利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.07.31】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22AE0004

利用課題名 / Title

時分割XAFSによるガラス中のスズイオンの高速な酸化還元と錯形成カイネティクスに及ぼす酸濃度や錯化剤の影響の解明

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

時分割XAFS, 酸化還元, カイネティクス, スズ, 鉄, 分析化学


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

中瀬 正彦

所属名 / Affiliation

東京工業大学 科学技術創成研究院 福島復興・再生研究ユニット

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

菅野直樹,西條佳孝,針貝美樹

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

松村大樹,辻卓也

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-006:エネルギー分散型XAFS装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

産業界の多方面、多用途で用いられているガラス材料には原料やその不純物としてFeが含まれ、Fe2+およびFe3+として存在する。例えばソーダライムガラスでは、Fe3+は400 nm付近に鋭い吸収があり、ガラスに黄色味を与える。Fe2+は100 nm付近を中心としたブロードな吸収を持ち、Fe3+より2桁大きい吸収係数を持つ。可視光領域にまで裾野が広がった吸収により、薄青色を呈する。通常はこれらが混在するためソーダライムガラスは緑色をしていることが多い。またFeに関係する着色としてビール瓶に用いられる琥珀色~茶褐色のアンバー発色は、カーボンを添加した還元状態での溶解により得られ、Fe3+とS2-の相互作用で生じると考えられている。この様にガラス中のFeの酸化還元状態は着色に強く影響を与える。一方、ガラスの特性の調整や清澄のためにガラスに微量成分として酸化スズ(SnO、もしくはSnO2)が添加されることがある。ガラス中のSnは可視光範囲内で吸光度係数が小さく直接ガラスの色味に与える影響は小さいが、物性に大きな影響を与える。一方、高温で溶解したガラス中でSnはFeの酸化還元状態にし、ガラス色調を変化させるため、ガラス中のSnとFeの酸化還元状態の把握が重要である。ガラス中の微量多価元素分析手法で、一般的な化学実験室で評価できる多価元素は限定される。そこで我々は一般的な化学実験室にてSn共存下のFeの価数分析を可能とするため、溶媒抽出法を援用することとした。多価イオンの価数を保存したままガラスを溶解させ、価数選択性を有する抽出剤で特定価数の元素を水相から有機相に分離することで容易に価数分析が可能な手法確立を目指している(図1)。鍵となる酸化還元速度について、時分割XAFSで調査した。

実験 / Experimental

図2にBL14B1で実施したSn-K吸収端の時分割XAFS実験の概略を示した。石英セル(10×10×50 mm、光路長 10 mm)に、標準として50 mmol/LのSnCl4溶液、試料として酸濃度を調整したSn2+を10 mmol/Lとなるように設置した。標準試料を計測後にステージを移動させ、資料の測定を開始した。測定開始60秒後に、遠隔操作によって濃厚なFeCl3溶液を石英セル内のSn溶液に滴下し、任意の濃度となるようにした。マイクロチップを用いた攪拌により攪拌律速とならないように調整した。得られたデータは動径構造関数から配位数、結合距離、デバイ・ワラー因子、エネルギーシフトを導出し、その経時データを整理した。

結果と考察 / Results and Discussion

図3にBL22XUで取得したSnCl2とSnCl4のXAFSスペクトルを示す。SnのK吸収端はSn2+からSn4+に変化すると高エネルギー側にシフトし、シフト量からSnの価数存在割合を見積もることができる。これをベースとし、図4に時分割XAFS測定で得られたスペクトルの吸収端位置の変化をプロットした。なお、変化が止まった段階の吸収端エネルギーを1と規格化した。HCl濃度の減少に伴い、Fe3+とSn2+の酸化還元反応が抑制された。これは同じ実験をUV-Vis分光法によるFe3+→Fe2+の変化を調べる実験の結果と一致した。一方で図4の塩酸濃度0.1mol/LかつFe3+を滴下しない条件では、放射光のみによっても、ゆっくりではあるが価数変化することが確認された。また、塩酸濃度が高い場合には、定常時の錯体がクロル錯体となり吸収端位置が若干低エネルギー側となることも確認された。これらを考慮して補正を行い、速度定数を導出し、価数変化に及ぼす酸濃度の影響などを評価した。これらにより、抽出による価数分析の基礎的な知見が得られ、実機適用へと検討が進んだ。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 本研究で目指す価数選択制を有する抽出剤を用いたラボ環境での元素価数分析スキーム



図2 時分割XAFSの実験概略



図3 SnCl2とSnCl4のXAFSスペクトル



図4 Snの時分割XAFSにより得られた吸収端エネルギー変化に及ぼすFe3+と酸濃度の影響


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 菅野直樹, 中瀬正彦, 西條佳孝, 秋山良司, 松村大樹, 辻卓也, 竹下健二, 塚原剛彦, D2EHPAによるSn2+, Sn4+, Fe2+, Fe3+の抽出挙動と速度論的考察, 日本溶媒抽出学会第41回溶媒抽出討論会, 東京, 11月24, 25日, 2022
  2. Naoki Kanno, Masahiko Nakase, Yoshitaka Saijo, Daiju Matsumura, Takuya Tsuji, Kenji Takeshita, Takehiko Tsukahara, Valence separation of Fe and removal of Sn2+ by solvent extraction as a potential method to determine Fe2+ in glass containing Sn2+, International Symposium on Zero-Carbon Energy Systems(110-12, Jan, 2023).
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

スマートフォン用ページで見る