【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.12】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23OS0005
利用課題名 / Title
パルスめっきによるマグネシウム電池用Biアノードの構造解析と充放電特性
利用した実施機関 / Support Institute
大阪大学 / Osaka Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
合金系機能性材料,二次電池/ Secondary battery,電極材料/ Electrode material,電子顕微鏡/ Electronic microscope,エネルギー貯蔵/ Energy storage,コンポジット材料/ Composite material
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
齊藤 丈靖
所属名 / Affiliation
大阪公立大学 工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
岡田 和寛,松本 周
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
OS-003:200kV原子分解能走査透過分析電子顕微鏡
OS-005:複合ビーム3次元加工・観察装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
高理論容量(Mg: 2203 mAh/g)、高い安全性、豊富な資源の観点で、Mgイオン二次電池はLiイオン二次電池に代わる次世代電池候補の一つである1,2)。しかし、電極材や電解液の研究例は少なく、既存の電解液に適した負極材の報告例も少ない。金属Mgは一般的な負極材であるが、電解液中で表面が不動態化し、サイクル劣化が早いため3)、新規負極材の開発が求められる。ビスマス(Bi)負極は、合金系負極材料の一種である。式(1)より、電解液中のMg2+イオンがBi負極と合金化することで放電し、反対に脱合金化することで充電を行う。
2Bi + 3Mg2+ + 6e- ↔ Bi2Mg3
(1)
Bi負極は高い理論容量(386 mAh/g)を示し、電解液中で不動態化しにくいと報告されている4)。また、多孔質化や微細化により容量およびサイクル特性が向上する報告もある5)。本研究では、粒径の異なるBi薄膜を電析法により作製した。その後、充放電試験により、サイクル特性を調べた。さらに、充放電前後および途中段階でのBi薄膜の断面観察、結晶構造評価、組成分析を行い、充放電サイクルによる電極構造の変化を調べた。
実験 / Experimental
実験1 パルス電析によるBi薄膜の作製
硫酸浴300 mLを作製し、5 mol/L H2SO4で各浴のpHを1.2に調整した(表1)。3×3 cm2のCu箔を基板とし、前処理として水酸化ナトリウムおよび硫酸で脱脂、酸化皮膜除去を行った。基板を貼り付けたCu板をカソード、炭素板をアノードとしてパルス電析を行った(図1)。定電流を印加する時間をton、オフ時間をtoffとして、周期τ (= ton + toff)とデューティー比θ (= ton /(ton
+ toff))は、τ = 4
s, θ = 0.25 ~ 1.0にした。浴温: 25℃、電流密度: 50 mA/cm2、電析面積: 2×2 cm2とした。膜厚は1.0~1.5 µmになるように、電析時間を調整した。
実験2 構造評価
充放電前後および途中段階でのBi薄膜について、X線回折(XRD)で結晶構造、X線光電子分光法(XPS)で結合状態、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で元素分布を評価した。また、集束イオンビーム (FIB)で得たBi薄片を透過電子顕微鏡 (TEM)により観察、組成分析した。
実験3 充放電試験実験
作製したBi薄膜を直径16 mmの円板にしたものを作用極、マグネシウム板を対極とし、図2に示す二極式セルで評価した。電解液は200 μLの0.4 M APC溶液(2PhMgCl-AlCl3
/ THF)を用いた。電位領域を0.001 V ~ 0.5 V、電流密度は50
mA/gとしてサイクル試験を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
結果と考察1 電析したBi薄膜の元素組成結果と考察
XPS(図3(a))およびTOF-SIMS(図3(b))による元素分析より、作製したBi薄膜は主にBi,
Na, O,Sを含んでいる。図3(b)より、Biは膜中で均一に分布しているのに対して、電析浴由来の不純物であるNa, O, Sは膜表面から膜内部にかけて減少していることがわかる。図3(a)は薄膜表面近傍での各元素の割合であるが、60秒のスパッタ処理後のBiの割合は81at%に達しており、膜内ではBiの割合が大きいと推測される。また、60秒スパッタ処理後のXPS(図3(c))から、Biは薄膜内にてBi,
Bi2O3, Bi2S3で存在していると考えられる。
結果と考察2 充放電によるBi負極の結晶性変化(XRD)
充放電前、充放電後(10サイクル目放電後、10サイクル後、50サイクル後)のBi負極のXRDを図4に示す。いずれの試料においても基板のCuとBi由来のピークが確認された。10サイクル目に292 mAh/g(理論容量の75.6%)を放電した後の負極(c)は、充放電前(d)と比べ、メインピークであるBi(012)の強度が35.3%残っていた。他のBi結晶面についてもピークが見られ、放電後も未反応のBi結晶が膜中に残存していることが確認された。これより、充放電によるBiの反応率を構造制御などで改善することで、放電容量を理論容量に近づけることができると推測される。
また、10サイクル目放電後のBi負極(c)では、元のBi結晶のピーク(d)と比較して非常に小さいBi2Mg3由来のピークが確認された。放電に伴い膜中で合金化したBi2Mg3は、その大半が微結晶または非晶質で存在することが示唆された。
結果と考察3 充放電によるBi負極の結晶性変化(SAD)
充放電前、充放電後(10サイクル目放電後、10サイクル後、50サイクル後)のBi負極について、断面のTEM観察により直径1 µmの絞りで制限視野回折(図5)を得た。制限視野回折(SAD)から、(a)はBiの結晶構造に由来する輝点のみがみられた。(b)においては、Bi2Mg3結晶の明瞭な回折パターンは確認できず、Bi結晶の回折に対応するリングとリング周囲のハローが見られた。このことから、Biが微細化(多結晶化)しており、反応生成物であるBi2Mg3も主に微結晶または非晶質として膜中に存在すると考えられる。これは、XRD結果と一致する。10サイクル後((a)→(c))では、輝点の一部が多結晶を示すリングに変化しており、図9に見られるような充放電サイクル試験における初期サイクルでの容量増加の原因は、結晶粒の微細化による粒界の増加がMg2+イオンの拡散を促進したと推測される。50サイクル後((d))では、多結晶化がさらに進み、リングが緻密な輝点群となるともにリング周囲にハローが現れ、非晶質化が示唆される。
XRD、SADの結果より、充放電サイクル中で、Bi結晶がBi2Mg3へと合金化する際に微結晶化または非晶質化し、再びBiへと脱合金化される際に、Bi結晶粒の微細化が進行するのではないかと考えられる。
結果と考察4 充放電によるBi負極の元素組成変化
充放電サイクルにおける10サイクル後、50サイクル後のBi負極の断面において、元素マッピングを行った。図6より、10サイクル後→50サイクル後において、MgとOを含む黄色の領域が増大した。このとき、各視野での元素比(at%)は、Bi : Mg: O = 66 : 3 : 31
→ 34 : 26: 40と変化しており、充放電サイクルの進行に伴って副反応によりMg, Oを含む物質が析出したと推察される。図7に示す50サイクル後のBi負極のMg2pXPSスペクトルから、析出物はMgOであると考えられる。
結果と考察5 構造制御したBi負極の断面形態と粒径分布
パルス電析時のデューティー比(θ)の変更により、粒径が異なるBi薄膜を作製した。断面TEM像(図8)より、結晶粒は粒界がはっきり確認でき、面積平均により平均粒径を計算した。θ = 1.0, 0.75, 0.5, 0.25について、それぞれ平均粒径は185±53, 281±126, 404±179, 643±238 nmとなった。
結果と考察6 粒径制御したBi負極のサイクル特性
粒径制御した4つのBi負極について、50 mA/gの定電流でサイクル試験(50回)を行った。図9(a)より、全ての条件において、初期サイクルにて容量の上昇がみられ、その後サイクルを重ねるにつれて容量は低下した。各条件での最大容量、50サイクル後の容量を表2に示す。最大容量は粒径の小さいBi負極ほど高く、θ =
1.0の条件で作製した粒径185 nmのBi負極は最大容量318 mAh/g(理論容量の82.3%)を示した。50サイクル後容量においても、粒径の小さいθ =
1.0, 0.75で作製したBi負極は293 mAh/g(理論容量の75.9%)を維持した。
粒径の小さいBi負極は粒界密度が大きく、Mg2+イオンの粒界拡散に有利であるため、未反応のBiが膜中に残存しにくく、高容量であったと考えられる。
結果と考察7 充放電によるサイクル劣化とその原因
図9(b)は、θ = 1.0の条件で作製したBi負極のサイクル試験における1, 10, 50サイクル目の充放電曲線である。50サイクル目では10サイクル目に比べて容量低下とともに、過電圧が増大している。3.4で述べたMgO層がMg2+イオン拡散の抵抗となり、内部抵抗が増大したためと考えられる。
また、TEMの断面観察から、充放電に伴うBi負極の合金化・脱合金化時の体積膨張、収縮による膜厚増大(1 µm→約9
µm)および、ボイドの形成が見られた。これらは、電極への電解質の浸透や反応界面積の増加に寄与する一方で、Bi結晶粒の電極からの剥離の原因となり容量低下を引き起こした可能性がある。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
表1 Bi電析の浴組成
図1 電析装置の概略図
図2 二極式セルの概略図
図3 (a) Bi薄膜表面付近の元素割合 (b) TOF-SIMSによるBi薄膜の深さ方向分析
図4 充放電の各段階におけるBi負極
図5 充放電の各段階におけるBi薄膜断面
図6 充放電10サイクル後(上)および50サイクル後(下)のBi薄膜断面TEM像とEDXマッピング(青 Bi赤Mg緑 O)
図7 50サイクル後のBi負極のMg2pXPS
図8 異なるデューティー比(θ)で作製したBi負極の断面TEM像と粒径分布
図9 (a) 異なるデューティー比(θ)で作製したBi負極のサイクル特性 (b) θ = 1.0の条件で作製したBi負極の充放電曲線
表2 デューティー比(θ)別の最大容量と50サイクル後容量
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
1) C. You et al., J. Mater. Chem. A., Isuue 48 (2020)
2) D. Li et al., J. Magnes. Alloy., Vol. 8, Issue 4 (2020)
3)
F. Liu et al., J. Magnes. Alloy., Vol. 10, Issue 10 (2022)
4) M. Song et al., Molecules, Vol.
27, Issue 22 (2022)
5) J. Niu et
al., Energy Stor. Mater., 14,
351-360 (2018)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 松本 周,岡本 尚樹,齊藤 丈靖,“パルス電析によるBi負極材の構造制御と充放電 特性”,化学工学会第54回秋季大会(福岡),令和5年 9月11日
- 岡田 和寛,岡本 尚樹,齊藤 丈靖,“パルス電析法を用いたマグネシウム二次電池 用Bi-Sn 負極材の評価”,化学工学会第54回秋季大会(福岡),令和5年 9月11日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件