/mLとし、測定条件はイオン源にESIを用いたネガティブモード、キャピラリー電圧を3000V、イオン溜め込み時間が1秒間、m/z範囲を200~2000、エレクトロスプレー流速を毎時0.4 mL、ネブライザガス圧力を0.8 bar、乾燥ガスフロー速度を毎分4 L、4Mword、積算回数を300回とした。メタノールによる有機分子の自己エステル化を防ぐために、フルボ酸とフミン酸の試料の発送は冷蔵便で行い、さらにフミン酸の試料は測定直前にメタノール混合水溶液と混和した[1]。データ解析は、DataAnalysis(Bruker社製)を用い天然有機物に一般的に含まれる脂肪酸等を内部標準として校正し、検出するピークのS/N は6以上とし、化学組成のアサイメントを行う解析にはTRFu[2]を用いた。

結果と考察 / Results and Discussion

以上より得られた分子組成式のデータ群を、Van Krevelen図に示す。図1左は天然有機物に含まれる様々な有機分子のH、O、Cの元素比を元にしたそれぞれの図上における分布の参照を示す[3,4]。図1右のグレーのプロットは、測定対象とした全堆積泥のフルボ酸およびフミン酸中の有機分子組成式から得られたO/CおよびH/Cを示す。同様に、セメント系材料で改質しても強度発現が乏しかった堆積泥に共通して含まれる分子組成式をオレンジおよび赤で示す。以上より、オレンジや赤のプロットはリグニンやタンニン様の分子組成の分布と類似することが 明らかとなった。今後は、C、H、Oに限らず、SやNを含む元素組成的な特徴をさらに詳しく解析し、その特徴の全容を明らかにする予定である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1  Van Krevelen図の有機分子組成の帰属の分布(左)と、堆積泥に含まれる有機分子組成のvan Krevelen図(右)。測定対象とした全堆積泥のフルボ酸およびフミン酸の分子組成式(グレー●)と、セメント系材料で改質しても強度発現が乏しかった堆積泥に共通して含まれる分子組成式(オレンジ・赤●)を示す。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞本研究の一部は、日本製鉄の共同研究および科研費(18H01912)の助成を受けて実施されました。また、本研究は技術代行支援として北陸先端技術大学の宮里朗夫様にご協力いただきました。ここに感謝を示します。 参考文献[1]   C. McIntyre, C. McRae, Proposed guidelines for sample preparation and ESI-MS analysis of humic substances to avoid self-esterification, Org. Geochem. 36 (2005) 543–553. https://doi.org/10.1016/j.orggeochem.2004.11.002.[2]   Q.L. Fu, M. Fujii, T. Riedel, Development and comparison of formula assignment algorithms for ultrahigh-resolution mass spectra of natural organic matter, Anal. Chim. Acta. 1125 (2020) 247–257. https://doi.org/10.1016/j.aca.2020.05.048.[3]   K. Ikeya, R.L. Sleighter, P.G. Hatcher, A. Watanabe, Characterization of the chemical composition of soil humic acids using Fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometry, Geochim. Cosmochim. Acta. 153 (2015) 169–182. https://doi.org/10.1016/j.gca.2015.01.002.[4]   J. D’Andrilli, C.M. Foreman, A.G. Marshall, D.M. McKnight, Characterization of IHSS pony lake fulvic acid dissolved organic matter by electrospray ionization fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometry and fluorescence spectroscopy, Org. Geochem. 65 (2013) 19–28. https://doi.org/10.1016/j.orggeochem.2013.09.013. 


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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