利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22JI0006

利用課題名 / Title

近赤外光の自在活用を目指した新材料の開発とその評価

利用した実施機関 / Support Institute

北陸先端科学技術大学院大学 / JAIST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析, 近赤外分光, 紫外・可視分光,質量分析/Mass spectrometry,太陽電池,エネルギー貯蔵


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

古山 渓行

所属名 / Affiliation

国立大学法人金沢大学理工研究域物質化学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮里朗夫

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

JI-004:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 700 nmを超える波長の近赤外光は自然界のほとんどの物質と相互作用しないため、透過性が非常に高く、医療材料・光電変換材料への応用が期待される。我々は過去に、フタロシアニンケイ素錯体の軸配位子と周辺配位子を適切に制御することで、近赤外光特性と親水性を同時に制御できることを見出しており、細胞内光反応へ展開している。本研究では同様に軸配位子を持ち、高い発光効率を有することが知られるサブフタロシアニンに対し、同様のデザインを行うことで親水性と近赤外発光特性の両立が可能と考え、検討を行った。

実験 / Experimental

 既報に基づき周辺にフェニルチオ基を持つサブフタロシアニンを鋳型法で合成した後、アミノアルコール誘導体を反応させアミノ基を持つ軸配位子を中心ホウ素上に導入した。その後、過剰量のヨウ化メチルを作用させることでアミノ基を4級化し、カチオン性軸配位子を持つサブフタロシアニンを合成した。比較として、周辺置換基を有さないサブフタロシアニンも同様の手法で合成した。
 これらの化合物の構造決定は1H NMR、ジクロロメタン溶液における光吸収スペクトル、およびBruker Daltonics Inc. FT-ICR MS SolariXを用いた高分解能質量分析(イオン化法:MALDI)により行った。

結果と考察 / Results and Discussion

 本来、サブフタロシアニンは可視領域に吸収・発光を有する色素であるが、周辺に硫黄置換基を導入することで、700 nm付近の光を利用できるようになる。サブフタロシアニンの主な遷移は骨格のπ-π*遷移であり、軸配位子は骨格から垂直に位置するため、本来は軸配位子がサブフタロシアニンの吸収・発光特性に大きな影響を与えることはない。実際、周辺に置換基を持たないサブフタロシアニンにおいては、中性の軸配位子とカチオン性の軸配位子を持つ場合において、ほぼ同一の吸収・発光特性を示した。一方、硫黄置換基を周辺に有するサブフタロシアニンは軸のカチオン化によりジクロロメタン溶液の吸収・発光スペクトルにおいて10~20 nm程度の長波長シフトが見られた。また、カチオン化により親水性が向上することを極性溶媒に対する溶解性を比較することで評価した(図1)。さらに、本現象はジクロロメタン以外の溶媒を用いた場合にも観測することができ、カチオン化後の発光量子収率にも大きな変化が見られなかったことから、近赤外発光色素として様々な応用が期待できる。本現象は周辺の硫黄置換基とカチオン性の軸配位子の相乗効果によるものと考えられる。このうち、軸配位子の窒素が4級化されていることは、質量分析によりカウンターアニオンを除いた同位体パターンを持つピークが明快に得られたことにより証明できた。また、モデル化合物の理論計算および化合物薄膜のイオン化ポテンシャル測定などから、置換基効果を定量できた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 サブフタロシアニンの親水性溶媒に対する溶解性:(左)中性軸配位子、(右)カチオン性軸配位子


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

 質量分析の条件設定・解析において北陸先端科学技術大学院大学の宮里朗夫博士の支援を受けました。また、イオン化ポテンシャルの測定には金沢大学の中野正浩博士にご協力いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Yusaku Ogura, Cationic Axial Ligand Effects on Sulfur-Substituted Subphthalocyanines, Molecules, 27, 2766(2022).
    DOI: 10.3390/molecules27092766
  2. Takayuki Iwamoto, Rational design of functionalized near-infrared absorbing phthalocyanines by three-component coupling strategy, Journal of Porphyrins and Phthalocyanines, 27, 218-225(2023).
    DOI: 10.1142/S1088424622300063
  3. Taniyuki Furuyama, Development of controlled reactions using an element-based design of azaporphyrinoid materials, Journal of Porphyrins and Phthalocyanines, 26, 790-806(2022).
    DOI: 10.1142/S1088424622300014
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 古山渓行, "近赤外光反応制御を指向した有機材料の開発" 新潟大学コアステーション「ユビキタスグリーンケミカルエネルギー連携教育研究センター」第13回研究シンポジウム(新潟), 2023年3月14日
  2. Taniyuki Furuyama, "Development of Controlled Reactions Using Phthalocyanine-based Materials" 12th International Conference on Porphyrin and Phthalocyanines (ICPP-12) (Madrid, Spain), 2022年7月13日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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