【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.29】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23OS0021
利用課題名 / Title
半導体デバイス中の不可視欠陥の可視化
利用した実施機関 / Support Institute
大阪大学 / Osaka Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
化合物半導体、表面界面,電子顕微鏡/ Electronic microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
朝山 匡一郎
所属名 / Affiliation
日本電子㈱
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
佐藤和久
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術相談/Technical Consultation
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
目的:炭化ケイ素(SiC)はSiよりバンドギャップが大きく絶縁耐圧が大きい他、高温に対する耐性、高いキャリア移動度等によりパワー半導体材料として実用化が進んでいる。しかしながらSiパワー半導体に比べて使用実績が少なく、信頼性メカニズムについても明らかでない部分が多い。特に市場信頼性は、今後SiCパワー半導体の出荷数量や適用分野の拡大につれて問題が生じる恐れもある。半導体デバイスは初期不良と言われる「Aモード」、摩耗性故障の「Cモード」の他に選別時に落としきれない「Bモード」不良が含まれている。これが市場に流出すると製品事故に結びつく為、対策としてMOSトランジスタに高温または低温下で定格以上の電圧を加えるストレス試験(スクリーニング試験)を行い、「Bモード」不良品を市場に流通させない方法が取られている。SiCパワートランジスタはMOSの基本特性に影響するゲート絶縁膜を作製する際、SiC基板を直接酸化するとSiC表面にCが残留し、これが界面準位や固定電荷等になりMOSのVthバラツキなど不安定性の原因になる。この為、ゲート絶縁膜形成後に一酸化窒素(NO)、または窒素雰囲気中の高温アニールによって、ゲート絶縁膜/SiC基板界面に窒素をドープし残留Cを電気的に不活性化することによって界面を安定化させている1)。ところがこの窒素の分布や濃度によっては副作用があり、ゲート酸化膜中で窒素が「ホールトラップ」となりゲート絶縁膜中のチャージが増大することによってVth変動が大きくなる。界面から数nm付近の窒素量や分布が、この不安定性に影響を与えるモデル2)が有力視されているが物理解析的には証明されていない。 今般、市販のSiCパワートランジスタのゲート絶縁膜/SiC基板の界面に分布する窒素をTEM-EELSと多変量解析によって可視化が可能かどうか検討した。
実験 / Experimental
試料は市販のSiCパワー半導体で最大定格電圧:1,200V、最大定格電流:40A。実験方法:SiCパワートランジスタのゲート部分をFIBで断面TEM試料を作製し、STEM-EELSで基板界面からゲート絶縁膜中とSiC基板中にそれぞれ20nmまでを分析した。試料膜厚は約100nmとした。分析点数は界面に平行方向に600点、スペクトルの上下間隔は0.57nm。測定時間は約1時間だった(図.1)。取得したスペクトルは横方向に一列ずつ積算し、「ベイズ推定」を用いてノイズとダークリファレンス3)を除去した。得られたノイズ除去済みのスペクトルを多変量解析の一種である非負値行列分解(NMF)を用いて各成分要素の分解し、この中から窒素の成分を抽出、位置情報と合わせることで界面上下方向の窒素分布のプロファイルを決定した。 ポアッソンノイズ、またはガウス分布するノイズが含まれている事を前提とした「βNMF」を用いて積算スペクトルを直接分解する方法と比較し、ベイズ推定によるノイズ除去効果も確認した。
結果と考察 / Results and Discussion
図.2に基板界面における窒素分布の様子を示す。窒素はゲート絶縁膜界面からSiO2中に2.9nm、SiC基板中へは2.8nmまでの範囲で存在が確認された。ゲート絶縁膜中で2~3nm付近に分布する窒素はホールトラップを作りやすい事が報告されている4)。ゲートに掛かった負電圧によりゲート絶縁膜直下のchannelまたはwell側からホールが供給されることによってゲート絶縁膜がチャージアップし、Vthの変動が起きやすくなる。スクリーニング時に十分なゲート電圧が掛けられないと、ゲート絶縁膜に含まれる欠陥等を原因とする後発性のゲート破壊不良(Bモード不良)を除去しきれずに市場に流通する可能性が高まる。 測定に用いたSiCパワートランジスタは他のメーカーと比べて「Bモード」不良が多いことが確認されている5)。原因は窒素アニールの温度が他社品では1,150℃の所が1,250℃と高い為に窒素の拡散量が多いと推定されている。ベイズ推定によるノイズ除去効果を図.3に示す。600点分を積算したスペクトルをポアッソンノイズが含まれている事を仮定したβNMFで直接スペクトル分解するよりも、予め含まれるノイズをベイズ推定によって除去したスペクトルをNMFで分解した方がS/N比の高い結果が得られた。これよりベイズ推定によるノイズ除去とダークリファレンスの除去は微弱なスペクトル信号を顕在化する手法として有効なことが分かった。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図.1 SiC基板とゲート絶縁膜(SiO2)界面のSTEM-EELS測定ヶ所
図.2 SiC基板とゲート絶縁膜(SiO2)界面の窒素分布
図.3 窒素スペクトルのベイズ推定によるノイズ除去効果
(a)
ベイズ推定によりスペクトルノイズとdark referenceを除去後にNMF分解して得られた窒素のEELSスペクトル
(b) 積算スペクトルをβNMF分解して得られた窒素のEELSスペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
謝辞:本研究は大阪大学ARIM微細構造解析プラットフォームを利用し、大阪大学超高圧電子顕微鏡センターのARM-200F分析電子顕微鏡を使用して実施されました。参考文献1) S.Dhar, Y.W.Song, L.C.Feldman, T.I.Smith, C.C.Tin, J.R.Williams, G.Chung, T.Nishimura, D.Starodub, T.Gustafsson, E.Garfunkel, “Effect of nitric oxide annealing on the interface trap density near the conduction bandedge on 4H-SiC at the oxide/(1120) 4H interface, Appl.Phys.Lett, 84, 1498-1500,(2004)2) J.Rozen, S.Dhar, M.E.Zvanut, J.R.Williams and L.C.Feldman, “Density of Interface states, electron traps, and hole traps as a function of the nitrogen density in SiO2 on SiC”, J.Appl.Phys.,105, 124506(2009)3) M.Haruta, Y.Fujiyoshi, T.Nemoto, A.Ishizuka, K.Ishizuka and H.Kurata, “Extremely low count detection for EELS spectrum imaging by reducing CCD read-out noise”, Ultramicroscopy, 207,(2019), 1128274) Phillippe Jamet, Sima Dimitriiev, and Phillp Tanner:”Effects of nitridation in gate oxides grown on 4H-SiC” Journal. App. Phys., 90, 15 November (2001) E.Murakami, T.Takeshita, K.Oda, M.Kobayashi, K.Asayama and M.Okamoto, ”Classification of Commercial SiC-MOSFETs Based on Time-Dependent Gate-current Characteristics”, IRPS2023 Proceedings.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件