利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.08】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22AE0012

利用課題名 / Title

窒化TiO2生成の素過程解明に向けたリアルタイム光電子分光

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

窒化物,TiO2,チタニア,素過程,X線光電子分光,ドーピング


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

阿部 真之

所属名 / Affiliation

大阪大学大学院基礎工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

大野 真也,勝部 大樹,稲見 栄一,金 庚民,秋山 舜,中野 脩己,佐藤 楓馬

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

吉越 章隆

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-001:表面化学実験ステーション


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

二酸化チタン(TiO2)は光触媒の材料や色素増感太陽電池の電極材料など幅広い応用が期待される重要な物質である。さらに、近年、アナターゼ型TiO2表面において、二次元電子ガス状態が発見・報告されており、電子デバイス応用の観点からも注目されている。TiO2を光触媒として利用する場合、紫外光(波長400nm以下)が必要となる。日光には紫外線が含まれているので、屋外での利用では、実用上の問題はないが、室内(蛍光ランプや照明器具)での利用には、可視光応答の光触媒が重要であり、それは、例えば窒素を光触媒にドープすることで実現可能であることが明らかにされている。窒素を固体材料へドープするには、ガス元素イオンの打込みとアニールを組み合わせた処理、ガス雰囲気下における超高温での焼成、薄膜等の合成中のプラズマ反応の付加、などの強力な運動エネルギー、熱エネルギー、イオン化エネルギー、化学エネルギーを用いた制御が必要である。これらのプロセスには酸化物材料の利用にとって致命的な酸素欠損というプロセスダメージを引き起こす可能性があるとともに、プロセスコストや時間を要する場合もあり、決して実用的な手法とは言えない。 
近年、我々のグループではNO分子線をTiO2表面に照射した場合、窒素をTiO2にドープできていることを、BL23SU(表面化学実験ステーション)に常設しているX線光電子分光装置を用いて発見した。これは、超熱状態の分子線を使った熱反応に依らない新たな元素ドープ方法の開拓であり、通常、多くの酸化物がn型であることに対する、p型伝導特性の付与を可能とするものである。材料表面プロセスの基礎研究としての重要性ばかりでなく、他の多くの酸化物材料に対する伝導性の制御と機能化処理の研究、それらのpn接合を利用した発光・受光デバイスなどの新たな応用研究の可能性を秘めるものである。  
以上を踏まえて本研究では、これまで実用化に向けてネックであった、TiO2の窒化に関して、プロセス面における問題を解決することを目指すために、その素過程解明を目的とした放射光リアルタイム光電子分光分析を行った。具体的には、BL23SU(表面化学実験ステーション)に常設している放射光光電子分光を用いて、アナターゼ型TiO2表面における欠陥や吸着種の定量化や反応のダイナミクスを解明するとともに、価電子帯スペクトルを得る。NO分子の吸着状態やNO分子線の並進エネルギーによる表面状態の違いと表面電子物性との関係を明らかにすることを目的とした。

実験 / Experimental

測定試料として、ルチル型TiO2(110)、PLD法により作製されたアナターゼ型TiO2(001)薄膜(成膜条件により欠陥密度等を制御する)を用いた。水分子およびガス分子(O2もしくはH2O)を流してTiO2表面との反応の光電子分光(XPS)によるリアルタイム計測を行った。超音速分子線により、改変した表面の反応性の変化についても検討を行った。室温ガス(0.03 eV)および超音速分子線(0.05~2.3 eV)を利用した。具体的な測定としては、以下の2点を行った。 
・大気中から導入した表面未処理のアナターゼTiO2へのNO分子線の照射(分子線発生装置のノズル加熱の有無による反応性の検証)
・清浄表面および水吸着表面へのNO分子線の照射(ノズル加熱の有無による反応性の検証)  
参照試料としてルチル型TiO2(110)面において同様の測定も行った。実験は表面化学実験ステーション(BL23SU)にあるXPS装置を用いて行った。  
これまでの実験では、超音速NO分子線の並進エネルギーやノズル温度、また、照射される表面の状態に依り、形成されたN1s状態が異なっていること(TiN、TiON等の比が異なっている)が観測されている。また、清浄表面と水吸着表面では、NO分子線との反応性が異なっていることも観測されており、表面のOH基がN1s状態の形成に深く関わっているだろうと推測している。これらについて、現段階では大まかな変化のみが観測できているに留まっている。そのため、NO分子線による反応でのN1s状態の密度(吸着量)はあらかじめ表面に存在するOH基に依存しているのか、並進エネルギーを変化させると反応性が変化するのか、NO分子の振動励起の有無により反応性が変化するのか、といった反応制御を決定する基礎的な支配的な反応因子や条件、また、それに付随するNO分子のドーズ量による反応過程については未だ明らかにできていないため、それを明らかにしたいと考えた。

結果と考察 / Results and Discussion

以下の2つのパラメータの依存性について、超音速分子線照射中におけるリアルタイム放射光X線光電子分光解析を行うことで、超音速NO分子線照射によりN元素との反応条件、反応素過程について調べた。
 (1)表面状態:水分子吸着量の異なる水吸着表面(存在するOH基の数が異なる表面)
(2)超音速NO分子線のノズル温度によるNO分子振動励起の有無(室温(振動励起無)、1150 ℃(振動励起有))  
(1)に関しては、表面処理を行わないアナターゼ型TiO2(001)へのNO分子線照射による反応について理解するために、真空中で表面清浄化処理を行った清浄表面と水分子を吸着させOH基で被覆した表面へのNO分子線照射による反応の比較を行った。清浄表面へNO分子線を照射した際には、酸素欠陥を示すTi2pの低価数成分の減少が確認された。しかし、N1sの状態が観測できなかったことから、表面でのNO分子の吸着、及び、反応は起きなかった。一方、水分子を吸着させた表面へNO分子線を照射した際には、O1sのOH成分ピークの減少、Ti2pの低価数成分の減少が観測されるとともに、N1s状態が観測できることから、アナターゼ型TiO2(001)表面でNO分子が反応したことが確認できた。また、観測できたN1s状態の成分分析を行ったところ、分子吸着成分や単原子吸着成分は観測されなかった。また、Ti-O-N結合成分が観測されていることから、表面で化学結合が起きていると考えられる。  
(2)に関しては、照射される分子線におけるNO分子の振動状態が反応性に影響を与えるかについて調べるために、分子線ノズルが室温の場合(分子振動無)と1150 ℃に加熱した場合(分子振動有)についてNO分子線照射の反応を調べた。今回の実験では、N1s状態の成分強度は加熱ノズルによる分子線の方がわずかに大きい結果となった。ただ、この結果については厳密な表面の初期状態にも依存するため、今回の実験だけでは、分子振動が反応性に影響を与えるかについて、はっきりと結論付けることはできない。そのため、次回以降のマシンタイムで再現性も含めて詳細に調査する必要があると考えている。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Daiki KATSUBE, Restoration of Oxygen Vacancies on an Anatase TiO2(001) Surface with Supersonic Seeded Oxygen Molecular Beam, Vacuum and Surface Science, 65, 526-530(2022).
    DOI: https://doi.org/10.1380/vss.65.526
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 勝部 大樹、大野 真也、金 庚民、津田 泰孝、稲見 栄一、吉越 章隆、阿部 真之、”アナターゼ型TiO2(001)表面への超音速NO分子線の照射”、2023年第70回応用物理学会春季学術講演会、18a-D519-2、上智大学四谷キャンパス、2023.3.15-18.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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