【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.03.30】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23KT0037
利用課題名 / Title
meV分解能STEM-EELSによる光学フィルムの構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
京都大学 / Kyoto Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/ Electronic microscope,ナノシート/ Nanosheet
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
川崎 直彦
所属名 / Affiliation
東レリサーチセンター
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
稲元伸,大塚祐二
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
治田充貴
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),機器利用/Equipment Utilization
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
KT-403:モノクロメータ搭載低加速原子分解能分析電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
高分子材料の分子構造解析は赤外吸収分光法やラマン分光法を用いて行われるのが一般的であるが、その空間分解能は回折限界により数100 nm程度までしか実現できない。ナノメートルオーダーで構造が形成された各種デバイスや機能性フィルム等に使用される有機材料に対して、より高い空間分解能で構造解析を行う要望が高まっている。本課題では、透過電子顕微鏡で測定する電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)を用いて、高分子材料に対する電子ビーム照射ダメージに注意しながら、分子構造解析に用いる赤外領域の良好なスペクトルを得ることを試みた。
実験 / Experimental
PETフィルム(厚さ170 um程度)/ハードコート層(アクリル樹脂)で構成される市販の光学フィルムの表面にエポキシ樹脂を堆積させた後に、ウルトラミクロトームを用いて厚さ数10 nm程度の断面試料を作製し、ホーリーカーボングリッド上に載せてSTEM-EELS測定を行った。分子構造に関する情報を得るには100-200 meV程度の赤外領域のスペクトルが必要であるが、通常のEELSではゼロロスピークに埋もれて検出できないため、モノクロメータ搭載低加速原子分解能分析電子顕微鏡JEM-ARM200Fを用いて加速電圧60 kVで測定を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
図1に断面BF-STEM像を示す。ハードコートとエポキシ樹脂の界面に認められるPt薄層は、試料最表面を認識するために、断面試料作製前に堆積させた。ハードコート層の厚さは2 um程度であると言える。図2に各層から得られたEELSスペクトルを示す。今回の測定条件ではゼロロスピークの半値幅は50 meV程度であり、100-200 meV付近において各層のスペクトル間の違いを明瞭に認めることはできなかった。
次に、TEM試料用グリッドの無機カーボン膜から同一測定条件でスペクトルを取得すると、図3に示すように、有機材料に比べて、ゼロロスピークの裾で強度がより顕著に低下することがわかる。グリッドは無機材料であり、有機物のような分子構造を持たないため、このエネルギー領域での散乱確率、つまりスペクトル強度が低いと考えられる。そこで、このグリッドからのスペクトルを各有機層のスペクトルのバックグラウンドと見なし、50 meV付近で強度を一致させた後に、各層のスペクトルから除去した。図4に示す除去後の各層のスペクトルを見ると、120-160 meVでの強度極大位置が異なり、ハードコート、PET、エポキシ樹脂の順に高エネルギー側へシフトする様子が認められる。つまり、分子構造の違いに由来する可能性のあるスペクトル差をEELSで得ることができた。しかし、バックグラウンドを除去しないと認識できないような僅かな差であり、分子構造の評価に用いるにはさらなるエネルギー分解能の向上、測定条件のさらなる最適化が今後の課題である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. 光学フィルムの断面BF-STEM像
図2. 各層から得られたEELSスペクトル
図3. PETフィルムとカーボングリッドのスペクトル比較
図4. バックグラウンド除去後の各層のスペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
測定の際にご指導を頂いた、京都大学化学研究所先端ビームナノ科学研究センター 治田充貴准教授に感謝申し上げます。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件