【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.08】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22AE0020
利用課題名 / Title
金属錯体化合物を正極とする高性能二次電池のXAFSによる反応機構解明
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
金属有機構造体,X線吸収分光,二次電池/ Secondary battery
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
吉川 浩史
所属名 / Affiliation
関西学院大学大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
若松勝洋,山口慶彦 ,古野壮一郎
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
松村大樹
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年、地球規模での環境問題やエネルギー問題などから、新しいエネルギー材料の開発が急務となっている。これまでに我々のグループでは、高性能な二次電池の実現を目指して、テトラチアフルバレン(TTF)系材料を正極とするLi電池を開発してきた。特に、我々は次世代二次電池の正極材料として電気伝導性と構造安定性に優れた酸化還元活性配位子としてH4TTFTBを正極活物質とする電池に着目してきた。また、金属有機構造体(MOF)およびその複合体は、その大きな細孔容積と表面積から、触媒、センシング技術、分子吸着・分離、電気伝導などの分野で広く研究されている。特に、酸化還元活性を有する有機配位子を有するMOFは、二次電池の電気活性材料として大きな注目を集めている。我々は、H4TTFTBをMOF材料として利用する研究を行っている。本研究では、特にH4TTFTB系MOFで同じ構造を持つZn2(TTFTB), Co2(TTFTB), Mn2(TTFTB)に着目し、X線吸収微細構造(XAFS)分析によって、二次電池の反応機構解明を詳細に行うことを目的とする実験を行った。その結果、Zn2(TTFTB), Co2(TTFTB), Mn2(TTFTB)を正極活物質とするリチウム電池において、コアメタルであるZn, Co, Mnが充放電で酸化還元活性を示さない事を明らかにした。
実験 / Experimental
本研究において対象としたZn2(TTFTB),
Mn2(TTFTB)の合成について述べる。前駆体であるテトラチアフルバレンテトラ安息香・1.5CH3OH
(H4TTFTB)は、文献から以前に報告された合成方法を変更することによって調製した。Zn(NO3)2・6H2O
(289.3 mg, 0.97 mmol)を水:エタノール =
1:1 溶液
(30 mL) に溶かした。H
4 TTFTB (183.3 mg, 0.27 mmol ) を100 mL バイアル中の
DMF:エタノール =
3:1 溶液 (30 mL) に溶解した。これらを混合した溶液を75℃で72時間加熱して、暗褐色の粉末(185.8 mg、0.831 mmol)を形成した。最後に結晶を吸引ろ過により集め、DMF(20mL)、エタノール(20mL)で順次洗浄し、Zn2(TTFTB)を暗褐色固体として得た。Mn(NO3)2・6H2O
(374.0 mg, 1.30 mmol)を水:エタノール =
1:1 溶液 (40 mL) に溶かした。H4TTFTB
(248.8 mg, 0.36 mmol) を100
mL バイアル中の
DMF:エタノール =
3:1 溶液 (40 mL) に溶解した。これらを混合した溶液を75℃で72時間加熱して、暗褐色の粉末(241.5 mg,
0.243 mmol)を形成した。最後に結晶を吸引ろ過により集め、DMF(20mL)、エタノール(20mL)で順次洗浄し、Mn2(TTFTB)を暗褐色固体として得た。
上記手法で合成したZn2(TTFTB)及びMn2(TTFTB)(図1)を正極活物質として、重量比率が活物質:導電性炭素:バインダー= 3:6:1となるように電極ペーストを作製し、Al箔集電体に塗工することで、薄膜電極を作製した。これを正極、Liを負極とするハーフセルを作製し、その正極特性を検討した。なお、HJ102mSD8 (北斗電工) を使用し、電圧範囲は4.2–1.5 V、電流密度は100 mA/g、室温 (約25℃)として、定電流法で充放電測定を行った。
最後に、電池反応機構を解明するために、上述の電池を充放電し、充電後及び放電後に電池セルから取り出した正極について、透過法ex-situ Zn及びMn
K-edge XAFSの測定を実施した。その際には電極ペーストではなく電極ペレットを使用した。Zn2(TTFTB) またはMn2(TTFTB)、トーカブラック#5500、CMCの重量比は3:6:1になるように作製した。電解質は1.0M LiPF6 (EC:DEC = 1:1)を使用し、リチウム箔をアノードとして持つCR2032コイン型電池からペレットカソードを取り出した。測定はBL14B1にて実施した。なお、正極は直径14 mmで、正極中のZn濃度は3.8wt%、Mn濃度は3.3wt%(正極の全重量は約50 mg)である。得られたXAFSスペクトル中、XANESから金属イオンの価数を解析し、充放電過程における電子状態および構造変化について検討した。
結果と考察 / Results and Discussion
再充電可能なLIB正極活物質として、Znおよび Mn コア金属を含むH4TTFTBに基づく MOFの電池性能を評価した。また、H4TTFTBの電池性能を、制御実験で再充電可能なLIBの正極活物質として評価した。Zn2(TTFTB)とMn2
(TTFTB)の電流密度100
mA/gでの充放電曲線をそれぞれ図2(a)(b)に示す。ここでは、TTF が最初に中性状態で酸化すると予想されるため、充電プロセスから始めた。すべての材料の初期充電/放電曲線で、3.0~3.5 V の間に単一のプラトーが観察された。H4TTFTBでも同様のプラトーが観察されるので、これらのプラトーはTTFレドックスによって誘導されると考えられる。また、H4TTFTBのみが初期放電曲線において2.0V付近で緩やかなプラトーを示すが、これは配位していないカルボキシル基によって引き起こされた可能性がある。上記の充放電特性について、反応機構解明を行うために、透過法ex-situ Zn及びMn
K-edge XAFSの測定を実施した。初期、1回目充電 (1C, 4.2 V)、1回目放電 (1D, 1.5
V)、および2 回目充電 (2C, 4.2 V) 後の電極サンプルのスペクトルを測定した。なお、ZnO, MnO, Mn2O3, MnO2,
Zn2(TTFTB)及びMn2(TTFTB) 粉末を窒化ホウ素で希釈したものを標準物質として使用した。Zn2(TTFTB)及びMn2(TTFTB)に関するex
situ Zn及びMn K-edge XANESスペクトル結果を図3に示す。Zn2(TTFTB)、Mn2(TTFTB)ともに充放電過程でのスペクトル変化、すなわち吸収端シフトはほとんど示唆されなかった。 これは、コアメタルの酸化還元がほとんど起こっていないことを示している。
以上より、TTF系のMOFであるZn2(TTFTB)及びMn2(TTFTB)を正極活物質とするリチウム電池の電池特性と反応機構について本研究では検討した。
今後は、より詳細な反応機構解明のためのアプローチを行う予定である。また、H4TTFTBと他のコアメタルとのMOFの電池特性や反応機構の検討なども引き続き行っていく予定である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1:M2(TTFTB), M = Zn, and Mn
図 2:(a) Zn2(TTFTB) (b) Mn2(TTFTB)の充放電曲線
図3:(a)Zn2(TTFTB), (b)Mn2(TTFTB)のex-situ Zn及びMn K-edge XAFSスペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
共同研究者 松村大樹(原子力科学研究部門・物質科学研究センター・研究主幹)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
-
Takeshi Shimizu, Application of Porous Coordination Polymer Containing Aromatic Azo Linkers as Cathode-Active Materials in Sodium-Ion Batteries, ACS Applied Energy Materials, 5, 5191-5198(2022).
DOI: https://doi.org/10.1021/acsaem.2c00537
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件