【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.09】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22AE0001
利用課題名 / Title
金属錯体化学種を正極とする高性能二次電池の反応機構解明
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
ポリオキソメタレート,XAFS,酸化還元反応
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
吉川 浩史
所属名 / Affiliation
関西学院大学工学部
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
若松勝洋
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
松村大樹
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年、地球規模での環境問題やエネルギー問題などから、新しいエネルギー材料の開発が急務となっている。中でも高性能な蓄電機能や電池特性を有する物質の開拓は、重要な研究課題の1つである。これまでに我々は、多核金属錯体分子(分子クラスター)の1つであるポリオキソメタレート(POM)を正極活物質とするリチウム電池が、200 Ah/kg以上の電池容量と50~100回のサイクルを経ても初期容量の95%以上を保つ高いサイクル安定性を示すことを見出した。本研究では、このフルセル正極への応用を目指して作成したPOMリチウム化合物について、X線吸収微細構造(XAFS)分析を行い、その電子状態や構造を明らかにし、高い電池特性を有する二次電池の正極に利用できるかを検討することを目的とする研究を行った。
実験 / Experimental
近年、地球規模での環境問題やエネルギー問題などから、新しいエネルギー材料の開発が急務となっている。中でも高性能な蓄電機能や電池特性を有する物質の開拓は、重要な研究課題の1つである。これまでに我々は、多核金属錯体分子(分子クラスター)、プルシアンブルー金属錯体(PB)、金属有機構造体(MOF)といった金属錯体化学種が、高性能な二次電池の良い正極活物質となることを明らかにしてきた。とりわけ、[PMo12O40]3-クラスター(POM)を正極活物質とするリチウム電池は、200 Ah/kg以上の電池容量(LiCoO2などを正極とする現在汎用的なリチウムイオン電池の容量は150 Ah/kg)と50~100回のサイクルを経ても初期容量の95%以上を保つ高いサイクル安定性を示すことを見出した。本研究では、フルセル正極への応用を目指して作成したPOMリチウム化合物について、X線吸収微細構造(XAFS)分析を行い、その電子状態や構造を明らかにし、高い電池特性を有する二次電池の正極に利用できるかを検討することを目的とする研究を行った。 POMと様々な量のLi金属をボールミル中で混合し、Lix[PMo12O40] (x= 2,4,6,8,10, 12, 14, 24)と推定される化合物を不活性雰囲気下で作成した。これらはMoが6+から還元されている化合物であり、これを正極、グラファイトを負極とする二次電池の実現が大変期待できる化合物群である。ここでは、これらの電子状態と構造変化を検討するためにMo K-edge XAFS測定を試みた。具体的には、これらをグローブ内で乾燥したBNとよく混合し(比率は重量比で3:7)、これをペレットにして、グローブ内でラミネートパックに封じ、取り出したのち、透過法でXAFS測定をおこなった。一般的なMo K-edge XAFS測定のステップで測定することとし、1スペクトルを得るのに20分程度かかった。得られたスペクトルについてXANES領域およびEXAFS領域に分けてAthenaにより解析を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
図1にこれらのMo K-edge XANESスペクトルを示す。これより、Liの数が多いほど吸収端が低エネルギー側にシフトし、Moイオンが元の6+から還元されていく様子が見受けられた。標準サンプルであるMo foil(Moは0価), MoO2(Moは4価), MoO3(Moは6価)の吸収端エネルギー(ノーマライズされたスペクトルにおいて強度0.7のときのエネルギー)を用いて、価数と吸収端エネルギーに線形関係があると考え、今回測定したサンプルの吸収端エネルギーからMo平均価数を算出したところ、各サンプルのMo価数は図2のようになった。これより、Liが増えるほどMoは還元され、最終的には、Li24POMサンプルでMoはすべて4+をとることが分かった。これは、Li24POMにおいてPOMが24電子還元状態にあることを意味する(POM1分子に12個のMoが含まれているため)。図1にこれまでに我々が報告したPOMの電池反応における放電(状態24電子還元状態、JACS24POM)でのXANESを示すが、Li24POMの吸収端エネルギーがほぼ同じであることから、今回金属リチウムとの直接反応によってこれを実現できたといえる。一方で、この2つのスペクトルにおいては、pre-edgeピークに関して違いがあり、JACSPOM24ではこれが消失しているものの、Li24POMでは強度が下がったのみで存在していた。このピークはMo周りの対称性やMo=Oダブルボンドを表していると考えられ、その部分における違いが示唆された。
さらに、この構造的な違いを議論するために、EXAFS領域の解析をおこなった。その結果、図3のようになり、Li2POMからLi24POMになるにしたがって大きな変化が見られ、特に、Mo-Mo結合の形成を示唆する3.0オングストローム付近のピークがLi24POMでは観測され、これはJACSPOM24のEXAFSとほぼ一致すると考えられる。より詳細な構造解析については現在進行中である。
このように、従来は電池反応でしか得られなかったPOM超還元状態をLi金属との直接反応で得ることに成功し、さらにこれらがLiを含んでいることから、フルセルの正極として応用可能であることが示唆された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1、Mo K-edge XANESスペクトル
図2、Mo平均価数変化
図3、Mo K-edge EXAFS スペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Katsuhiro Wakamatsu, Electron Storage Performance of Hybrid Materials Comprising Polyoxometalates and Carbon Nanohorns as Cathode‐Active Materials, Batteries & Supercaps, 6, (2022).
DOI: doi.org/10.1002/batt.202200385
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Katsuhiro Wakamatsu, Electron Storage Performance of Metal–Organic Frameworks Based on Tetrathiafulvalene–Tetrabenzoate as Cathode Active Materials in Lithium- and Sodium-Ion Batteries, ACS Applied Energy Materials, 6, 9124-9135(2023).
DOI: https://doi.org/10.1021/acsaem.2c03537
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件