利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.07.31】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22AE0024

利用課題名 / Title

光誘起強磁性と強誘電性の光応答性を示す銅-オクタシアノモリブデン錯体薄膜の構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

XAFS,シアノ錯体,モリブデン,銅


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

大越 慎一

所属名 / Affiliation

東京大学大学院理学系研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

池田侑典

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

辻 卓也,松村大樹

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-006:エネルギー分散型XAFS装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

近年、いくつかの無機材料に見られるような多様な電気磁気物性を示す分子性物質が、その構成元素による環境負荷の少なさや材料の軽さから注目を集めている。その中でも特に、遷移金属イオン間をシアノ基が架橋した構造を持ったシアノ架橋型金属錯体は、新奇な光物性や電気物性を備えうる分子磁性体として、精力的に研究されてきた。このシアノ架橋型金属錯体の一種である銅-オクタシアノモリブデン錯体は、光応答性を有している上に、光誘起強磁性と強誘電性が報告されていることから、本錯体について新たな測定手法によりその構造や電子状態を詳細に決定することは、物性の光制御研究において待望されている光誘起強誘電-強磁性体の発見の糸口になると考えられる。本研究では、X線吸収分光(X-ray absorption fine structure, XAFS)法により、銅-オクタシアノモリブデン錯体の銅およびモリブデン元素周りの局所構造や平均価数を精密に決定することを目的とし、それら結果を物性と繋いで解釈することで、最終的にはこの銅-オクタシアノモリブデン錯体を基に光誘起強誘電-強磁性現象を実現することを見据えている。

実験 / Experimental

XAFS測定はすべて、大型放射光施設(SPring-8)内量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL14B1にて行なった。XAFS測定システムは日本原子力研究開発機構が管理している装置を用いた。測定試料はCu2[Mo(CN)8]·8H2O薄膜を用いた。薄膜試料はフィルムで密封した後、ヘリウム循環式クライオに据付、室温から20 Kの範囲で試料温度を制御した。XAFSスペクトルはSi(111)二結晶分光器によって単色化されたX線を用いた。二枚のロジウムコートミラーを用いて高調波をカットした。XAFSスペクトルは蛍光法によって測定した。蛍光X線の検出には、36素子Ge半導体検出器を用いた。XAFSスペクトルはCu K吸収端にて測定した。また、波長473 nmのCWレーザーを試料に当てることができる配置に設置し、光照射時のXAFSスペクトル観察を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

図1に、Cu2[Mo(CN)8]·8H2O薄膜に対する、レーザー照射中のCu K吸収端XAFSスペクトル変化を示す。測定温度は20 Kである。レーザー照射前では8981 eV付近に見られるピークは小さいが、レーザー照射に伴い吸収強度が増大していることが見て取れる。これは、20 Kにてレーザーを照射することにより、Cuの価数がCu2+からCu+へと変化したことに由来するものと解釈できる。このように、レーザー照射によるCuの価数変化をXAFS測定によって追跡することに成功した。このレーザー励起されたCu+状態は、レーザーを切ってもその状態を維持していることを確認した。温度を上昇させることで、Cuの価数が変化していくことも観測され、温度変化に関する詳細なデータを取得した。XAFS測定はEXAFS領域までのスペクトルを測定しているので、今後局所構造解析を実施する予定である。それにより、レーザー誘起状態の詳細な局所構造や価数の決定を行う予定である。温度変化がもたらす複雑なCu状態変化についても確固たる構造及び平均価数情報を抽出する予定である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. Cu2[Mo(CN)8]·8H2O薄膜に対して20 Kでレーザーを照射させた際のCu K-edge XAFSスペクトル変化。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 池田侑典、博士論文(東京大学、2023年)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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