利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.29】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23OS1023

利用課題名 / Title

バイオミネラルの結晶成長機構解明とその制御

利用した実施機関 / Support Institute

大阪大学 / Osaka Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

生体組織/ Living tissue, アパタイト系材料/ Apatite materials


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

丸山 美帆子

所属名 / Affiliation

大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信専攻丸山研究室

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

田中 勇太朗,道端 詩,小野 雄河,高橋 広登,辻野 一路,二宮 匡,臼井 帆七海,原田 美依那,吉村 日菜,藤井 優奈

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

岩城 文,和辻 祐規子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

OS-127:レーザーラマン顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

生物は体の中でバイオミネラル(骨、歯、尿路結石やその他石灰化組織など)を作る時、はじめに不安定な「準安定形」を作り、その準安定形は徐々に「安定形」へと相転移していく。 この相転移過程の制御が、体内での結晶化速度、バイオミネラルの複雑な構造につながっていく。本研究では、バイオミネラルにおける相転移メカニズムの解明を目指している。本年は、骨や歯、尿路結石に含まれるリン酸カルシウム系結晶、および尿路結石に含まれるシュウ酸カルシウム系結晶などを多角的に分析してきた。本報告では、その中で特にリン酸カルシウム系の結晶が、準安定形から安定形へと相転移する速度の見積りを実施した内容を詳しく報告する。
 動脈硬化や尿路結石など生体内石灰化の疾病は、その形成初期にリン酸カルシウムを伴う。そのため、リン酸カルシウム結晶の発達プロセス解明は重要な課題である。現在、石灰化プロセスとして、結晶化が容易な準安定相の第二リン酸カルシウム(DCPD)やリン酸八カルシウム(OCP)などを経由した安定相のアパタイト(Ap)への相転移が報告されている[1]。このプロセスは安定相が直接成長する場合と比べて素早く進行する可能性が高く[2]、急速に病状が悪化する原因になる。しかし、体内での相転移速度は明らかでないため、石灰化プロセス全体の速度も不明である。そこで本研究では、体内を模擬した環境でDCPDが相転移する様子を観察し、相転移速度を見積もった。

実験 / Experimental

pH 6付近に調製した、リン酸イオン、カルシウムイオンを各2 mM含む溶液にDCPD粉末を添加し、70℃、50℃、45℃の3条件にて攪拌しながら定期的にサンプリングした。サンプルを乾燥し、ラマン分光分析による結晶相同定、粉末X線回折法(PXRD)による結晶相同定、および走査型電子顕微鏡(SEM)よる表面形状の評価を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

 ラマン分光(図1)、PXRDによる分析、およびSEM(図2)による結晶形状の観察から、70℃では実験開始60分後にDCPD表面へのOCPの核形成を確認し、90分後には結晶形を保ったまま全体がOCPへ相転移したことを確認した。5日後にはHApへの相転移が完了し、結晶形もDCPDから大きく崩れた。以上より、70℃条件ではDCPD結晶表面にOCP微結晶が付着し、さらに結晶形を保った状態で内部のDCPDがOCPへと相転移し、最終的にOCPからApへ相転移することが分かった。50℃、45℃でも同様の実験を行い、近似式を用いて相転移時間を外挿することで、37℃ではDCPDからOCPへの相転移に約3日、OCPからApへの相転移に約24日必要と見積もった。 本研究では、体内を模擬した環境にてDCPDがOCPを経由しApへ相転移する様子を観察し、DCPD表面へのOCP微結晶の核形成により相転移が開始されることが分かった。また、相転移速度の温度依存性に基づいた外挿により、37℃では相転移に約1か月必要であると見積もった。生体内にはタンパク質等の成分が含まれており、これらが相転移速度に影響を与えると考えられる。本システムはタンパク質の効果を評価する系として応用できるため、今後は様々なタンパク質が相転移速度に及ぼす影響を評価したいと考えている。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 70℃におけるラマンスペクトルの変化.



図2.DCPD結晶の経時変化.(a-d)XRDスペクトル,(e-h)SEM像.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

[1] Eliaz N. et al., Materials, (2017). [2] Ivan VM., Crystal Growth for Beginners, (2003).
【謝辞】本研究の一部は、創発的研究支援事業(JPMJFR2241)、JSPS科研費(22H00302, 22H01971)、花王芸術・科学財団(花王 Crescent award)、UHA味覚糖の支援を受けて実施しています。ありがとうございました。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 丸山美帆子, 吉川洋史, 田中勇太朗, 吉村政志, 高野和文, 森勇介,"光で創る結晶、光で読み解く結晶 ", レーザー学会学術講演会第44回年次大会 2024年1月19日 一般社団法人 レーザー学会
  2. 道端詩, 丸山美帆子, 田中勇太朗, 吉村政志, 西村良浩, 植村真結, 塚本勝男, 田尻理恵, 吉川洋史, 高野和文, 岡田淳志, 郡健二郎, 安井孝周, 宇佐美茂佳, 今西正幸, 森勇介, "ヒト尿路結石を用いたシュウ酸カルシウム二水和物の結晶表面における溶解の観察", 第52回結晶成長国内会議(JCCG-52) 2023年12月4日 日本結晶成長学会
  3. 高橋広登, 田中勇太朗, 吉川洋史, 吉村政志, 高野和文, 宇佐美茂佳, 今西正幸, 森勇介, 丸山美帆子, "リン酸カルシウム結石形成プロセス解明に向けた結晶相転移の動的観察", 第52回結晶成長国内会議(JCCG-52) 2023年12月4日 日本結晶成長学会
  4. 吉村日奈, 丸山美帆子, 田中勇太朗, 平田あずみ, 田中俊一, 吉川洋史, 吉村政志, 森勇介, 高野和文, "シュウ酸カルシウム結晶成長におけるタンパク質構造状態の影響", 第52回結晶成長国内会議(JCCG-52) 2023年12月4日 日本結晶成長学会
  5. 田中勇太郎, 丸山美帆子, 岡田淳志, 古川善博, 門馬網一, 杉浦悠紀, 田尻理恵, 田中俊一, 高野和文, 塚本勝男, 吉村政志, 郡健二郎, 安井孝周, 森勇介, METEOR Project, "尿路結石の多重イメージング解析による結晶成長におけるタンパク質の機能解明 ", 第52回結晶成長国内会議(JCCG-52) 2023年12月4日 日本結晶成長学会
  6. Uta Michibata, Mihoko Maruyama, Masashi Yoshimura, Yutaro Tanaka, Koichi Momma, Rie Tajiri, Hiroshi Yoshikawa, Kazufumi Takano, Atsushi Okada, Takahiro Yasui, Kenjiro Kohri, Shigeyoshi Usami, Masashi Imanishi, Yusuke Mori, "Observation of phase transition of calcium oxalate in a human kidney stone for elucidation of the stone formation mechanism", International Conferrence on Crystal Growth and Epitaxy (ICCGE20) 2023年8月1日
  7. Mihoko Maruyama, Shota Kusumi, Uta Michibata, Yutaro Tanaka, Koichi Momma, Yoshihiro Furukawa, Rie Tajiri, Katsuo Tsukamoto, Hiroshi Y. Yoshikawa, Kazufumi Takano, Kenjiro Kohri, Atsushi Okada, Takahiro Yasui, Shigeyoshi Usami, MayukiImanishi, Masashi Yoshimura, Yusuke Mori, "Dynamic observation of polymorphic phase transition of calcium oxalate crystals; A novel system to elucidate the process and kinetics of urinary stones formation", International Conferrence on Crystal Growth and Epitaxy (ICCGE20) 2023年8月1日 (Invited)
  8. Mihoko Maruyama, Uta Michibata, Yutaro Tanaka, Hiroshi Yoshikawa, Kazufumi Takano, Rie Tajiri, Kazumi Taguchi, Shuzo Hamamoto, Atsushi Okada, Takahiro Yasui, Shigeyoshi Usami, Masayuki Imanishi, Masashi Yoshimura, Yusuke Mori, "Validating the theory of phase transition from calcium oxalate dihydrate to monohydrate in the stone formation: the first artificial in vivo experiment", The 2023 AUA Annual Meeting 2023年4月28日 American Uroligical Association (AUA) Corporate Offices
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:1件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る